第13話 悪党達の会合・2
事の発端は貴族学校の2年生になってサリーチェと最初の男が破局した所から始まった。
男は中途半端に優しい男で、サリーチェをフッた事に多少罪悪感があった事からフラれた扱いされる事自体は耐え忍んだが、友人達にまで誤解されるのは耐え難く、友人達には真実を打ち明けた。
結果、貴族学校の一部の男達にサリーチェの頭と貞操観念の緩さが知れ渡る事になった。
そこから下心のある男達がサリーチェに接近したり、あるいはパクレットのように想い人の関心を引く為の踏み台のように利用したり――そういう事情を知っている男達がサリーチェを踏み台令嬢だと馬鹿にしだした頃、その単語だけを聞いた令嬢達に追求され、
スリジエの言い方が上手かったのもあるが、元々サリーチェは彼氏ができる度に周囲にマウントを取っていたのですぐに納得された。
男も女も、同性にはゲスい話をしても異性にはゲスい話をしない。貴族ならば尚更だ。男のゲスい面に触れる機会がない大半の令嬢達が信じるのも仕方ない。
――とはいえ、貴族学校に通う令嬢達も馬鹿ばかりではない。中には男を疑う令嬢も少なからずいた。
しかし、サリーチェの素行の悪さに辟易している者や面白いからと見守る者、巻き添えを食いたくない者達が傍観者に撤し――女生徒の私物や殿方への贈り物が無惨に潰される等の実害が出始めた頃には、サリーチェの言葉を信じる者は誰一人いなかった。
その状況はゲスい男達にとって好都合だった。サリーチェを何とか更生させようと近づく男は令嬢達から良い人、心の優しい人として見られ、そこそこ良い関係の令嬢の心をソワソワさせる。
そしてサリーチェに懐かれ調子に乗らせた後、カッコいい場面で彼女を突き放し――
『ヴァルヌス様、もう他の女に優しくしないでください……!』
『うん、ごめんねカリディア、これからは君だけに優しくする……だから君も他の男に優しくしないでほしい』
『は、はい……♡』
――と、雨振って地を固まらせるついでに他の男に関わらせないようにする展開にもっていける。
そう、サリーチェは彼らにとって本当に都合がいい女だったのである。
そして厄介な事に彼らはサリーチェのように物事を多少大袈裟に話し、周囲にマウントをかますだけの小悪党とは違った。
想い人の私物や贈り物をこっそり破壊して他人に罪をなすりつけたり、人を殺す事を厭わない悪党だったのである。
こうしてパクレットはプラトリーナ家の跡継ぎであるデイジー、ヴァルヌスはユーグランス家の愛娘カリディア、スリジエはキルシュバオム家の一人娘、セレジェイラ――彼らはそれぞれイサ・ケイオスの三貴族と呼ばれる家の令嬢を婚約する事が出来た。
最後に、自分達の意中の令嬢を手に入れる為の踏み台かつ、つまらない学校生活の娯楽となった哀れで馬鹿で愚かな
「やっぱり心配だ……ど、どうしよう、あの女がソールに全て伝えたら、俺達は……」
ヴァルヌスはグラスに入った酒を一気に煽ると、また頭を抱えた。
「安心しろ。仮にあの女が何を叫んだとしても誰も信じないさ。仮にソールが信じたとして、私達と殺害計画との繋がりは証明できない。あの女を攫ったのはブリアード王国の闇業者だし、使った媚薬はウィペット王国の」
楽観的なパクレットの言葉を聞かない悲観的なヴァルヌスの不安の矛先がスリジエに向けられる。
「も……元はと言えばペリドット家の馬車でトドメを刺してやろうって言ったのはスリジエじゃないか! あのままブリアードに放置しておけば良かったのに……! 君が変に欲を出したから!」
「……分かってる。あの女の事は僕が一週間以内にケリをつけるよ。あの女が死ねば真相は全て闇の中だ。安心して」
スリジエは微笑みながら優しい声で宥めると、ヴァルヌスは安堵したように肩の力を抜いた。
(恋愛脳かつ脳筋のパクレットは地頭が良くないのが致命的だが、
スリジエは冷静に2人を分析しながら、ここからはどちらも頼らないほうが良いと判断した。
(確かに僕の提案によって計画が崩れてしまったけど、本来であれば計画は成功していたんだ。純白の公子という、全く想定外の存在さえいなければ……)
だが過ぎた事を嘆いている時間はない。
もしソールがサリーチェの言葉を信じれば――自分達の非道が明らかにされれば、これからの輝かしい未来が閉ざされる。
ソールが全てに気づく前にサリーチェを殺さなければならない。誰にも怪しまれない方法で。
金で繋がっていた異国人はもちろん
(……僕の可愛いセレジェイラの顔を陰らせるあの女を消せば、そしてソールが嘆き苦しめば、きっとセレジェイラは女神のような笑顔を僕に見せてくれるはずだ……!)
スリジエもまた、恋愛脳かつ有能な悪党であった。
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