第4話 これは悪なのか

ジャングルジムを後にした三人は話ができる場所を探した。

鉄棒の側、滑り台の近く、ブランコ、平均台、砂場、グラウンド、動物小屋の前───。

しかし昼休みの真ん中であったためどこも満員だった。

三人は仕方なく校舎に戻ってあちこちを歩いた。

玄関、図書室、ホール、保健室、職員室、校長室、体育館───。

やはりどこも満員で空き場所は無かった。

仕方なく教室に戻った。

教室では女子たちが固まって恋バナで盛り上がっていた。

その中心に三人の席があった。

「わりい、俺たちそこ使いたいから空けてもらってもいいか?」

すると、女子の中でリーダー的なポジションの萌恵がだるそうに答えた。

「はあ?今私たちが使ってるんだけど」

「ああ、ごめんね。そこ僕たちの席なんだ。そこだけ空けてほしいんだけど、ダメかな?」

なるべくやわらかい口調で虎太郎が話す。

「いや、他空いてるんだし他使いなよ」

萌恵はてきとうにあさってを指さしながら答えた。

今までどこも断られ怒りが限界に来ていた芳雄は強めに言った。

「俺たちはそこ使いたいんだけど悪いか?」

萌恵も強めに返した。

「うん悪い」

その瞬間芳雄は萌恵に近づいた。

虎太郎と和正の静止が若干遅れる。

「おい、なんだよその態度!素直に空ければいいだろ!」

「あ、芳雄!」

「きゃっ!?」

芳雄が萌恵の髪を乱暴に掴んだ。

「俺たちはここしか席がねえんだよ!萌恵たちは他の女子の席使えばいいだろ!」

「ちょっと!いやあっ!」

芳雄が萌恵に殴りかかろうとした。

その瞬間和正は芳雄を羽交い絞めにし、虎太郎は芳雄の拳を抑えた。

「芳雄!落ち着けって!」

「そうだよ!僕たちはまだ探せば話せる場所見つかるってば!」

その後女子が呼んだ担任によって芳雄たちは職員室に連れていかれた。


「芳雄くん、なんで女子にあんなことをしたの!」

「だって、あいつら退かなかったんですよ…!」

「それでもしていいことと悪いことがあるでしょう!」

担任はバンっと机に出席簿をたたきつけた。

「先生、聞いてください」

虎太郎が口を開いた。

「何ですか」

「僕たちも酷い目に遭わされたんです」

「酷い目って、どうせ萌恵さんたちにそこを退いてって言ったら悪口を言われたとかでしょう?」

和正が首を振って言った。

「最初、僕たちはジャングルジムで遊んでいたんです。そうしたら、”先輩”にボールを投げつけられて「”先輩”だから”後輩”は素直にそこを立ち去れ」って暴言吐かれたんです。その後僕たちはいろんな所を歩いて遊べる場所を探しました。けれどどこも空いていなくて教室に帰るしかなかったんです。それでも芳雄のやったことは許せるものではありません。ですが、”先輩方”の行いも良くなかったと僕たちは思うんです。僕たちはただ遊んでいた。使いたいなら芳雄みたいに初めに「僕たちも使いたいから少し場所を貸してほしい」って言えばいいんじゃないですか?」

その時虎太郎は思った。

今の僕たちはまさにワールゾーと同じだと。

ただ普通に暮らしていた、遊んでいた。

その場所を追われたが、他に行く当てがない。

その中で安全な場所を見つけた。そこでまた前のように暮らそうとした。

たったそれだけのことなのに…なぜ仲良くできないのか。

担任ははあっとため息をついてこう返した。

「分かりました。じゃあ、その”先輩”どんな人だったか教えて。私のほうから注意しておくから。」

大きな窓の西のほうに真っ黒な雲が現れ始めた。

遠くで雨が地面に叩きつけられる音がする。

もうすぐ”ここ”にも雨が迫ってきていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る