第6話

「すみません、きちんと説明していただけませんか?」


 色部さんの静かな声に僕は我を取り戻した。


「ほう、真っ先に飛びつかないんだな」


「当然です!」


 色部さんは椅子から飛び出る勢いで立ち上がった。


「学校の新しい専攻の先駆けになる企画を新入生に任せるなんて! しかもVtuberのプロデュース!? 無謀にもほどがあります!」


「まあまあ、落ち着け」


 影山先生になだめられて、色部さんは一旦、椅子に腰かけた。


 だがその表情はまだ言いたげだった。


 すると影山先生は僕たちに理路整然と説明してくれた。


「確かに無謀と思われるのも無理はない。ただ『君たちを推薦したい』という講師や教務が多くてな、今回は俺から説明させてもらったわけだ」


「ご期待していただけるのは嬉しいです。ですけど、あまりにも話が唐突すぎて『今すぐプロデュースしろ』と言われましても……」


「賢明だな」


 すると影山先生は急に僕へ声をかけてきた。


「灰原はどうだ?」


「はいっ!?」


「プロデューサー、なってみないか?」


 あまりにも真剣な影山先生の眼差し。


 その刃物のような鋭さから逃れたくて、僕は椅子ごと後ずさりした。


「む、無理です!! 無理無理無理無理!!」


「何故だ?」


 聞かなくとも分かるでしょ先生……!!


「だ、だって……プロデューサーなんて、僕なんかにできるわけが……」


「それは違う」


「……えっ?」


 先生……今なんて言いました?


 戸惑う僕に影山先生は真っ直ぐ僕の目を見て告げた。


「聞こえなかったか? それは違う、と言ったんだ」


「ち、違うって……何が……?」


 影山先生は理路整然と説明してくれた。


「俺は『プロデューサーになってみないか?』と言ったんだ」


「は、はい……」


「だが『君ならプロデューサーが務まる、君ならできる』と言ったわけじゃない」


「な、何が違うんですか……?」


 僕の言葉を影山先生は切り捨てる。


「そもそも『できるか、できないか』はその舞台に立ってからの話だ」


「………っ!」


「君はまだそんなことを言っていい立場にすら立てていない」


「…………」


 どうしてだろう。


 けっこうキツいことを言われているはずなのに、すっと腑に落ちる。


 自力で咀嚼しなくてもすんなり飲み込めた。


 思わず一歩を踏み出したくなる。


 僕の不安をことごとく打ち壊してくれる。


 影山先生の声には、言葉には、そんな力があるように思えた。


「もう一回聞こう……『Vtuberのプロデューサーになってみないか?』」


 再度、問われた言葉に……僕は輝かしい夢を見てしまった。


 正直言って、この眩さにときめいている自分もいる。


 大好きなVtuberを自分の手でプロデュースできるなんて……。


 試してみるだけなら……いいのかな?


「……なって、みたいです」


 気付いたら吐露していた。


 押し殺されていた気持ちが引っ張り出されていた。


 慌てて口を手で覆った僕だったが、影山先生の口角は上がっていた。


「分かった」


 なんだか影山先生の目論み通りになった感じが否めない。


 だけど……悪い感じはしなかった。


 これから目まぐるしいほど楽しいことが起こるといいな……。


 だってVtuber界隈はどこまでもカオスで、なによりも自由だから。


「……うへへ」


 あぁ思わず笑みが零れてしまう……。


「それじゃあGWに専用の学生寮へ引っ越す手続きを済ませてしまおうか」


「…………」


 影山先生、今なんて言いました?


「ついでだ。明日、プロジェクトの候補生の最終面接があるから見学して

みるか?」


「……はいぃっ!?」

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