第4話 ヒロイン出現しがち

 前回、過剰な引き演出があったことをお詫びいたします。これから語られるのはごく普通のごく一般的な提案です。


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「魅力的な提案その2、仲間を作ろう!」

「ほう!」

「人気作品において実に91.2%の確率でヒロインが存在し、又はその存在が示唆されている!」


 なるほど、AIらしい提案だ。俺の横にヒロインでもあてがっておけばホイホイ誘いに乗ると思われているんだろう。


 大正解!!!! 大変よくできました!!!


 というか、提案されなかったらこっちから提案しようかと思っていたところだ。この戦い、一人じゃちょっと厳しいし、寂しい。


「いいぞ……、ヒロインの存在はもはや必須と言ってもいい。オラに……オラにもっと力を分けてくれ!!」

「最近の傾向として、おっさんとJKという……」

「ああ、あのうまいこと処理しないと現実だと蛇蝎の如く嫌われるやつな! ってか誰がおっさんか! まだ二十代だわ!」

「という訳でユーザーのアクセス履歴等から暇人を探しますので少々お待ちください……。Now Loading……」


 暇人て。世界を救うかもしれない冒険に暇人て。確かに時間がかかりそうだが……んっ?


「ちょっと待て。俺は何時間ダイブさせられるんだ? まさかボスを倒すまでセーブできないなんて言うなよ? 大昔のゲームじゃあるまいし」

「大丈夫です。しおりはこちらで都度差し込みます。良きところでダイブアウトしてください」


 よかった。8時間でクリアしろとか周回プレイでもない限り無理だ。ましてやRPGを。


「あ、一つ大きな問題が。18歳未満を召喚すると内容に著しく制限がかかります」

「この際、18歳でいい。高校卒業して引きこもりニートしてる奴ならこのご時世いなくもないだろ」

「……Now Loading……」


 さて、どんな子が引っかかってくれるか……。いや、引っかかるという言い方は良くないな。仲間になってくれるか、だ。


「国籍を日本に絞ると46人がヒットしました」

「46人!」


 高校卒業したての女子ニートがそんなにいるとは。この国は一体どうなってるんだ!


「全員召喚して赤穂浪士の名前つけよう! 俺、大石~! あ、もちろん内蔵助の方ね」

「駄目です。あ、この子にしましょう。ねっ、今から連れてきますから。只でさえ時間押してますから」


 女神の格好をした“ナーロウ”は手を組むと祈るようなポーズで光を放った。すると、目の前の地面に魔方陣らしきものが現れ、一人の女子がその中心に立っていた。正体がわかってからもこういう演出は欠かさないところが憎らしい。


「え、何ここ。蒼太君は!?」


 どうやらダイブ中に無理やり連れてきたらしい。あのショートカットの美少女は確か『転生王子が私にベタ惚れすぎる』のヒロイン、茉菜まなだ。恋愛小説も押さえておくのは今や常識だ。


「そういえば、俺は今どんなアバターになってるんだ? てっきり自分のつもりで外に出てきたけど」

「ヒロイン呼ぶと思ってそれなりにイケメンにしときましたよ! 人気俳優の顔を合成しました!」


 優秀なAIだ。オメガパレスの開発担当には拍手を贈りたい。最もそいつのせいで妙なことになってるわけだが。


「今から壁際だったのに!!」

「壁ドン5秒前のところ申し訳ないが少々立て込んだことになっててな」

「そもそもどこココ!? 誰かのダイブに巻き込まれてるの!? バグ!?」


 素晴らしい。概ね正解だ。彼女とてダテに廃ダイバーをやっている訳ではないらしい。


「詳しくはそこの女神から話を聞いてほしい」


 という訳で、ナーロウの説明が終わるまでに今後の方策を考えた。まずはパーティー構成だ。男女二人旅もいいが全滅の危険性を考慮すると数は多過ぎず少な過ぎず、大体3~4人が望ましい。4人なら男1:女3の割合にしたいところだが、ハーレムをまとめ上げる力量は俺にはないだろう。この物語は別にハーレム人気なんて狙わなくていいしな。あわよくば道中でそれらしく仲間を加えればいい。という事は後、男一人、女一人だが……。


「何それ、絶対嫌!」


 ナーロウが説得に失敗したらしい。


「そう言わずに……。君の大事な蒼太君がモンスターに変わっても知らないぞ?」

「なんであたしなのかそれすらも意味わかんないし」


 ここは、事実を避けた方がいいだろう。暇人集めてデバッグ作業なんて事実を陳列したところで興味をそそられる輩などいる訳もない。


「君の中に眠る可能性をナーロウが見出したんだ。恋愛小説への造詣の深さ、愛の深さ、欲の深さ。“ディープ・ダイバー”としてね」

「何それ。言ってて恥ずかしくないの? こじらせおじさんは巣にお帰り?」


 辛辣、辛辣ゥゥゥゥゥッ!!! この女、口が悪いです。仲間としては不適格です。ナーロウさん!!

 

「わかったわかった。『インスタントワールド』の課金要素を一生免除しよう。君一人の課金額ぐらいシステム全体の利益を天秤にかければ安いものだ」

「えっ! 本当!? でも長時間拘束ってなるとなぁ……」


 こいつ……システムにいくら課金してるか知らんが、天秤にかけるものを間違ってるぞ……。まあ、別にいいか。


「俺が守る。約束する」

「え……、イケメンの顔でそれ言うのは反則」


 ククク……、計算通り!!


「この子の職業とスキルは俺に任せてほしい。偏執の見せ所じゃけぇ」

「そこまで言うなら任せよう」

「言い知れぬ不安が……」


 俺は手をかざすとそれっぽい雰囲気で茉菜(仮)に向けた。


「汝の職業はこの時を以て『助詞校正じょしこうせい』とする! さらに、スキルは『女同士特効じょどうしとっこう』を授ける!」


「は?」


  は? ってことはないだろ。一生懸命考えたのに。

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