第13話

 おっかなびっくりに室内を覗き込んでみる。


 建物のなかは外観の通りで……とにかくオシャレだった。


 靴を脱いで一歩、上がってみると足元に何かが寄ってきた。


「キューイ」


 可愛らしい機械音が聞こえてきたので足元を見てみる。


 一番比喩するに近い動物は、ペンギンだろうか。


 するとSEAの図書室にいるペット型ロボット『エタ坊』と同じ機種のロボットが近寄ってきた。


 ここにもいるんだ……。


 これが本物のペットとかじゃなくて良かった。


 動物はちょっと苦手だから。


「キューイー」


 構って欲しそうにくるくる回るペット型ロボットに、思わず笑みが零れる。


 僕はそっと頭を撫でてからそのまま室内を進んでいく。


 廊下を少し歩いて目に飛び込んできたのは、とにかく広く、快適そうなリビングだった。


 それこそ複数人の男女によるリアリティーショーとかで出てきそうな光景だった。


 ……あのー、ここ、Vtuberプロジェクトの専用寮ですよね??


 場違い感を感じつつも、あまりの物珍しさから不躾なくらい周囲を見回してしまう。


 そのままキッチンの方へ目を向けようとすると……


「よいしょっと……あれ?」


「うわあ……っ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


 キッチンから唐突に顔を出してきたのは、茶髪のイケメンだった。


 少女漫画から飛び出してきたかのような、爽やかな雰囲気のイケメンだ。


 思わず腰が引けてしまっていると、イケメンは僕に声をかけてきた。


「お疲れ様。プロジェクトの参加者……だよね?」


「……そうですが」


「良かった~! お昼過ぎても誰も来なかったから心配してたんだ~」


 この人……すごく優しい人だ。


 一瞬でそう思わせてくれるような、優しさが溢れ出ているような穏やかな声だった。


 しかも滑舌もめちゃくちゃいいし、はきはきしてるからすごく聞き取りやすい。


 芸能人級のルックスをしているし、おそらくエンターテイナー学科の人だろう。


 だけど僕のなかで警戒心がすぅーっと薄れていた。


 それ以上にワクワク感が増している気さえした。


 誰がメンバー査定したか知らないけど……分かってるなぁ、彼を推薦した人。


「オレは平野葉月。声優専攻2年。よろしくね」


 先輩だった……!!


 おまけに声優専攻……なるほど、発声がしっかりしているのも納得だ。


「君は?」


「……灰原尚人。マネージャー専攻1年……です」


「灰原……尚人?」


 えっ、なんで首傾げるんですか……?


 急に違和感を覚えたように眉をひそめた彼に、僕は思わず身構えてしまった。


 彼はしばらく自分のなかで思案に暮れていると、突拍子もない質問をしてきた。


「君、どこ小出身?」


 現実でこんな質問されることあるんだ。


 しかも中学校じゃなくて、小学校を聞かれるなんて……。


 僕は不審に思いつつも、正直に答えた。


「……市立南十四小学校、ですけど」


「あぁーっ、やっぱり!!」


「ふぇっ……!?」


 なんで急に大声を上げるんですか……!?


 と思ったら、彼はキッチンから駆け寄ってきた。


 めちゃくちゃ目を輝かせて。


「尚人くん!? 尚人くんなんだね! 懐かしい~っ、久しぶりだね!」


「ひ、久しぶり……?」


 やばい全く身に覚えがなさすぎる……!!


 僕がガチガチに戸惑っていると、彼は何かに気が付いたようだ。


「あっ、そっか……。あの時は『平野』じゃなかったからね」


「は、はい……?」


 ますます意味が分からない。


 僕が大混乱に陥っていると、彼は自分を指さしてきた。


「『堀葉月』……って、言ったら思い出せる?」


「……堀、葉月さん?」


「遠足の時、同じ班だったでしょ? 尚人くん、かくれんぼ鬼してたら行方不明になっちゃったの覚えてる?」


 遠足、かくれんぼ鬼、行方不明……不登校。


 点と点が繋がって、鮮明に記憶が蘇った。


「……葉月、くん?」


「思い出した?」


「……はい。その節はご迷惑をおかけしました」

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