異世界を彷彿とさせる店内
碧依は太陽のまぶしさに思わず目を細めた。店内の薄暗さに慣れてしまった目には屋外の明かりがまぶしい。
「ここ、さっき来るときに通ってきたお店の前の道路じゃない?」
麦わら帽子を被って目を細めた鈴乃が周りを見渡して言った。もはや移動した先にお互いがいることは疑わなくなっている。
二人の前にカフェの店舗はないが、確かに道の雰囲気は似ている。
「鈴乃。あそこ。」
碧依は少し離れたところに立っているふたりの男性を指さした。鈴乃が首をかしげる。
「何の話してるんだろう。ね、近づいてみようよ。」
碧依と鈴乃は二人の話が聞こえるくらいの距離まで近づいた。例によって話している二人には碧依と鈴乃の姿は見えていないようだ。
「もっと、こう、異世界のような雰囲気が出せませんか?」
男性は何かの設計図をのぞき込んで話をしているようだ。黒い線が描かれているのがすきまから見える。二人が見ている場所からして、新しく作るカフェの店舗だろうか。
「わかりました…。では…レンガの色の組み合わせを変えてみるのはいかがでしょう?もう少しちぐはぐにしてみるとか。後は、ステンドグラスを使用してみますか。」
提案しているのはこの設計図を描いたデザイナーだろうか。
「いいですね。あとは、周りに植物が植えられる庭が欲しいです。その庭を抜けて店内に入る感じにしたくて。なんだか特別なところへ続いている感じにしたいんです。」
「では、入り口をもう少し奥にして庭を作りましょう。庭の真ん中に入口に続く小道を作って。」
「すみません、無理を言ってしまって。」
男性は申し訳なさそうな顔をした。デザイナーは微笑んで首を横に振る。
「いいえ。私もこのお店の
「ありがとうございます。」
店主と
場面が切り替わり、二人の前にはまだ何も植わっていない庭とその奥にあるカフェが出来上がった。庭には砂利が敷き詰められており、入り口に続く道が平たい石で作られている。その建物はたしかに、今朝碧依と鈴乃が訪れたカフェだった。
「私、お店に入るときに『異世界に紛れ込んじゃったみたい』って言ったけど、このお店を作った人の思い通りだったんだ。」
鈴乃が少しうれしそうにつぶやいた。
店主とデザイナーが店の中から出てきた。
「本当にありがとうございます。」
「いいえ、とんでもないです。これからも、たくさんのお客さんにとって忘れられないお店になるといいですね。いえ、絶対にそうしてくださいね。」
「はい!」
店主とデザイナーは固く手を握り合って微笑んだ。
また場面が切り替わって碧依と鈴乃はもといたカフェのテーブル席に戻った。
鈴乃がカウンターの中でクッキーの用意をしている店主に声をかける。
「すみません。このお店っていつごろからあるんですか?」
「さあ。確かなことはわかりませんが、百年以上前からあるのではないでしょうか。戦前からあったと聞いていますよ。建て替え工事を行っていると聞いているので当初の建物ではないと思いますが。でも、食器などは創業当時から変えていないものがほとんどです。」
「百年以上前から…。」
碧依は自分の前に置かれたコーヒーカップとお皿を見つめた。
このコップとお皿はそんなに昔からあるのだろうか。いったいどれくらいの人がこの食器を使ってきたのだろう。
店主はクッキーを乗せた小皿を持って二人のテーブル席に来た。
「こちら、クッキーになります。」
「ありがとうございます。」
二人はクッキーの乗ったお皿にも水色の花があしらわれているのをみてまた顔を見合わせた。
それを見た店主が微笑む。
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