第29話 報告

 俺は王と話した後、自室へ戻った。



「今いきなり居なくなると怪しいもんな……」



 転移魔法でスティーブンスの元へ移動してしまおうと思ったのだが、もし誰かが部屋に訪ねて来てラルフが居ないと騒ぎになると面倒だった。



 そこで、以前スティーブンスに貰った指輪型の魔道具の出番だ。



「たしか、この指輪に魔力を込めればいいんだよな……」



 俺は指輪に魔力を込める。



 すると、ジジジ……という雑音の後スティーブンスと繋がった。



「ラルフ君か、こんな夜中にどうした?」



「すいません、実は報告がありまして……」



「ん?何があった?」



 俺は王城でゲネシス教の襲撃にあった事と、王からダグラス王子と帝国の動向について調査するように依頼された事を報告した。



「なるほど……全員無事だったのが不幸中の幸いだな……それにしても、ゲネシス教と帝国に何か繋がりがあるのは間違いなさそうだ」



「はい、ですから自分はすぐに帝国へ行こうと思っています」



「そうしたら、帝国へ行く前に紹介したいメンバーがいるんだ。一度会えないか?」



 そういえばメンバーは後日紹介すると言っていたな。



「わかりました、場所はどちらに行けばいいですか?」



「私の部屋で大丈夫だ。明日の昼頃また連絡してくれ」



「わかりました、それでは失礼します」



 龍の円環という組織がようやく少し分かりそうだ。



 どのくらいの規模なのだろうか。



 と言ってもさすがに何百人もいないだろうが。



 とりあえず、今日は寝て明日の昼にスティーブンスの部屋を訪ねるとしよう。



 そうして俺は、王城の質の良いベットに身を包ませて眠りについた。



 ーー翌朝



 俺たち三人は、王族の面々に礼を言って転移魔法でソルバ村へと戻って来た。



 ナイジェルには、入学式でまた会おうと伝えてある。



 もう数日後には学園の入学式だがな。



「よし、行くか」



 村に帰って来て色々と準備をしていたら、あっという間にもう昼である。



 スティーブンスとの約束の時間になった為、俺は学園長室へ転移する。



「おぉ、きたか」



「お前は!」



 学園長室へ転移すると、大きな机に座るスティーブンスの横に二人の人物が立っていた。



 二人とも女性で、一人は俺と同じくらいの年齢でもじもじと自信がなさそうにしている。



 だが、もう一人の顔は知っている。



 金髪長身で、現実離れしたルックス。



「ラルフ〜!久しぶりじゃねえか!」



 そしてこの男勝りな口調、確定だ。



「久しぶりだな、デリエラ」



 入学試験の際に、王都で異様な殺気を放って来た女だ。



 まさか龍の円環のメンバーだったとはな。



「なんだデリエラ、ラルフ君と知り合いだったのか」



「あぁ〜前にちょっとな〜!」



 スティーブンスとも普通に話している。



 それにかなり仲が良さそうだ。



 この二人からは、長年の付き合いという雰囲気を感じる。



「あ……あの……!」



 デリエラとスティーブンスが仲良さそうに話していると、もう一人のメンバーが口を開く。



「おっとすまんなルーナ。ラルフ君、こっちがルーナだ。ちょっと癖があるがよろしく頼むよ」



「癖なんて……そんな……!」



 ルーナは、スティーブンスの雑な紹介を必死に否定する。



「あの……ルーナです。こんな感じですけど、よろしくです……!」



「うん、よろしく」



 前世でいう『コミュ障』というやつだろうか。



 俺も前世ではコミュ障だったため、何だか親近感を感じる。



 彼女とは上手くやっていけそうだ。



「ラルフ〜!お前また十二司将とやり合ったんだってな〜!その調子でガンガンぶっ潰してくれていいぞ〜!」



「あぁ、今回は俺の仲間が頑張ってくれたんだけどな」



 デリエラは馴れ馴れしく俺と肩を組んで、バンバンと背中を叩いた。



 彼女は言動はあれだが、ルックスが現実離れしている。



 そのせいで、身体が緊張して固まってしまった。



 なんだか悔しい……



「デリエラさん……ラルフさんが固まってます」



「なんだよ〜!肩の力抜いてこうぜ〜?」



 俺は良い意味で美人が苦手なのかもしれないと思ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る