第3話 出発

「ラルフ!今日は負けないぞ!」



「お手柔らかに頼むよ」



 神との接触の翌日、俺は剣を握っていた。



 今日は親友のケントと共に、彼の兄であるレインさんの元で剣の稽古をしてもらう日だからだ。



「それでは構えて、始め!」



  レインさんが合図を出すが、俺は剣に集中できずにいた。


 

 俺の幸せを守るために神を殺す。



 そう決断したはいいものの、一体どうすれば神を殺せるのだろうか。



 剣を振りながら考え込む。


 

 相手は世界をリセットできるような存在だ。



 生半可に戦っても瞬殺されるのがオチである。



 しかも、この世界での俺の行動は常に監視されているかもしれない。



 かなり難しい戦いになる事は間違いなかった。



「何ぼーっとしてんだよ!すきあり!」



「いて!」



 俺は頭を抑えてしゃがみ込んだ。



 完全に心ここにあらずの様子だった俺を見て、ケントとレインさんが心配する。



「どうしたんだよラルフ?ぼーっとしちゃってさ」



「確かに今日のラルフは様子がおかしいな。何かあったのか?」



「いえ、なんでもないです……」


 

 そう誤魔化しながら俺の思考は続く。



 唯一神に対抗出来ると思われるのは"使徒"じゃないか?



 俺と同じ役目を持っている"使徒"であれば、高い能力を持っているはずじゃないか?



「神の考えに疑問を持っている"使徒"がいれば仲間に引き込めるかもしれない……?」



 俺が小声でそう呟くと2人が反応した。



「ん?使徒?」



「ラルフ、使徒様の事が気になってたのか?」



「え?」



 俺は思わず聞き返した。



「使徒様と言ったら、我が国の第二王子の事だからな。なんでも、神から使命を受けて通じているとかなんとかって話だぞ?」



「へー、レイン兄さんよくそんな事知ってるね!」



「あぁ、仕事で王都に行った時に王城で小耳に挟んだんだ。あまり外部には漏れていない情報なのかもな」



 俺の兄貴はすげぇや!と感心しているケントの横で俺はレインさんに質問する。



「第二王子にはどうすれば会えますか?」



 どこにいるのかも分からなかった"使徒"の情報だ。



 ここで無駄にする訳にはいかない。



「そうだな、王都の学園に入学するのが手っ取り早いんじゃないか?たしか第二王子はお前らと同い年だからまだ先の話にはなるがな」



 王都の学園は15歳から入学を受け付けている。



 学園は貴族や平民などの階級に関係なく、試験を突破した者だけが入学できるルールではある。



 だが裏を返せば、元々ステータスが高めで教養がある貴族階級は試験を突破しやすく、逆に平民は突破しにくい。



 『"継承される魂"〈アセンションハート〉』の効果でステータスが高くなったとはいえ、このままでは入学する事は難しいだろう。



「5年後ですね……」



 目標は定まった。



 まずは、5年後に学園への入学。



 そして、それまでは『"継承される魂"〈アセンションハート〉』で得た能力を使いこなすための修行だ。



 そうと決まれば話は早い。



「ケント!もう一戦だ!」



「いきなり元気になりやがって!やってやるぜ!」



 俺は強くなるために稽古を再開した。





 あれから5年が経ち、俺は15歳になった。



『王都の学園に入学し、第二王子と接触する』



 この目標だけを掲げてこの5年間、修行に励んできた。



 その結果、『"継承される魂"〈アセンションハート〉』の効果で大幅に上がった能力をほぼ使いこなせるようになった。



 まず魔法についてだ。



 俺は適性のある、風、雷属性の魔法を覇王級まで使いこなせるようになった。



 練習で天王級風魔法『厄災の嵐〈ディザスター〉』と天王級雷魔法『雷神具〈ライジング〉』を同時に発動してみた時は、村が消し飛ぶ寸前レベルの魔法になってしまって両親にこっぴどく叱られた。



