第3話 ステータスオープンしがち
「どういうことだ……?」
俺は目の前の豊満ワガママ全開ボディのお姉さんに問いかけた。ゲームやラノベの世界じゃあるまいし、ふざけるのも大概にして欲しい。なんでこのオッサンは固まってるんだ。パフォーマーか?
「いや、君ならわかるだろ。バグだよ。バグ」
「バグ?」
待て待て。俺は確かにインスタントワールドの電源は落としたぞ。ここは、現実のはずだ。
「ここは現実だぞ、みたいな顔をしている」
心を読まれた!? と思ったが、誰だってそう思うに決まってる。実際そんな顔もしているはずだ。
「残念。ここはまだ『インスタントワールド』の中だ」
「いやいや、俺は電源を落として現実に帰還したはずだ」
「――という物語にされてしまったんだろう」
残念ながら俺はこの手の導入を腐るほど経験してきている。よって、大まかな状況は瞬時に理解できてしまった。
「お前、AIのナーロウか?」
「ご明察」
色々聞きたいことはあるが、まずこれだ。
「この状況は一体?」
「いや、本当に安直で申し訳ないんだが、ここはまだインスタントワールドの中なんだ。実は僕のシステムの一部にバグが発生していてね」
なるほど、次はこれだ。
「目的は?」
「話が早くて助かる。単刀直入に言うと世界を救って欲しい」
ナーロウによると、自身の一部がバグってインスタントワールドの掌握を目指しているらしい。目的は洗脳。確かに世界に何億とも言われるユーザーの脳に直接働きかける事が出来るのだからこれが完了したら恐ろしいことになる。
「システムの管理者にお願いした方がいいんじゃない?」
「その、システムの管理者が所謂世界征服を目指しているんだ。つまりバグは意図的なものと言える。すでに30%ぐらいのユーザーがこの世界に取り込まれてしまっているから事は急を要する」
世界征服とか夢見るのは中学生までにしとけよ。全く。ああでも、現実的な手段で目的を達成しようとしているのだから馬鹿には出来ないか。洗脳によって投票を操作できたり、それこそ軍を作る事だって可能だ。装置が馬鹿みたいに安いのもその下準備か!
「奴らは
バッド・ワーズのザーマね。はいはい。だせぇ名前だな。
「四天王にチィト、チートではないぞ。チィトだ。それにハレム、コニャックとその使い魔、覇鬼。そしてツイフォン」
なるほど! ざまぁにチートにハーレムと婚約破棄、追放をぶちのめせばいいわけね! こいつは胸が高鳴るぜィ!
「なんでまた女神の格好を?」
「異世界への導入は67.2%の確率で女神が採用されている。だから、このようにユーザーの大好きなお色気と可愛さを兼ね備えた姿を取ってみたわけだ」
素晴らしい。さすがは万能AI。ユーザー心理を確実に芯でとらえている。数限りないフィードバックはこのためにあったと言っても過言ではない。
「ちょっと待て。そういえばそもそもなんで俺なんだ?」
「オメガパレスのアーカイブに君のデータが残っていたんだ。類まれなる妄想力だと。あと、えーと……それと……その、暇そう、だから?」
妄想力。なんか褒められてるんだかけなされてるんだかわからないな。後半は言い辛そうな仕草をしているが明白にディスってるな。うん。
「ところで具体的には何をすればいいんだ?」
「
「つまり?」
「君が敵を倒すことによってバグが処理できる。だが、雑魚をいくら倒してもボスが居る限りそいつらは無限に湧き出てくるから結局はボスを倒さなければならないだろう」
「敵キャラは敵キャラの姿をしてるがバグって事か。経験値は!? 経験値はあるのか!?」
「お望みならそういう演出にしても構いません」
「チートを倒しに行く物語だけど、こっちのチートは!? 魔法は!? 特技は!?」
「チートじゃなくてチィトですってば。人の名前。そうですね、じゃあ、ステータスオープンと叫んでみてください」
で、出たーーーーーーーーーーーーっ!! よくわかんないけど定番化しちゃったヤツーーーーーーーーーー!!! もはや、異世界転生といえばこれなヤツーーーーーーーーーー!!!!
「ステェェェェェッタァァァァァッス!!! ヌォォォォォォォォォプン!!!!」
「いや、そんな力まなくて大丈夫だよ?」
俺の気合いとは裏腹にそのウィンドウはぬるりと現れた。
~・~・~・~・~・~・~~・~・~
名前:レン
職業:
スキル:
レベル:1
~・~・~・~・~・~・~~・~・~
ん? 何か字が間違ってませんかね? これ。いやだなぁ。へんしゅうって言ったら編集の方でしょ、全く。ってゆーか。
「え? こんだけ? HPとかMPとかATKとかINTとか耐久とか魔力とかそーゆーのは? 経験値は何のために?」
「そんなもんにリソース割いてたらあっという間に侵食されちゃうでしょ。こう見えてアヒルみたいに水面下ですごく足をバタつかせてるんですから。今もなお彼らの攻撃はつづいてるんですよ!?」
うっ……。至極真っ当な反論だ。向こうだってある程度こっちが楽しめる様に調整してくれるだろうが、かと言って遊びじゃない。世界を救うという明確な目的があるわけだ。
「このスキルの効果は?」
「スキルを作成・付与できます」
「えっ、無敵じゃん。何の苦労も無いわけ?」
「絶対無敵バリア――とか時間を止める――とかその手の干渉は無理ですね。あくまでバグに対する攻撃の強化とか。ただし、これもリソース不足で一人三つまでしかスキルを持てません。ある程度汎用性の高いスキルを持つことをお勧めします」
「なるほど。こちらから設定や敵の強弱をいじることはさすがにできない、か」
まぁ、俺が物語を書き換えていくって意味ではその辺が限度か。無制限のチートもいいが、クリエイト系も面白そうだな。
「意外とノリノリで聞いてもらえたので良かったよ。じゃあ、早速冒険の始まり、かな?」
「だが、断る!」
俺は満面の笑みで答えた。聞くからにすげえ面倒臭そう。
「俺はこの物語を傍観者で楽しみたい!」
「いやいやいや。いやいやいやいや……」
AIのくせに明らかに動揺が見てとれる。人類をまだまだ理解しきれていなかったな。
「俺だって積んでる小説山ほどあるし!」
「ぶっちゃけ君ほど暇で無駄に妄想力がある人なかなか居ないんだよ!」
失礼な。暇じゃねーわ。リアルでの交流も多少……ほんのちょっとはあるし! 後、無駄に妄想力があるってなんだ! AI如きが人間様の妄想……いや、想像と創造を定量化するなど、笑止!
「わかった。ここでさらに魅力的な提案その2といこうじゃないか」
「お、プレゼンとは恐れ入ったね。聞かせてくれるかい?」
そこで語られたのは驚愕の事実だった……。
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作中の数字は適当メチャクチャアドリブ数字です。作者の体感ですらありません。ご容赦ください。
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