第14話

 Vtuberプロジェクトに参加したら、タレントの一人が同小出身でした。


 なろう小説が出来上がってしまいそうなタイトルが僕の脳裏に過ぎった。


 まさかカウンターキッチンで知人が料理を作っている様子を見守る日が来るとは思ってもみなかった。


 しかも葉月くんはめちゃくちゃ手際が良くて、美味しそうな匂いも漂ってきた。


 お母さんの作る食事を待つ子供の心境って、こんな感じなのかな……。


 家族ともあまり食卓を囲まなかった僕がそう思うくらい、葉月くんの包容力は当時の何倍も深まっていた。


「はい、お待ちどおさま。ドレスドオムライス葉月スペシャル!」


 そう言って葉月くんはワンプレートを僕の前に置いてくれた。


 渦が巻かれたふんわり卵にたっぷりかけられたデミグラスソース。


 しかもサラダと野菜のスープのカップ付きと、栄養バランスも考えられていたのだ。


「……すげぇ」


 料理の腕もプロ級って……神様、葉月くんに才能を授けすぎじゃないですか?


「熱いから気を付けてね」


「……子供じゃないんですから」


「あっ、ごめん! 弟や妹たちにいつも言ってるから、ついね」


 いいなぁ弟妹さんたち、こんな素敵すぎるお兄さんがいるなんて。


「……じゃあ、いただきます」


「召し上がれ。オレもたーべよっと!」


 添えられたスプーンを手に取って、さっそくオムライスを一口食べてみた。


「…………」


「尚人くん……?」


「……なにこれ」


「もしかして、口に合わなかった?」


 そんなわけがない。


 僕はひと口目を味わうように咀嚼して飲み込んだ。


 そしてすぐにふた口目をすくって、すぐに口に運んだ。


 どうしよう……手が止まらない。


 半熟ふわふわの卵とバターが香るチキンライス。


 そしてあの短時間で出来たとは思えないほど深みのあるデミグラスソース。


 サラダのドレッシングも、野菜スープも、元々ない語彙力が消滅するほど絶品だ。


 僕、こんなに食欲あったんだ……。


 もっと食べたい、と心から思った食事は一体何年ぶりだろうか。


 すると安心したように見守っていた葉月くんが言ってきた。


「おかわり、いる?」


「……あるんですか?」


「いっぱいあるよ〜。実家にいるテンションで作っちゃったから作りすぎちゃって」


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 僕が綺麗に平らげたプレートを手渡すと、葉月くんは嬉しそうに受け取ってくれた。


 はぁ……葉月ママって呼びたい。

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