第4話 腹を割って話そう

「で、私の新刊とニコルソン侯爵令息さまに、何のご関係が?」


 不躾なニコルソン侯爵令息に対し、私はツンと澄ました顔と声を作って大人の対応をいたしました。


 偉いぞ、私。


 自画自賛しておきます。大人なので。


 このままの勢いで、ドーンと玄関前に立ち塞がる大男も、大人の対応で処理したい所存でございます。


「キミのせいで、とんでもないことになったっ!」

「……」


 できるかしら? 大人の対応。


 相手のせいにしちゃうのは子供の行いですわよ、ニコルソン侯爵令息。


「ついては、そのことについて話がしたいっ」

「……」


 一体、何が私のせいだというのか?


 謎が謎を呼ぶけれど、そこは作家の本能。好奇心の方が勝ってしまう。


「分かりましたわ。お上がりになって」


 私は大胆にも侯爵令息を自宅に招いてしまった。


 玄関脇の机に乗ったベルを鳴らしてメイドを呼ぶ。


「お茶の支度を。客間へ、お願いね」


 もちろん、住み込みのメイドではない。通いである。金がないので。


 メイドの居る時間帯で良かったわ、と、思いつつ、客間へ侯爵令息をお通しする私。


 大人の対応だわ。自画自賛、パート2。


 本日の自画自賛はパート幾つまで行くのかしら? と、思いつつ侯爵令息に椅子を勧める。


 気まぐれに、おめかししておいて良かったわ。


 お気に入りのグリーンとイエローのドレスは古くて若向けデザインだし、ハーフアップにした髪に艶はないけれど。


 一応、伯爵令嬢には見えるだろう。


 いや、見えなくても伯爵令嬢ではあるのだけど。


 まぁ、いいや。


「で、ご用件は?」


「ぶっちゃけて言う。結婚してくれ」


「……は?」


 言葉の意味が理解できない。


 綺麗な金髪に整った顔立ち、澄んだ緑色の瞳、まつ毛にバチバチと囲まれた大きな目。


 『美』 


 には、恵まれた男性ではありますが。


 この侯爵令息、大丈夫かしら?


「あー、話を飛ばしすぎたか。いつも怒られるんだが、なかなか直らなくて」


「それは、お困りでしょうね」


 周りの方が。


 この方、いつもこうなのかしら?


 物事を順序立てて話せない方とは、意思の疎通がとれなくてよ。


「原因はキミの本だ」


「新刊のことでしょうか?」


「ああ、これだ」


 大きな手が本をテーブルの上に置いた。まぎれもなく、私の新刊である。


 美しい男たちが、なまめかしく絡み合っている……ことを連想させる表情で見つめあっている。


 ドアップでも麗しさが揺らがない。


 挿絵画家の先生。


 ナイスなお仕事でございます。


「これが、いかがいたしましたか?」


「コレの攻め役の男、オレがモデルだろ?」


「んん……ぁあ、はぁ……」


 おや。さっくりバレていますね。


 私は目を逸らしつつ、曖昧な返事をしました。


「そして、受け役の男のモデルは、ペラン第二王子殿下だろ?」


「……ん……んん……ぁぃ……」


 あら。すっかりバレておりますのね。


 私は真正面を見ながら視線は他所に飛ばすという、お説教くらう時の技を繰り出してみました。


 なのに、ガッツリ目線が合ってしまいました。


 おぬし、できるな?


「この本を、よりによって、父上に見られたっ」


「……はぁ?」


 ニコルソン侯爵さまに、私の本を読んでいただけた?


 それは光栄至極に存じます。


「それでだな……父上は、とんでもない勘違いをされてだな……」


「?」


 あら? 急にモゴモゴモードに入られましたわ、声でか大男が。


「どんな勘違いをされたのですか?」


 ここは、突っ込んでおこう。


 突っ込むタイミングだと思う。


 突っ込んだら面白いことが聞ける、と、私の作家としての勘が叫んでいる。


「オレとペランが出来てる、と、勘違いしたんだっ!」


「まぁ!」


 意外と大胆なことを大声で言い切っておしまいになりやがりましたね、大男。


 見直しました。


 そしてニコルソン侯爵さま。


 ナイス勘違いでございます。


 ごちそうさまです。


「しかも、それだったらオレを廃嫡するとか言い出しやがって……」


「まぁ!」


 ニコルソン侯爵さま、英断です。


 こんな感情コントロール下手くそ男に、貴族的なアレコレがこなせるとは思えません。

 

「嫌だったら、すぐに結婚しろって話になっちまったんだっ」


「まぁ!」


 で、ニコルソン侯爵令息。


 そのお話と私に、どんな関係が?

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