第10話 密約2

「組織……ですか?」



 俺はスティーブンスの予想外の要求に戸惑いを覚えていた。



「あぁ、組織の詳細に関しては、君が了承した場合にのみ伝える。断るのであればこの話は終わりだ。また宿まで送って帰ろう」



 なるほど、俺にはどうしても学園に入学しなければならない理由がある。



 スティーブンスはそれを悟って、この要求を持ちかけてきている。



 断れば、俺の周りに危険が及ぶ可能性もあるな……



 どうやら俺に拒否権はないようだ。



「わかりました。入らせて頂きます」



「おぉ!君ならそう言ってくれると思っていたぞ!」



 スティーブンスは、わざとらしい笑みを浮かべて声を上げた。



「それでは教えて頂けますか?組織の詳細と俺のやるべき事を……」



 俺は早速、組織の活動の内容を確認する。



「そうだな、まずは我々の組織の名だが『龍の円環』という。メンバーについては後日紹介しよう」



 そう言うとスティーブンスは、立派に蓄えた口髭をいじりながら説明を続けた。



「それで私の、いや……我々の目的と言った方が早いな。我々の目的は、ある教団の殲滅だ。もしかしたら、君も耳にした事はあるかもしれない。『ゲネシス教』という教団だ」



 ゲネシス教……聞いたことないな。



 まぁ今まで田舎暮らしだったからな。



「ゲネシス教ですか……初耳です。一体どんな組織なんですか?」



 俺はスティーブンスにゲネシス教の詳細を尋ねた。



 すると、スティーブンスは顎髭をいじるのをやめ、両手を前に組んでから説明を続けた。



「ゲネシス教とは、教祖であるゲネシス=カールマンを筆頭に神の啓示を受け、人類の更なる繁栄を目指している教団だ。表向きにはな」



 表向きにはか……


 

 なるほど、これは闇が深そうだぞ……



「実際はどんな組織なんですか……?」



「あぁ、その正体は神の啓示を謳って、罪のない多くの民を殺して周る猟奇的殺人教団だ。実際、今このグランハイム王国内でもゲネシス教によるものと思われる事件が多発している」



 神の啓示か……



 これがあのクソ神を示してるなら、俺の目的にも関係してくるな。



 もしかすると『龍の円環』に加入する事は、丁度いいのかもしれない。



 だが今はまだ、スティーブンスを完全に信用するには早すぎる。



 俺の目的については隠しておこう。



「神の啓示ですか……やばそうな集団なのは間違いないですね」

 


「うむ、既に各国の上層部にも教団の人間が侵入していると思われる。暴走した権力者達の横暴を止めなければ、いずれ大きな戦争が起こってしまうのは間違いないだろう……」



 それは非常にまずい……



 大戦レベルの戦争が行われると、あのクソ神に世界がリセットされる可能性が格段に上がってしまう……



 それは何としても阻止せねば……



「そうなると、人々を守るのはもちろんですが、各国に侵食している教団の人間を排除する事が先決ですね」



「そういう事だ。そこで君に頼みたい事がある」



「頼みですか?」



 いきなりの初任務か。



 少しワクワクしている自分がいるのも事実だが、直近の目的である第二王子との接触に支障があると困る。



 頼みによっては断らせてもらおう。



 俺がそんな事を考えていると、スティーブンスの口から驚きの内容が語られた。



「君には我が国、グランハイム王国の第二王子である『ナイジェル=グランハイム』について探りをいれてもらいたい」



「え!?ナイジェルってあのナイジェルですか!?」



「その通り。君が入学試験で対戦した、あのナイジェルだ」



 こいつは驚いた。



 まさかナイジェルが第二王子だったとは……



 もしかして、あの時の「またすぐに会える」というナイジェルの言葉は、謁見の時に全て話すという意味だったのか?



 というか、何で俺がアンリを助けたって知ってるんだ?



 入学試験の時に推理したのか?



 いや、そういえばナイジェルは予知のようなスキルを使っていたな……



 恐らくそのスキルの力で、全て事前に知っていたんだろう。



 なるほどな、便利なスキルだ。



 とりあえず、それは置いといてだ……



 何故ナイジェルに探りを入れねばならないのだろうか?



「まさかあいつもゲネシス教の一員なんですか?」



「いや、まだ疑いがあるだけだ。彼、もしくはその周囲に教団の人間が潜んでいる可能性は非常に高い」



「それは何故ですか?」



「聞いたことはないか?我が国の第二王子は神の使命を受けていると」



 それは聞いた事がある。



 5年前にそれをレインさんに聞いて、俺は学園の入学を決意したんだからな。



 だがこの話を聞いてから考え直すと、確かにゲネシス教の"神の啓示を受ける"というシステムと似ているな……



 もし同じ神から啓示、もしくは使命を授かっていて、各地に潜伏しているゲネシス教の人間が末端として動いているのだとしたら……



 確かに疑いの目を向けた方がいいかもしれない。



 "使徒"にも色々な考え方があるはずだ。



 ナイジェルがゲネシス教に加担していても、何も不思議ではない。

 


「わかりました。その任務、受けさせて頂きます」



「ありがとう。危険な任務になると思うが、君の実力なら大丈夫だろう」



 まずはナイジェルとの謁見で、ゲネシス教について探りを入れてみよう。

 


 こうして俺は『ゲネシス教』の殲滅を目的とした組織である『龍の円環』の一員となった。




 

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