第2話 作家令嬢 マリー・フォットセット
しつこいようだが。
私、マリー・フォットセット伯爵令嬢は、令嬢としては年増の20歳。
婚約者はいない。
日焼け知らずの肌は白く、青い瞳に金髪。
なのに、なぜかモテない。
スラっとしていて凹凸がない上、背が高すぎる。
172センチほどあるので、ヒール履くと男性よりも背が高くなってしまうのだ。
ゆえにモテない。
家柄が悪いとか、愛想が悪いとか、顔が悪いとか、不細工だからとか、ブスだからとか、そんな理由ではない……はずだ。多分。
普通の令嬢であれば、ワンチャンなんとかなる。
だが、私は普通のご令嬢ではない。
運命が狂ったのは、四年前。
私の趣味は、小説を書くことだ。
読むのも大好き。
そんな私に、友人のリリアンが薄い本を勧めてきたのだ。
「ねぇ、ねぇ、マリー。コレ、知ってる?」
白くてぷっくりした子供みたいにカワイイ手で、リリアンが差し出した薄い本。
コレが私の運命を変えた。
私の友人であるリリアン・サマータイム伯爵夫人は、(あ、当時はゴールテン伯爵令嬢ね)、同い年で薄茶の髪と瞳をした可愛い女性である。
色白で薄っすらと浮くソバカスがチャーミング。
でも、ちょっぴりぽっちゃり目の彼女が好きなのが、甘いお菓子と薄い本。
主に、女性に見えるほど美しい男性同士が絡み合い……って内容の本である。
「ん? 知らなーい。人気なの?」
当時の私は16歳。
純真無垢なお年頃だ。
同年代の令嬢たちは、ポツポツ結婚し始める年齢ではあったけれど。
少なくとも、私は純真無垢だった。
「ふふ。なら、読んでみて。面白いわよ」
「うん。読んでみるね」
私は素直に薄い本を受け取った。
そして、読んだよ。
はまったよ。
ついでに、書いたよ。
うっかり同人誌即売会で売った薄い本は、瞬く間に売り切れて大人気。
気を良くした私は、警戒心なんて全くもたないままプロデビュー。
なぜかバカスカ売れていく薄い本。(商業誌だから、ちょい厚め)
バカスカ入ってくる印税。
没落しかけていた我が家は持ち直した。
持ち直したことに感謝して、楽していいよ、やめていいよ、なんていう心優しき有能家系だったら、そもそも没落しかけてなどおらん。
バカスカ入ってきた売上をバカスカ使うバカばっかだから、休む間もなく書き続けるしかなかった。
また書けたんだ、私。
やれば出来る子だったんだ、私。
調子に乗って書き続け、気付けば細くて凹凸がない体はより細くフラットに、日焼け知らずの肌はより白く、青い目はより充血し、金髪の艶はより無くなっていた。
でも、そんなのどうでもいい。
家にお金が入ってきて、家族が喜んで、小説が書ければ、それでよかった。
私ってば幸せ者。
ってな感じだったんだが。
もう、ネタが。ネタがなーい。
……ネタ。
どっかに転がってねーかな、ネタ。
ふと窓の外を見やれば。目に入ったのは金髪の美丈夫。
あの馬鹿でかい後姿は隣に住んでるトーマス・ニコルソン侯爵令息だ。
金髪に緑色の目をした無駄に美形の遊び人。
無駄に身長も高くて、二メートル近くある。
王都に屋敷があるというのに、気ままに暮らしたいからタウンハウスに住んでいると有名な遊び人だ。
遊び人なら遊び人らしくヘラヘラ笑っていれば、まだ威圧感がないのに。
身長が高くて、美形で、仏頂面しているから威圧感半端ない。
それでいて遊び人というから笑ってしまう。
またどっかに遊びに行く所なのだろう。
無駄に美しい長い金髪をキラキラとなびかせて、長い足でズンズン歩いていくのが見える。
「そうだわ。あの噂をベースにしましょうか……」
背に腹は代えられない。
私は社交界で聞いたある噂を基に、一冊の本をかき上げたのだった。
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