第5話 悪とは、正義とは、

あれから約一週間が経とうとしていた。

その後担任は”先輩”を探し出し直接注意をしたらしい。

だが、一向に虎太郎たちに謝罪の言葉は向けられなかった。

姿さえも現さなかった。


先週の大雨でとりあえず梅雨が明けたらしい。

少しずつ日向を見せる校庭にはまた多くの生徒が散らばっていた。

また芳雄がジャングルジムのてっぺんで、和正が麓、虎太郎がその間で空を見上げる。

「ねえ、あのさ」

虎太郎が視線を空から背けずに呼ぶ。

「なんだよ」

上から芳雄が答える。

「今の僕たちって悪の秘密結社ワールゾーみたいだね」

和正がぶっきらぼうに言う。

「僕たちが悪いって言いたいわけ?お前さあ、麻野先生みたいなこと言うなよ?」

「いや言わないよ。ほら、僕たちもワールゾーのみんなも「ただ安全な場所で元と同じことがしたかった」だけじゃん。それってやっぱり悪いことなのかなって。」

段々声をフェードアウトしながら虎太郎は投げかけた。

「…絶対悪いことじゃない、って俺も気付いた」

ようやく視線の先を虎太郎に向けて芳雄は言った。

「芳雄…」

和正は芳雄を見た。

「なあ和正、お前も気付いただろ」

芳雄も和正を見た。

しかし、和正は視線をそらし口を尖らせた。

「…僕は思わない。…その代わり、神も上級生もなんであんな酷いことをするんだって思うよ。」

「…確かに」

虎太郎は視線を下げた。確かに言われてみればそもそもなぜ神はワールゾーの人々をわざわざ水に沈めて嫌な思いをさせ、追い出す必要があったのか謎である。

「…それとさ、俺たちもワールゾーも、萌恵たちもセギーマンも、皆どうすればよかったんだろうな」

受け入れてほしい方と受け入れる方。

受け入れられる方は一刻も早く日常に戻りたいが、受け入れる方はこれまでのこれからの行動パターン分からない集団を自分の領域内に置かなければならない。

そんな中でお互いどんな行動を取ればよかったのだろうか。

まだ少し重みのある雲が日光を遮った。

「…今日か?最新刊の発売」

芳雄はまた空に視線を戻す。

「うん。…ああ、あのさ?良かったら一緒に読まない?」

虎太郎は視線を芳雄と和正、上下に振った。

「「いいよ、読もう」」

三人はまた視線を空に戻した。

日光はどこにも見えなくなっていた。

そして同時に1つの疑問が湧いた。

「正義とは一体何だろうか」

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