第11話

「プロデューサーさん! この前の面接、本っ当にありがとうございました!」


 だが彼女は僕の態度なんて気にせず、エレベーターから降りて駆け寄ってくる。


 そしてキラキラと目を輝かせて、彼女は僕の右手を両手で握ってきた。


 う、うわあ……顔が近い。


 まるで超絶美形な大型犬にじゃれつかれている気分だ。


「あの面接のあと、影山先生からプロジェクト合格の連絡が来たんです! あれからずっとお礼を言いたくて……っ!」


「あっ……はぁ……」


「本当にありがとうございました!! これからよろしくお願いしますね!!」


「……あ、そ、そんな……僕は何も……」


 ちょっと待ってほんとに眩しい……消える溶ける浄化される。


 思わずRabbyくんに目を向けて助けを求める。


 だが彼女のキラキラオーラに怯えたのか、静かに首を横に振った。


 いや分かる……その気持ちは同じ陰キャとして痛いほど分かる。


 だけどそれ以上に周囲の事務員や学生の視線が痛い. 助けて!!


「……あ、あの」


「はい、なんですか!?」


「……手ぇ」


「手?」


 絞り出すような声で呟いた僕に、彼女はすぐに我に返ってくれた。


「あっ、すみませんっ! 嬉しさが爆発しちゃってつい!」


「……い、いえ」


「アッシュ……この人誰」


 そうだこの二人、初対面だ。


 すると彼女は自ら簡単に自己紹介してくれた。


「初めまして! エンターテイナー学科タレント専攻1年、坂道ゆうです!」


「エンターテイナー学科……」


 Rabbyくんの声のトーンが明らかに下がったのを感じる。


 分かるよ……エンターテイナー学科の学生って9割9分が陽キャだし。


 すると坂道さんは弾んだ抑揚の声でRabbyくんに聞いてきた。


「もしかしてあなたもプロジェクトメンバーですか?」


「……ん」


 とにかく短く、とにかく不器用に、Rabbyくんは縦に頷いた。


 すると坂道さんは嬉しそうにまくし立てて来た。


「あなたもVtuberの演者さんですか!? ボクも演者として採用されたんです!」


「アーソウナンダ」


「明日、学生寮に引っ越しですもんね! これからよろしくお願いします!」


「アーヨロシクナー」


 Rabbyくんが棒読みちゃんになってしまった……。


「じゃあボク、お昼ご飯まだなのでこれで失礼しますね! 明日からよろしくお願いしますね、プロデューサー!」


「……あっ、はい、よろしくお願いします」


「はいっ! それじゃあお疲れ様です!」


 きちんと腰から深くお辞儀すると、坂道さんは小走りで校舎を後にした。


 その後姿を見送ると、Rabbyくんは僕に寄りかかってきた。


「ああー……怖かった」


「……勢い、すごかったね」


 僕も面接の時と印象が違いすぎて戸惑ったし、どっと疲れた。


 おそらく面接の時はガチガチに緊張していたんだろう……、と今となっては思う。


 元気が有り余った大型犬の相手をしたかのような、そんな力強いエネルギーを感じた。


「おれ引っ越すのやだ」


 よほどエネルギーを消費したのか、Rabbyくんはさらに寄りかかってきた。


 あんまり重たくないから、僕はそのまま寄りかかられながら、呟いた。


「……大丈夫だと思う」


「なんでだよ」


 完全に怯え切ってしまっているRabbyくんに、僕は自動ドアの向こうに目をやった。


「彼女……底抜けに良い人だから」


 面接で話しただけだけど、僕には分かる。


 彼女の態度が、言葉選びが、その声が……ちゃんと物語っているから。

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