第5話 個性が爆発しがち

「では早速、説明パートに入らせて頂く! 相手が字語句の軍団バッド・ワーズを名乗っているならこちらもある程度都合を合わせてあげるべきだ! 具体的にはちょっと国語に関係するようなワードを散りばめていくような」

「べきだ! って……。敵の都合でしょ?」

「質疑応答は説明の後! 字語句を名乗り、且つ小説をモチーフにしたボスって事は女性の敵キャラも居るかもしれん。悪役令嬢とか。そしたら俺は手が出せん。コンプライアンス的に」

「いや、誰も見てないし」

「世界を救う旅だぞ!? 後々書籍化しないでどうする!?」

「ええ……」

「という訳で君には女性の敵を中心に戦って欲しい。未来の読者の為にキャットファイトを繰り広げるのだ!」

「あたし、参加するの止めようかな……」


 俺は、呆れ顔の茉菜(仮)を無視して話を続ける。


「そして、さらに君がこの職業に就く事により、俺は助詞校正JKと旅ができるのだ! さらにさらに俺の【偏執エディット】で君を20歳にすれば18歳でありながらJKにして成人というパーフェクトな非実在青少年が出来上がり、読者、世間の全てが納得するのである!」


 完璧だ。これで何をしようが誰からも文句は出ない。登場人物に今のところ未成年は見当たらないからな。後は、性的搾取云々に引っ掛からないよう万全を期すのみだ。ファイトだ!


「で、仲間はもういいのかい?」

「待て、後二人だ。いきなり男女二人で旅を始めるのは無理がある。序盤からイチャイチャ展開は反感を招くかもしれん。バランスも考えて男1、女1だ」

「いや、いくらイケメンでもこんな便秘の大腸見たいな奴とイチャイチャできねーし」


 中身がクソってことか。上手いこと言うじゃないか。っておいおいおーい! 誰がクソやねーん!


「じゃあ、まず男ね。暇な男は……どうしよう、国籍を絞っても10万人もいる」

「ヒエッ……」

「簡単な精神鑑定だけかけてくれればいい! もうちょっと絞ろう」


 Now Loading……


「5,928人になったよ!」

「俺達的にはOKだが、世界やばくね」

「後はもう、マッチングの要領で君達に最適な男を一人選ぶよ」

「なんかもう仲間になる事確定してるし」


 Now Loading……


「え、なんですか。ここ」

「ようこそ、勇者パーティーへ」


 やってきたのは何の特徴もないただの眼鏡をかけたおっさんだった。たぶん、自分を主人公にざまぁチーレムを築き上げてる最中だったのだろう。まだ、作り込まれていないアバターはひょっとすると現実の彼を表しているのかもしれない。


「あれ、ついにインスタやり過ぎて死亡からの異世界転生キタ!?」

「残念。ここはまだ、インスタントワールドの中だ」


 近年では、インスタントワールドを省略してインスタと呼ぶこともある。自分の世界観を世に公表してイイねをもらうのが生きがいのような奴もいて、俗にいう“インスタ映え”を狙うのが専らの活動だ。彼はどうも違うようだが。


「これから、こちらの女神さんからこの世界について説明があります。ご清聴ください」

「なんかよくわからんけど、人のダイブに巻き込まれてるなコレ。都市伝説じゃなかったんだ」


 おじさんの感想はさておき、ダイブの混入と言うのはナーロウシステム黎明期からまことしやかにささやかれてきた噂だ。通常、他人とのダイブがかち合う事など、システムの構造上ありえないのだが、SNSや怪しいブログサイトではそれらしい体験談を語る奴が後を絶たない。実際、ナーロウの暴走を見るにあり得ないという事はあり得ないのかもしれない。


「そういえば、あたしはアバターのままでいいの?」

「非常にマズイ。著作権の問題があるので、早急に代わりの姿をナーロウに用意させよう」

「女神様! 話の途中で悪いが早急にこの子を俺好みの容姿に変えてくれ!」

「なんであんた好み!?」


 大事なことを聞き忘れていた。俺は、非実在JKの方に向きを正すと、真面目な顔で聞いてみた。


「差支えなければ名前を知りたい。あの子やこの子じゃ困るからな」

「下の名前だけなら構わないけど……先に名乗ってよ」

「おお、これは失礼。俺の名前は荒波 錬だ」

「え!? 荒波 錬てあの零号機名義で小説書いてた人!?」


 なんで身バレしてるのかわからんが説明は不要なようだ。


「今何とおっしゃいました!?」


 おじさんの方までこちらの話に喰いついてきた。おとなしく説明を聞いていて欲しいものだが。


「零号機さんと言うとこのインスタの着想の原点になったという噂のグッバスの作者さん!?」

「ま、まぁ……。一応そういう事ですかね」

「アニメ見てたー! クソみたいな序盤から神の終盤に持っていく手法が完結の魔術師って話題になってたよね!」

「そうそう! 終わり良ければ全て良しの体現者!」


 うっせー、ぶっ飛ばすぞ非実在JKとニートのおっさん! あれは、もうほとんど俺の手を離れたミサイルだ。俺は発射台にセットしただけ。作画頑張ってくれて本当に感謝しかない。


「アニメやコミックは色々自分以外の手も入ってますからね、ハハハ」

「あ、あたしは阿澄あすみ! 未成年なので個人情報はこれ以上避けとくね」


 うむ。ネットリテラシーはさほど低くないみたいだな。素晴らしい判断だ。特に若い女子とあってはどんな情報が身を危険に晒すかわからん。


「僕は賢二けんじです。41才、独身! 無職! 好きなものは若い女の子で……」

「あ、ちょっとちょっと、ロリコンは御時世柄遠慮したいんですが」

「何を言う! 僕は犯罪に手を染める気は全くないぞ! 愛でるのが好きなだけだ! 因みに18才はギリギリセーフだ!」

「はーい、じゃあ、アウトでーす! 無職のおっさんが18才以下の女の子愛でるなんてもはや犯罪なんよ」

「くっ……、世知辛い……」



「あの、説明に戻っていいかな?」

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