第2話 決断
儀式を終えた俺は、部屋で1人ステータス画面を眺めていた。
ちなみにステータス画面は、転生した際に何となく念じたら目の前に突然表示された。
転生者である俺以外には見えないらしい。
さて、話を戻そう。
俺が授かった『"継承される魂"〈アセンションハート〉』の効果は"継承"だ。
すなわち、以前にこのスキルを持っていた者たちの記憶、能力をすべて引き継ぐというものだった。
このスキルが俺にもたらす恩恵はとてつもない。
まず能力の継承だ。
ステータス画面を見た限り俺のステータスはとんでもないことになっていた。
「こんなステータス化け物と大差ないだろ……」
あまりのステータスの高さにドン引きする俺。
そして記憶の引き継ぎ。
儀式の際に俺の頭に流れ込んできた光景は、過去に『"継承される魂"〈アセンションハート〉』を授かった人たちの記憶である。
俺が儀式の時に焦ったのは、この多くの記憶の部分にある。
それぞれの光景の文明に差がありすぎるのだ。
俺が転生前に生きていたような世界もあれば、魔法が飛び交う世界、はたまた機械が発達したロボット世界など、どう考えてもどれもこの世界の記憶ではない。
最初は俺のように異世界から転生してきた人物達が、たまたま『"継承される魂"〈アセンションハート〉』を引き継いだのだと思った。
だが、神を名乗るアイツは『本当なら魂は同じ世界で転生する』と言っていた。
この言葉から察するに、異世界に転生する事はかなりのレアケースなのだ
つまり、異世界の魂が継承前に含まれている可能性はまずないはずである。
それ故に俺は1つの結論に辿り着く。
「この世界で何度も文明の発展と終焉を繰り返してるって事かよ……」
この世界では10年しか生きていないが、そんな歴史は聞いた事もない……
こんな事が世間に知れたら大きな問題になる。
なぜなら、自分たちの世界もいずれそうなるのかも知れないのだから……
そして何故、異世界から転生してきた俺が『"継承される魂"〈アセンションハート〉』のスキルを授かったのか?
異世界人の俺は、この世界出身ではない。
俺が『"継承される魂"〈アセンションハート〉』を授かったところで、魂の出身が違うため、この世界で転生を繰り返している訳ではない。
つまり何も引き継げる能力や記憶がないのはずなのだ。
だが、考えられる理由が1つだけある。
それは『アルフ=ユーフレッド』として元々生まれる予定だった魂が『"継承される魂"〈アセンションハート〉』を授かったという事だ。
そして俺がもう一つ授かったスキル『"世界の管理者"〈ワールドマスター〉』
このスキルが異世界から転生してきた俺の魂が定着した結果、授かった物なのではないだろうか。
そう考えると全ての辻褄があう。
『"世界の管理者"『ワールドマスター〉』については、まだ何もわかっていないが、ひとまずそれはおいておこう……
考えすぎて頭が痛い。
「今日はもう疲れた……」
そうして俺は真っ昼間から眠りにつくのだった。
▼
「ん?またここか……」
俺は転生前に一度来た空間でまた目を覚ました。
「やぁやぁ、久しぶりだね」
あの時聞いた妙に甲高い声がまた響く。
「俺はまた死んだのか……?」
この空間で目を覚ましたという事は、また死んでしまったのかと不安になる。
しかし、その不安もすぐに払拭される。
「ちょっと用があってね、僕の方から君の魂に接触したんだ。だから安心していいよ」
「そんな事もできるのか」
「なにせ神だからね、大抵の事は出来るさ」
「なるほどね……それで何の用だ?」
俺はニヤつく神に用件を聞く。
「今後について話しておいた方がいいと思ってね。君、スキルを授かったろ?という事はスキルの効果も分かってるはずだよね?」
「過去に『"継承される魂"〈アセンションハート〉』を授かった人たちの能力と記憶の継承だろ?」
「うん、そっちはそうだよ。それで何か疑問に思わなかったかい?」
「疑問……?」
疑問なんてたくさんあるが、答え合わせのように神は語り出した。
「まず君、2つスキルを授かったろ?その理由は君が考えている通りで合ってるよ」
やはりそうだったかと納得しながらも、申し訳なさを感じていると神がフォローに入る。
「でも気にしなくていいよ、元々死産の予定だったからね」
だとしてもだ。
この体は大切に使わせてもらう。
「それで?あのスキルの効果はなんなんだ?」
俺はここぞとばかりに『"世界の管理者"〈ワールドマスター〉』のスキル効果を尋ねる。