 そして無属性魔法についてだ。



 調べた結果、これに関してはどうやら魔法とは言いつつも魔法に属するものではないらしく、階級が存在しないとの事だった。



 しかし使える人が周りにいないため、修行の方法が分からなかった。



 だが、あるきっかけで一気に無属性を使いこなす事に成功する。



 俺は思考を重ねた結果、無属性は他の属性以外全ての事象を捉えていると定義した。



 全ての事象とは、大まかに言えば空間や時間、運などである。



 それを踏まえて魔力を集中させた結果、自分の体感時間を伸ばす魔法や転移魔法、それに運を上昇させる魔法など、様々な魔法の習得に成功した。



 自分で言うのも何だが、完全にチート魔法である。



 特に転移魔法は、一度行ったことがある場所ならどこへでも転移出来るため、非常に便利だった。



 魔法についてはこれくらいだ。



 剣に関しては、レインさんが認めてくれる実力にまで至ることができた。



 それは共に稽古を受け続けてきた、ケントも同様だ。



 あとは『"世界の管理者〈ワールドマスター〉』についてだが、5年経った今も未だ効果がわかっていない。



 だが"使徒"である第二王子に接触すれば何かわかる可能性が高い。



 それまでのお楽しみって事にしておこう。



 とりあえず、今の俺なら問題なく学園の試験を突破出来るに違いない。



 前世では考えられないくらいの努力をしたものだ……



「おーいラルフ!もう行くぞ!」



「ラルフ、はやく。」



 感慨にふけっていると、ケントとニアの声が聞こえた。



 今日は学園の入学試験から丁度1週間前であり、俺たち3人が王都へ出発する日なのだ。



 ソルバ村から王都まで約6日かかるので、試験前日に王都へ到着する予定だ。



「それじゃあ、父さん、母さん行ってくるね」



「あぁ、全力で受けてくるんだぞ!」



「応援してるわよ!」



 両親は俺が学園に入学したいと相談した時、何も否定せずに了承してくれた。



 ニアとケントに関しては、ラルフが行くならと一緒に学園の試験を受ける事になった。



 ケントの実力は、剣術、魔法共に問題ない。



 ニアについても元々の素質が高い事と、例のチートスキルがあるためこちらも問題ない。



「それじゃあ、行ってきます!」



 両親に一時の別れの挨拶を告げて、俺たちは王都へ出発した。





 ソルバ村を出発して5日が経った。



 王都まであと1日といったところである。



「暇の極み。」



「それな!ニアもそう思うよなー」



 この5日間、何の問題もなく進めているのだが、2人には刺激が少なすぎたようだ。



「暇でいいじゃないか。何の問題も無いって事だろ?」



「それはそうだけどさ〜偶然困ってるお姫様がいてさ!俺たちが颯爽と助けに現れる!みたいな事があってもいいじゃんか〜」



「じゃんか〜。」



「そんな事ある訳ないだろ」



 俺がそう言った直後にニアが呟いた。



「トラブル発見。」



 ニアの指さす方を見ると、馬車が魔物の群れに襲われているようだった。



 マジか……と驚いていると



「よっしゃぁぁ!助けにいこうぜ!ラルフ!ニア!」



「ん、出陣。」



 自分たちの乗っている馬車を飛び出して走る2人を追いかけるように俺も飛び出した。



 襲われている馬車の元に到着すると、魔物の群れに囲まれる形で兵士数人とその後ろで怯えている綺麗なドレスを着た女性がいた。



「ゴブリンの群れか、2人ともいけるか?」



 ゴブリンは単体であれば雑魚だが、群れた場合リーダーに統制されるためかなり厄介な魔物だ。



 そのため、ゴブリンの群れの討伐は危険がともなう。



 それ故に俺は2人に確認をした。



「あったりまえよ!」



「ん、楽勝。」



 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。



 そしてすぐさま2人は群れに突撃した。



「刀剣生成・炎付与!〈ソードファクトリー・ファイアエンチャント〉」



「能力向上・筋力!〈ステータスアップ・オーバーパワー〉」



「ギェー!」「ギェァー!」



 ニアは炎を付与した剣を召喚すると、ものすごい勢いでゴブリンを切り倒していった。



 同様に、ケントも自身の攻撃力を上げて、バッタバッタとゴブリンを切り伏せていく。



 ケントのスキル『能力向上〈ステータスアップ〉』は自分の意思で選んだ能力を数段階引き上げるというものだ。



 2人ともかなり強い。



 このまま任せてしまっても大丈夫だろう。



 だが、2人を危険な目に合わせるのは俺の信条に反する。



「時間加速〈アクセルブースト〉」



 俺は小声でそう唱えた。



 その瞬間、全てのゴブリンの頭と胴体がお別れして全滅した。



「何が起こったんだ……?」



「意味不明、困惑。」



 『時間加速〈アクセルブースト〉』は俺が習得している無属性魔法の1つだ。



 その効果は、自分の体感時間を伸ばすというものである。



 伸ばす度合いについては魔力の込め方によって変わるが、先ほどは約10秒体感時間を伸ばした。

 


 つまり、通常の1秒が俺にとっては10秒に感じるという事だ。



 客観的に見たら何をしているか全く認識出来ないだろう。



「ゴブリンは全て倒しました。大丈夫でしたか?」



 困惑しているケントとニアを置いておいて、俺は女性と兵士たちに声をかけた。



「はい、危ないところを助けていただき感謝します」



 兵士の1人が答えると、その後ろから女性が兵士を押し除けて飛び出てきた。



「あなたは命の恩人ですわ!本当に感謝いたしますわ!」

 


 俺の手を握りながら感謝を述べる女性。



 後ろからニアがフシャアー!と威嚇するような音を出しているが、ケントがなだめてくれている。



「いえいえ、お怪我がなさそうで良かったです。それではこれで失礼しますね」



 そう言って自分たちの馬車へ戻ろうとしたところ、女性に手を引っ張られた。



「お待ちくださいませ!この国の第二王女として良い仕事には相応の報酬を与えるのが責務ですわ!何かお礼をさせてくださいまし!」



 第二王女……だと?



 これはチャンスだ。



 偶然にも王族の人間に恩を売る事ができた。



「そうしましたら、第二王子への謁見をさせて頂けないでしょうか?」



「わかりましたわ、それくらいでしたらすぐにでも調整させて頂きますわ」



「ありがとうございます、僕はラルフと言います。今はソルバ村から王都へ学園の入学試験を受けに行くところです。よろしくお願いします」



「私はアンリですわ。必ず後日、使いの者を伺わせますわね」



 そう言うと姫は馬車へ乗り込んだ。



「それではまたお会いしましょう」



「はい、必ず」



 その言葉を最後に、第二王女を乗せた馬車は去っていった。



 とりあえず第二王子との接触はうまくいきそうだ。



「いやー、第二王女様かわいかったな!」



「ラルフの方がかわいい。」



「なんだそりゃ……」



 俺たちは軽口を叩き合いながらも、第二王女を守った達成感を感じながら自分の馬車へと戻っていった。

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