第30話 報告2

「ラルフ君、大丈夫かね?」



「あっはい!大丈夫です!」



 俺は現実離れした美人に肩を組まれた緊張で、身体が固まってしまっていた。



 ちょっと意識もボーッとしていたが、スティーブンスの声で我に帰った。



「それで今後についてなんだが……」



 スティーブンスはルーナの方を見る。



「ラルフ君は帝国の動向を調査すると聞いている。それにルーナも連れて行ってくれないか?」



「えっ、彼女をですか?」



 ルーナは目線を下にして、もじもじしている。



 見るからに戦闘タイプって感じではなさそうだが……



「帝国の調査をしていれば、ゲネシス教とぶつかるのは確実だ。その時に仲間がいれば都合が良いだろう?それにルーナはこんなんだが強いからな、ゲネシス教を殲滅する手助けになるのは間違いない」



「スティーブンスさん!?褒めてくれたと思いきや……こんなんってなんですか……!?」



 ルーナは涙目でスティーブンスに反論する。



「まぁ、僕は構わないですけど……」



「ラルフさん……!」



 俺が返事をすると、ルーナは目をうるうるとさせたまま抱きついてきた。



「ルーナ……ごめんちょっと……」



「あっ……ごめんなさい……」



 今日は美人に肩を組まれたり、抱きつかれたり精神がもたない……



 ルーナは、しょんぼりしながら俺から離れた。



 ごめんルーナ……嫌なわけじゃないんだ……



 女性経験のない精神年齢51歳のおじさんには、美人耐性がないんだ……



「早速仲良くなってくれたみたいでよかったよ。それじゃあルーナ、あと一応デリエラもラルフ君の魔道具と通信できるようにしておこう」



 スティーブンはそう言うと、俺たちに指輪型の魔道具を出すように促す。



「よし、オッケー。これで私たちはいつでも通信ができるぞ」



 もしかしてこの魔道具ってめちゃくちゃ便利な物なんじゃないか?



「あの、この魔道具って使ってる人を見た事ないんですけど……かなり貴重な物だったりするんですか?」



「あぁこれか?これはカナンが作った魔道具だ。確かに世間には流通してないな」



 氷の魔女カナンか……



 入学試験の際に使われていた魔道具も、カナンが作った物と聞いている。



「もしかして、スティーブンスさんって氷の魔女カナンとも繋がりがあるんですか?」



「まぁ、昔に少しな。その伝手で彼女が作った魔道具を提供してもらっているんだ」



 そうだったのか。



 関係について深くは聞かないが、スティーブンスとカナンに関係があるのは好都合だ。



 氷の魔女カナンは、S級冒険者の称号も持っていると聞いた記憶がある。



 その強さ故に、使徒である可能性があるのだ。



 スティーブンスにいつか紹介してもらおう。



「とりあえずラルフよぉ〜!ルーナを頼んだぜ〜?」



「あぁ、任せてくれ」



 ルーナの実力については問題ないと思うが、一応注意しておこう。



 何かあってからでは遅いからな。



「よろしくお願いします……!」



 ルーナは深々と頭を下げる。



 なんだか、ニアとはまた別のかわいさがあるんだよなぁ……



 これが、守ってあげたい感というのだろうか。



 俺がそんな事を考えながらボーッとしていると、スティーブンスが口を開く。



「それで、出発はいつ頃になりそうかね?」



「そうですね……学園の入学式に参加したら、すぐに出発しようと思ってます」



 入学式まで待つのは理由がある。



 一つ目は、ナイジェルにも一緒に同行してもらいたいからだ。



 あいつのスキルは必ず役に立つ。



 今すぐ転移でナイジェルの元へ行ってもいいのだが、向こうは王族だからな。



 色々と都合もあるだろうという事で、入学式で再開した際に頼んでみようと思っている。



 二つ目は、単純にニアの答辞を見てみたいという理由だ。



 ニアの晴れ姿は、目に焼き付けておきたい。



「承知した。入学式が楽しみだなラルフ君」



「そうですね、入学前に学園長とこんなに関わっているので不思議な感じではありますが……」



「ハハハ、確かにそうだな」



 スティーブンスは声をあげて笑う。



「それじゃあラルフ君、引き続きゲネシス教の殲滅、そしてルーナを頼んだぞ」



「はい、頑張ります」



 なんだか上手く使われてているような気もするが、とりあえずはいいだろう。



 スティーブンスとデリエラも、さっきの口ぶりだとそれぞれ動いているみたいだしな。



「さて、それじゃあ帰るか」



 入学式まであと数日。



 家でゆっくりさせてもらおう。



 俺は龍の円環のメンバーに一礼して、自宅へと転移した。

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