第4話 王都
「予定通りだな」
俺たちはアンリと別れたあと、無事に王都へ到着した。
「うぉぉ!見ろよラルフ!人がめっちゃいるぜ!さすが王都だな〜!」
「ケント、田舎丸出し。」
「何だとニアー!お前だってはしゃいでるくせによぉー!」
2人とも初めての王都に浮かれ気味のようである。
かくいう俺も、転生して初めての都会だ。
異世界の都会がどんなもんか冒険心をくすぐられている。
「なぁ2人とも。まだ休むには早いし、少し王都を探検してみないか?」
「それいいね!俺は賛成!ニアは?」
「もち賛成。」
「決まりだな」
2人を連れて俺は馬車を降りた。
もちろん、ここまで俺たちを馬車で運んでくれた御者に礼の賃金を払ってからな。
こうして、ようやく俺たちは王都の地を踏んだ。
「それで?どこいくよ!」
「そうだな……冒険者ギルドなんてどうだ?」
「いいね!俺も王都のギルドに行ってみたかったんだよ!」
「ん、よき。」
異世界転生といったら、やはり冒険者だろ。
と言わんばかりの俺の提案にケントとニアはノリノリで答えた。
それもそのはず、俺たちの故郷であるソルバ村は田舎すぎて冒険者ギルドが無いのだ。
転生といえば冒険者のイメージだった俺は、幼い頃父に冒険者のなり方を聞いた事があった。
すると父は、ソルバ村は王都からかなり離れているため冒険者ギルドが存在せず、村人同士が協力して問題を解決しているという事を教えてくれた。
俺のイメージとかけ離れていたため拍子抜けしたが、村の問題に対してリーダーシップを発揮する父を見続けている内に、今は冒険者になれなくてもやれる事をやってみようと思ったものだ。
「ラルフ、あれ。」
俺がぼーっと昔の事を思い出している内にニアが冒険者ギルドを見つけたようだ。
「よっしゃぁー!入ろうぜ!」
「あっおい!」
ケントはギルドへ向かって一直線に走っていった。
やれやれと俺たちもギルドへ向かおうとした時だった。
「ニア!掴まれ!」
後ろから物凄い殺気を感じた俺は、ニアの手を掴んで咄嗟に『時間加速〈アクセルブースト〉』を発動した。
体感時間を10秒に伸ばし、殺気の正体から距離を取る。
「おいお〜い、逃げなくてもいいじゃんかよ〜」
振り返ると、そこには20代半ばくらいの長身金髪で前世では考えられないレベルの整った顔面をした女が立っていた。
(パリコレモデルかよ...…)
一瞬下心が脳によぎったが、すぐに警戒を強める。
「ラルフ……」
それを見抜かれたのかニアにじーっとこちらを見られた。
「いきなり何のようだ!誰だお前はぁ!」
俺はニアの視線を感じながら、わざとらしく美女に問いかける。
「おいお〜い、何もとって食おうって訳じゃないんだからよぉ〜」
その綺麗な顔面とは正反対の、下品な口調で美女は語る。
「お前からあのクソ神の匂いがしたからよぉ〜殺気をあてて反応を見てみたんだわ〜。今の世界では"使徒"だっけか〜?」
こいつ……なんなんだ……?
俺は目の前の美女への警戒を更に強めた。
"使徒"の事は、レインさんでも知っていた情報だ。
知っていてもおかしくない。
だが、『クソ神』や『今の世界』という発言が気になる。
あの神がクソだということには全面的に同意だがな。
とりあえず、こいつはあの神に対して良い印象を持っていない。
もしかして、俺と同じ転生者か……?
今はこれ以上コイツと関わるのは危険だと俺は判断した。
「そのクソ神とやらに何か用なのか?あいにく、俺は何も分からないぞ」
俺はとぼけてやり過ごそうとする。
すると数秒の静寂の後、美女が突然笑い出した。
「ナッハッハッハ!」
「……?」
美女が笑い出した理由が分からない俺とニアは困惑する。
「"使徒"の匂いをぷんぷんさせてるってのにクソ神とはなぁ〜!」
とりあえずやり過ごせたか……?