「そのスキルは文字通り、僕から世界の管理を任された者が授かるスキルだよ。君を異世界に転生させた理由でもあるね」
「じゃあこのスキルはお前が俺に授けたってわけか」
「そうなるね、まぁ話を聞いてよ」
そういうと神はゆっくりと語り出した。
「君は『"継承される魂"〈アセンションハート〉』の効果で色んな記憶の光景を見たと思う。その記憶の通り、この世界は色んな文明を何回も繰り返しているんだ」
「なるほど、やっぱりそうなのか」
「うん、それでなんで繰り返しているのかって事なんだけど、僕が世界をリセットしてるんだよね」
「はぁ!?どういう事だよ!!」
神のその発言は予想外だった。
確かに、どの記憶の光景も途中で真っ白になって途切れるのだが、これは記憶が断片的に流れている、もしくは当人の死によるものだと俺は思っていた。
だが、神によるリセットだと言われれば確かに全てが唐突に終わっている事から納得できる。
まるでゲームの途中で電源を落としたかのように見えるからだ……
「何でそんな事を……」
呆然としてる俺に対して神は説明を続ける。
「まぁ、落ち着いてよ。僕は人類を進化させたいんだ。だから"戦争"とか"環境破壊"とかくだらない事をしだしたらリセットしてやり直させてるんだよね」
続けて神は語る。
「でも中々うまくいかなくてね〜スキルを授かるくらいには進化させられたんだけど、そこから全然上手くいかないんだよ〜。そこでだ、君に"世界の管理者"として人類の進化を促して欲しいんだよね」
理由としては素晴らしい理由かもしれない。
だが、俺は1つだけ聞きたい事があった。
「もし俺が人類の進化を促す事に失敗したり、その用件を断ったら……?」
「そしたらリセットだね」
神の顔は靄がかかってハッキリと見えないが、ニッコリと笑っているのは分かった。
「僕の用件はこれくらいだよ。何か質問はあるかい?」
神の笑顔に戦慄しながら、俺は疑問に思った事を尋ねる。
「質問したい事は2つ。まず、何で人類を進化させたいんだ?」
そもそもの理由が知りたいのは当然だ。
神はまたニッコリしながら答える。
「ゲームみたいなもんさ」
なんてこったい……
何か崇高な理由でもあればと思ったが、この神にはそんなものは無いようである。
「わかった……じゃあ2つ目の質問だ」
未だニッコリとしている神に問いかける。
「俺1人で人類の進化を促すなんて、さすがに無理じゃないか?」
1人で人類全体を進化させるなんて夢物語のようなものだ。
さすがに無理ゲーすぎるのでは?
すると予想外な答えが返ってきた。
「管理者は君1人ではないよ。今の世界では"使徒"と呼ばれているみたいだね。協力出来るかは君次第だけど探してみるといいよ。何人かいるからさ」
"使徒"……また新しいワードだ……
だが、協力できそうな奴がいる事が分かっただけよしとしよう……
「わかったよ。俺の質問は以上だ」
「じゃあ、今後ともよろしくね。たまにこっちから接触するから、その時に近況を聞かせてね〜」
神がそう言うと、俺の意識は遠くなり深い眠りについた。
▼
「はぁ〜どうしたもんかな……」
目が覚めると、すっかり外は暗くなっていた。
しかし、考え事は尽きない。
頭を悩ませていると、部屋のドアが開いた。
「ラルフ、大丈夫?」
儀式の事もあってか、ニアが俺を心配して部屋を訪ねてきた。
「あぁ、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけさ。」
ニアはいつも俺を気にかけてくれる。
「本当?」
ずぃっと顔を寄せてこちらをじーっと見てくるニア。
「ニアは優しいな」
俺はニアの目を見て微笑む。
「そんな事はない。」
ニアは顔を赤くして目を逸らした。
相談に乗って欲しいのは山々だが、内容が内容だ。
ニアや両親には心配をかけたくない。
「ニアと話したら元気になったよ、ありがとう」
「ん、それならいい。ご飯できてるから降りてきてね。」
俺がお礼を言うと、ニアは顔を赤くしたままトコトコと部屋を出た。
そんなニアの様子を見て、俺には守りたいものがあると再認識した。
"世界の管理者"としての役割を断ったら、この世界はリセットされて消える。
かといって、その役割が上手くいく保証も無いし、それに神が飽きて途中で世界をリセットする可能性も大いにあり得る。
俺が今の幸せを守る方法は1つだけである。
「やるしかないかぁ……」
神を殺そう。
そう決断した。
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