第8話 正義と悪が

残暑が残る初秋の頃。

少しずつ青からオレンジに移りゆく校庭のジャングルジムはいつかの季節のセミよりもにぎやかになっていた。


「おい、今度新しいマンガ出てたよな!見たか?」

「ああ、あれか。お前あれはさすがに…」

「んだよ。ただの友情系漫画だろ?あれ」

「ち、違うよ芳雄!あれは…その…なあ?和正」

「う、うん。あれは…ね?友情というか…その…」

「なんだよ、違うなら教えてくれよ!」

「「言えないよ!」」


『ねえねえ、今の聞いた?』

『聞いた!え、絶対あれでしょ?フルーツヨーグルトって漫画』

『多分そう!あれ、恋愛漫画なんだけどねえ?』

『しいっ!芳雄には内緒にしとこう?』

『ふふっ、芳雄ったら気付いた瞬間顔真っ赤にしてすぐ閉じてそう』

『『確かに!』』

「「あははははっ!!!」」

「んだよ!女子まで一緒になって!!違うなら教えてくれよ!」

「ええ?やだ、言わない!」

「はあ!?それはずるいぞ!」

「「芳雄、落ち着けって!」」

「落ちるよ!」「危ないよ!」


「あいつら、なんだか楽しそうだね」

「漫画の話で盛り上がってるっぽい」

「ああ、何かそういえばこの前セギーマンが連載終了して、フルーツヨーグルトって漫画が始まったんでしょ?」

「そうそう。あれ読んだけど、美紀と達哉の”仲良し”シーン最高だったなあ」

「ねえ。分かる」

「”先輩”!もしかしてあれ、知ってるんですか!?あれ友情系漫画ですよね!?」

「え?いや」『おい!』

『言ったらまずいって』

「え、あ、ああそうそう!そうだよ、うん!あれ友情系漫画だよ!」

「ねえ!?そうですよね!…ほらあ!」


その瞬間、一人を除いてまたみんなが笑った。

空には出来立ての一本の飛行機雲が掛かっていた。


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