そう思っていると美女が続ける。
「お前おもしれぇな〜オレはデリエラだ」
「俺は……ラルフだ」
刺激しないようにこちらも名乗る。
「ラルフか〜!また会おうぜ〜ラルフ〜!」
そう言い残して、デリエラはこの場から立ち去った。
「なんだったんだあいつは……?」
「あいつ、絶対危険……。」
ニアの言う通り、確実に危険人物なのは間違いない。
だが、恐らくまたどこかで確実に会う事になるだろう。
そんな予感がした。
▼
「マジかよ…そんな奴がいたのか…」
俺は先に冒険者ギルドへ突っ込んでいたケントに先程起こったことを報告した。
「恐らくかなり危険な奴だ、お互い気をつけておこう」
「おぉ、でもそんなに綺麗だって言うなら一回顔を拝みてぇな〜」
「ケント、最低。」
「なんでだよ!」
ニアとケントのやり取りは、いつ見てもおもしろい。
「さて、じゃあ気を取り直して冒険者登録をしようか!」
「おぉ!そうだな!」
「ん、わかった。」
俺たちは冒険者ギルドの受付の女性に声をかける。
「すいません、冒険者登録をしたいのですが」
「はい!それではこのカードに血を一滴垂らしてください!」
どうやら、カードに血を垂らす事で自動的に登録が完了するらしい。
こういった地味に痛い行為は苦手なのだが……
「やべ!刺しすぎた!」
「うぅ……我慢……。」
2人とも同じ気持ちだったらしい。
「はい!これで登録完了になります!それでは冒険者ギルドの説明をさせて頂きますね!」
受付嬢はそう言うと、未だに指から血が垂れているケントを横目に説明を始めた。
「まず、冒険者の皆さんにはランクがございます。F級から始まって最高ランクであるS級までの7段階となっています」
「また受注できる依頼についてですが、ランクの1つ上のランクまでの依頼となっています。皆さんは現在F級なのでE級までとなりますね」
なるほど、この辺は前世の漫画で読んだ知識と同じだな。
「最後に昇級についてですが、各ランクの依頼をこなして頂いて能力が昇級に値するとギルドで判断した場合に昇級となります」
「私からはこれで以上になります!何か質問はありますか?」
ケントの指から垂れていた血が止まった頃、ようやく受付嬢の説明が終わった。
そしてすかさず、ケントが質問を投げかけた。
「はい!質問です!S級になるにはどうしたらいいですか!」
確かにそれは気になる。
男なら頂点を目指したくなるよな。
「条件はありませんが、偉業を達成した冒険者のみが到達できると言われていますね!」
受付嬢は説明を続ける。
「ちなみに現在S級冒険者は『千剣のラインハルト』『金剛将軍ウォーロック』『氷の魔女カナン』の3人のみです。どなたも偉業を成した英雄ですね!」
「その3人はどんな偉業を成したんですか?」
俺は受付嬢に尋ねる。
「まずラインハルトさんは5年前に、王都に飛来した黒龍を単騎で撃破した英雄ですね!」
黒龍か……
以前レインさんに、この世界には『竜』と『龍』がいると聞いた事がある。
『竜』はワイバーンなどの小型のドラゴンで『龍』は大型のドラゴンの事らしい。
たしか『龍』はその色によって脅威のレベルが異なり、黒龍となると1番脅威のレベルが高い『龍』だったはずだ。
その黒龍を1人で倒したとなると化け物級に強い事は間違いないな……
「次に、ウォーロックさんは帝国最強の将軍です!10年前のノーザリアとの戦争の際、その絶対的な殲滅力で敵対勢力は一歩たりとも城に侵入出来なかったとか!」
その戦争は少し聞いた事がある。
『イヴァリス帝国』
周辺の小国と領土を争って、戦争を繰り返している国だ。
たしかノーザリアは、その戦争で負けて帝国に取り込まれたと聞いている。
そしてニアはこの戦争の被害者でもある。
ノーザリア出身のニアは、この戦争で両親を失って戦争孤児となっていた所を奴隷商に捕まり王国で売られたと言うわけだ。
俺としては、その件もあり帝国には良い印象がない。
「帝国ッ……。」
ニアの物凄い怒りの感情をひしひしと感じる。
今は帝国も大人しくしているが、いずれ王国に戦争を仕掛けてくるかもな……
そうなったら俺はみんなを守るため、容赦しないつもりだ。
「え……えぇーっと!最後がカナンさんですね!世界で唯一の氷魔法の使い手で、魔法研究の第一人者です!以上ですっ!」
気まずさを感じたのか、受付嬢はそそくさと説明を終えた。
氷魔法がどんなものか、ちょっと気になったのにな〜
「ありがとうございます。それじゃあ今日は一旦帰ります。」
「そうですか……それではまたいらして下さい!」
今日は依頼を受けるのが目的ではない。
少し残念そうな受付嬢に礼を言って、俺たちは宿へ向かう事にした。
▼
「今日から2日泊まりたいんだが空いてるか?」
「あぁ空いてるよ。3部屋で銀貨60枚だ。」
「はいよ」
俺たちが金を払うと、宿屋の主人は説明を始めた。
「飯の時間は朝昼晩と決まってるから、各自部屋から降りてきて自由に食ってくれ。あと部屋をぶっ壊したりしたら弁償してもらうからな。頼んだぜ」
「わかりました。」
「そんじゃ、いこーぜ」
俺たちは2階の部屋へと向かう。
「じゃあ、明日は早いから2人とも寝坊するなよ?」
「お前だって寝坊するなよなー!」
「ん、ラルフに起こしてもらう。」
ニアが何か言っていたが、2人にそう言ったあと俺は部屋に入った。
「今日は色々とあったな……」
俺は今日の事を振り返る。
特にデリエラだ。
次に会ったら"クソ神"や、"今の世界"という発言について問いただしてみよう。
恐らくあいつは、あの神の関係者で間違いない。
それにS級冒険者の3人だ。
神がこの世界の管理を任せているのは、強い奴の方が可能性として高いと俺は考えている。
つまり3人は“使徒“である可能性がある。
どうにか接触できたらいいのだが……
まぁまずは明日の入学試験を突破する事だけを考えよう。
晩飯までは、まだ少し時間がある。
少し寝ておくか。
俺は久々のベットに身を包ませて、即座に眠りについた。
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