第9話 密約

「元気出せよラルフ〜」  



「ラルフ、気にしない。」



 俺の結果を知ってからというもの、ニアとケントは俺を励まし続けてくれている。



 試験結果を確認した後、俺たちはすぐに宿へと戻ったんだが……



 俺は自分で思っている以上に落ち込んでいた。



 まさか自分が、試験に落ちるとは思っていなかったからだ。



「フッ……俺はどうせミジンコ以下さ……」



「ミジンコ〜?なんだかよく分かんねぇけど気にすんなって〜」



 せっかく転生して自分に自信がついたのに、ここにきて前世の俺の腐っていた部分が出てきてしまっている。



 これは良くない兆候だ。



 もちろん、腐っている暇なんてない事は分かっている。



 でもちょっとは落ち込んだっていいだろ?



 俺の5年間の努力を否定された気がして、悔しくてたまらないのだ……



「なぁ、ラルフ」



 がっくりと肩を落として自分の部屋のベットに座る俺の隣に、ケントが改まった様子で腰をかける。



「俺はお前がいない学園には入らないぜ。それはニアも同じはずだ。そうだろニア?」



 ケントがニアにそう問いかけると、ニアも俺の隣にちょこんと座る。



「ん、ラルフいないとやだ。」



「でもニアは首席なんだぞ?せっかく選ばれたのにいいのか?」



「ん、そういうのよく分からないし。」



 2人の優しさに、俺は涙がちょちょぎれそうな気持ちになった。



 そんな俺の横で、ケントが更にこう続けた。



「俺たちはラルフが一番すげぇって分かってんだ。だから自分の実力が足りなかったとか勘違いすんなよな?」



「ケント……」



 改めて思う。



 ケントは最高の親友だ。



 転生して、こいつに出会えて本当によかった。



 すると、ニアもニコッとしながら口を開いた。



「ラルフの凄さが分からない学園なんて、興味ゼロ。」



 このやろう……



 ニアが天使に見えるぜ……まったく……



「2人にそんな事を言わせてしまったんだ、俺もいつまでもウジウジしてられないな!」



 2人の励ましで、俺は元気を取り戻した。



「それでこそラルフだぜ!」



「ラルフ、復活!」



 コンコン



 3人で両手をあげて俺の復活を喜んでいると、部屋のドアをノックする音が響いた。



 いかんいかん、騒ぎすぎて他の客の癪に触ったか……?



 ここは素直に謝ろうと、扉を開けた。



「すいません!つい騒いでしまっ……て……?」



 扉を開けると、宿屋の主人と微笑みを浮かべた初老の男性が立っていた。



 俺の部屋まで案内を頼まれたのか、宿屋の主人は



「じゃあ俺はこれで」



 と初老の男性に軽く会釈をして仕事に戻っていった。



 そして彼は宿屋の主人に会釈を返すと、その口を開いた。



「いきなり訪問して申し訳ありません、ラルフ君」



「あなたはあの時の……!」



「昨日ぶりですね、申し遅れました。私はスティーブンスと申します。よろしくお願いいたします」


 そう、その初老の男性は学園の入学試験で平民の受付を担当していた人物だった。



 俺たちに貴族が陰口を叩く中、平民の俺を応援してくれたのが嬉しかったから、しっかりと顔を覚えていた。



「さて、ラルフ君。急かす様で申し訳ないのですが、学園長が君をお呼びです。今からご同行をお願いできますか?」



 学園長が俺を?一体なんの用だ?



 もしかして、俺の試験結果には何か理由があるのか……?



「わかりました。すぐに準備します」



「ありがとうございます、学園長も喜びます。それと大変申し訳ありませんが、お友達はこちらでお留守番頂けますか?学園長はラルフ君一人との面談をご希望でして……」



「そうなんすね!了解です!」



「ん、まってる。」



 ニアとケントは快く了承してくれた。



 一緒に来る気満々だったろうに申し訳ないな。



「ありがとう2人とも……」



 俺は2人に礼を言って、すぐに支度を整えた。



「準備完了です、スティーブンスさん」



「ありがとうございます、それでは失礼……」



 そういうと、スティーブンスはそっと俺の肩に手を添えた。



 その瞬間だった。



 目の前の景色が、宿の俺の部屋から見慣れない一室に変わったのだ。



 まさか転移魔法で移動するとは……



 俺は今まで自分以外で転移魔法を使う人物を見たことがない。



 このスティーブンスという人物、只者ではない……



「ここが学園長の部屋です。どうぞこちらへ」



 広さにして10畳ほどだろうか。



 壁際に並ぶ棚には、様々なトロフィーや賞状が飾られている。


 

 その向かい側には、歴代の学園長と思われる人物達の肖像画がズラリと並んでいた。



 俺が室内をぼーっと眺めていると、スティーブンスは、コツコツと足音を鳴らしながら歩き出す。



 そして正面の大きな机に腰をかけて、口を開いた。



「さぁラルフ君、面談を始めようか」



 スティーブンスは先程までの執事の様な雰囲気から一変、歴戦の戦士のような雰囲気を纏いだした。



「えぇっと……スティーブンスさん……?学園長がまだいらしてない様ですが……?」



 俺は理解が追いつかず、スティーブンスに当然の疑問を投げかける。



「おっと失礼。私がグレートベル王立学園の学園長スティーブンス=マクガイアだ。騙してすまないね」



「えぇっ!?スティーブンスさんが学園長だったんですか!?」



 学園長という立場の人間が、一人の受験生のもとへ直接出向くなどありえるのか……?



 色々と気になるが、まずは話を聞いてみよう。



「一体なぜ学園長が身分を偽ってまで、直接出向いたんですか?」



「改めて君の人間性を、私自ら確かめたくてね。強大な力を持つ君だ。見えないところで学園にふさわしくない行動をしている様だったら、声をかけるのをやめようと思っていたんだ」



「そうだったんですか……」



「あぁ、だがそれは杞憂だったようだ」



 俺は変な事をしていなくて良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。



「それで、本題なんだが」



 スティーブンスが話を仕切り直す。



「君を特例入学という形で学園に迎えたいと私は考えている」



 なんだって……!



 どんな形であれ、学園に入学できるのであればこんなにありがたい話はない。



「ありがとうございます。それで特例というのは、どういう事なんでしょうか?」



「あぁ、君には特に授業などを受ける事は強制しない。3年後の卒業まで自由にこの学園施設を利用する事を許可する。その代わり……」



 その代わり……?



 俺は緊張の面持ちで身構える。



「それで……俺は何をすれば……?」



 恐る恐るスティーブンスへ特例の内容を確認すると、返ってきたのは驚きの言葉だった。



「君には、私の組織に加入してもらいたいと思っている」



 

 

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