第3話 突撃 隣の侯爵令息さま

「うっふっふっ」


 今日は朝から上機嫌である。


 なぜなら、前回書いた本が好評でバンバン売れたからである。

 

 バンバン売れたということは、ジャンジャンバリバリお金が入ってきたという事である。


 めでたい。


 だから、ちょっとおめかしをしてみました。


 お気に入りのグリーンとイエローのドレスを着て、珍しくハーフアップにした髪。


 私は上機嫌だ。


 まことめでたいこの良き日に、可愛い妹とマイペースな我が母は買い物に出かけていて留守である。


 それでも上機嫌だったのだ。


 つい、さっきまでは。


 そして、いま。


 目の前にはお隣にお住まいの侯爵令息がいる。


 なぜか、いる。


「キミかっ! この話を書いたヤツはっ」


 興奮していらっしゃる。


 興奮している野生動物と男性は刺激しちゃいけないって、おばあさまが言ってたわ。


 やだなぁ。


 売れたよハッピー記念に、さっきまで輪転機に捧げる感謝の舞を踊ってたのに。


 髪に艶は無かろうとも、目は血走っていようとも、体の凹凸は行方不明になったままだろうとも、私はご機嫌だったのに。


 やれやれだぜぇ~。


「はい。それが何か?」


 ドアの前で私の本を掲げて怒鳴る大男の相手をしなきゃいけないなんて。


 なんて日だっ!

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