第31話 決裂

「ん……ここは……!」



 見覚えのある真っ白な空間、ここに来るのは5年ぶりだろうか。



「やぁ、久しぶり」



 そして聞き覚えのある甲高い声が正面から聞こえる。



「何のご用でしょうか神様?」



「なんだよその感じ〜久しぶりに再開して距離感が分からなくなった友達かよ〜」



 神はクネクネしながら、おちゃらけた事を言っている。



 俺がそのボケを無視すると、白けた空気が真っ白な空間に漂った。



「あれ?つまらなかった?」



「そんな事より、何か用があるんじゃないのか?」



 さっさと用件を言えという俺に、やれやれと神はジェスチャーする。



「ナイジェルと出会えてよかったね。使徒探しは順調かい?」



「あぁ、順調だ。今の所はな」



 それはよかったと、神はわざとらしく微笑む。



 そして神は続けた。



「今回君を呼んだのは、またいくつか伝えたい事が出来たからなんだ」



「神の啓示ってやつか?それはありがたい」



 俺は話半分で神の話を聞く。



「まずは君に忠告だよ。僕はね、君が何を考えてるか興味はない。とにかく、僕の意思の邪魔をしないで欲しい。それが世界の最善なんだからね」



「つまり、ゲネシス教の邪魔をするなと言いたいんだな?」



「まぁそんなところだね、特にカールマンの邪魔はしないで欲しい。彼の意思は僕の意思と考えてもらっていいよ」



 神の発言から察するに、カールマンは使徒で確定だな。



 しかも神の意思と同等という事は、カールマンが使徒の中でナンバーワンの存在なのかもな。



「だが俺や俺の仲間、それにナイジェルは、そのカールマンがトップの教団に命を狙われたんだが?」



「それについては君が悪いよ。僕の不利益に繋がる行動をしようとしただろ?」



 やっぱり神には全てお見通しか……

 


「まぁとにかく、くれぐれも彼の邪魔はしないでくれ。僕も世界をリセットできる回数は無限大って訳じゃないからね」


  

「ん?そうなのか。じゃあ気に入らなかったら、すぐにリセットする訳じゃないんだな」



「いや?もちろん、気に入らなかったらすぐリセットしているよ?ただ、なるべく限界までその世界を楽しみたいってだけさ」



 本当にこいつは、俺たちの気持ちなんてどうでもいいんだな……



 自分のせいで、どれだけの人が悲しむか分かってないのだろうか。



「そんな顔しないでよ〜怖いな〜」



 俺は無意識に神を睨んでいたようだ。



 冷静になれ。



「それで、まだ俺に何か用があるんじゃなかったか?」



「そうそう、今後の君へおすすめの行動を教えてあげようと思ってね」



 おすすめの行動だと?



 どこまでなめた事を言えば、気が済むんだこいつ……



「今後は僕の不利益になるような行動は慎んで、誰かと結婚でもして静かに暮らしなよ。相手はそうだな〜……ナイジェルのお姉さんとかいいんじゃない?いい感じだったし、それに王様になれば人類の進化も促しやすいでしょ?」



 こいつの言うとおり、静かに暮らすのも悪くはない。



 だが、世界がいつリセットされるかも分からない恐怖に怯えながら生きるなど俺には無理だ。



 それに俺の寿命のうちはリセットされなかったとしても、俺以外はどうなる。



 俺の周りの人や、いずれ生まれるかもしれない子孫をそんな状況に置いていく訳にはいかない。



「悪いが、俺の考えは変わらない」



「そっか〜考えを変えなかったこと、後悔しないでね?」



 神からものすごい威圧のようなものを感じる。



 同時に、俺の全身に鳥肌が立ち上がる。



「は〜あ、こんな事なら君にスキルを渡すんじゃなかったなぁ〜」



 神はため息混じりに、何もない空間へ向かって口を開く。



「世界の管理者〈ワールドマスター〉の事か……?」



 『世界の管理者〈ワールドマスター〉』は未だ発動できていない。



 というか、発動しようと思っても出来ないのだ。



「そうだよ、未だに使えてすらいないみたいだし。ちょっと失望してるかな……そうだっ!」



 神はいい事を思いついたと、口角を上がらせる。



 そしてその表情は、次第に気味の悪いものに変わっていく。



「ふふふ今後が楽しみになってきたよ、じゃあ僕からの用件は済んだからこの辺で〜」

 


 神がそう言うと、俺を囲うように周囲が白く発光しだした。



「まて!これだけは言っておく!俺の周りの人たちに手を出したらタダじゃおかないからな!」



「それは今後の君次第かな〜それじゃっ」



 神のその言葉を最後に、俺の意識は無くなった。


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