第10話
面接室に入ってきたのはマニッシュな美少女だった。
モデル体型な長身とベリーショートヘアが相まって、男子に見えるかもしれない。
それでも顔立ちがすっごく可愛い。アイドルでもいけそうだ。
だけど挙動や表情はガチガチに固まってしまっていた。
「それじゃあ名前をどうぞ」
「は、はい! さ、坂道ゆうです! エンターテイメント学科タレント専攻1年ですっ!」
めっちゃ声が裏返っている。
だけどエンターテイメント学科かぁ、このルックスなら納得だ。
そして1年生……同級生なんだなぁ。
「そんなに緊張しなくてもいいぞ」
「は、はいっ!」
先生、多分それ、逆効果だと思います……。
僕は坂道さんを自分に置き換えて、ちょっと同情した。
落ち着けと言われると、余計にテンパってしまうのだ、分かりますその気持ち。
それから先生の形式的な質問に坂道さんは一生懸命に答えていく。
にしても、本当にいい声だなぁ……。
僕は必死になって質問に答える坂道さんの声を聞いていた。
ボーイッシュさと、女性らしい優しさが混ざりあった低音ボイス。
この声でかっこいい歌とか歌えたら、めちゃくちゃいいだろうなぁ。
歌唱力があったら可愛い歌も歌ってみて欲しいなぁ。
これでダンスも踊れたら3Dライブで絶対映えるだろうなぁ。
そんな心躍るような、夢が広がるような声だった。
だけど……このままだと坂道さん落ちてしまうだろう。
緊張しすぎて質問にすらちゃんと答えられてない。
手助けしても……いいんだよね?
だって……僕はプロデューサーを任されそうになってるんだから。
スイッチが入る、音がした。
「あの、坂道さん」
「は、はいっ!?」
「歌ってもらえますか?」
「…………」
3秒の、沈黙。
「ええーっ!? えッ、こ、ここで……ここでですか!?」
やばい言葉が足りな過ぎた。
僕は改めて坂道さんに聞いてみた。
「実際に歌ってもらえたら早いんですけど、もしくは映像とかに残してたりしませんか?」
「あっ、それなら授業で録画したものでよければ……」
「見せてください」
すると坂道さんは上着のポケットに手を突っ込んだ。
「あ、あの、スマホで恐縮なんですけど……」
「構いません」
僕の言葉に、坂道さんはおどおどしながらスマホを取り出した。
坂道さんは、僕と先生とを挟んだテーブルの中央にスマホを置く。
画面には学校のダンスホールと、かっこよくポーズを決めた坂道さんが映された。
腹をくくった、そんな目だった。
坂道さんの勇気と、決意と、覚悟の宿った目。
思わず固唾を飲んだ僕は、再生された動画に目を落とした。
エネルギッシュなBGMが流れる。
焦がされるような光の宿る瞳……目が離せない。
軽やかで、すごく楽しそうなステップ。
それでもキレが隠しきれないような、芯の強さを感じるダンス。
そして極めつけは……彼女の歌声だった。
どこまでも力強い歌声だ。
ただ強いだけじゃない。
弾けるような元気さも、時折見せる切なさも、何者をも寄せ付けない美しさも……。
私を見て!!
そう訴えかけるような、桁外れのエネルギー。
僕は……この時から彼女の虜になっていたのかもしれない。
こんなにも魅せられたら……もう、推すしかないじゃないか。
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