フォゲット・ミー・ノット
ふたりはコーヒーに口をつける。
「ハナ。店の名前、思いついたんだ。」
「ワン!」
カオルという少年の声と、ハナの鳴き声がした。
「フォゲット・ミー・ノット。
「ワン!」
「フォゲット・ミー・ノット?」
ミサという少女の声が聞こえる。
「うん。
「そういえばカオル、前から言ってたもんね。」
「カオル、そのコーヒーカップに描かれてる水色の花、この間話してくれた
「本当にありがとう、ミサ。絶対に素敵なお店にしてみせるよ。」
「フォゲット・ミー・ノット。
「ふふ。ケーキのレシピを考えるのとどっちが?」
「それは難しいな。でも、どっちも大切なものだから。」
「忘れられない味にふさわしいお店、ですか。」
「はい。訪れたお客様の記憶にはっきりと残るような、素敵な思い出になるお店にしたいんです。」
「わかりました。デザイン、引き受けましょう。」
「ありがとうございます!」
ふたりの頭の中で、このカフェに携わったいろいろな人の声が聞こえては切り替わる。
「一度食べたら忘れない味、ですか。」
「ええ。ずっと昔から守られてきた、この店のコンセプトなんです。」
「なら、絶対にこのクッキー、完成させましょうね。」
「ありがとうございます!」
「忘れられない記憶をどうもありがとう。」
「こちらこそ、わがままなお願いを聞いていただき、ありがとうございます。」
「いいえ。このカフェの繫栄、心から願っているわ。」
「ありがとうございます。」
「いかがですか?」
店主の声がふたりを現実世界に連れ戻した。
「
「はい。もちろん、あとを継ぐ私たちもその意志を引き継いでおります。先程、この店での記憶、よろしければお持ち帰りくださいと申しましたが、私ども、私も、この店も、訪れたお客様のことは決して忘れません。またいつか、誰かお客様におふたりの姿を見せる日が来るかもしれません。」
碧依と鈴乃は顔を見合わせて微笑んだ。
「そんなふうに考えると、素敵ですね。」
「俺たちがこのお店の歴史に携われたなら、なんか誇らしいです。」
店主は二人に微笑んで言った。
「お題は結構でございます。おふたりの物語をいただきますから。」
店主はふたりにそれぞれメモ用紙を渡した。水色の花―
「そういえば、はじめに山上さんにもらった紙にも描かれてたんだね。」
「ええ。そちらのメモにも物語はあるのですが…。お見せできず残念です。」
「どの物語が見えるかは、不規則なんですか?」
「ええ。この店の気まぐれです。では、古木様、増森様。そちらのメモ用紙、どなたかにお渡しください。それが、次のお客様をこの店にお連れする切符となります。」
店主に見送られ、ふたりは店をあとにした。
店の庭を抜けて振り返るとそこにカフェの店舗はなく、ふたりがいたはずのところには家が建っていた。
「なんか、納得しちゃうね。」
「うん。不思議なことってあるんだな。」
目の前からカフェが消えたのに、二人はなぜか落ち着いていた。
「ねえ、碧依。碧依はこの紙誰に渡す?」
「そうだな…。」
碧依の頭に、いくつかの顔が浮かんで消えた。
「私は、もう決めてあるんだ。」
「俺も、決まったかな。」
碧依と鈴乃はメモ用紙に目を落として微笑んだ。
「「楽しいところだからぜひ、訪ねてみて。」」
フォゲット・ミー・ノット 駒月紗璃 @pinesmall
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