もう一度だけ

美心徳(MIKOTO)

第1話 繋がりが切れた日

 毎年この季節になると憂鬱になるんだ。八年前の卒業式の事を思い出す・・・

大学四年も終わりを告げようとしていた頃、僕は一人の女性と距離が縮まっていた。それは恋愛なんて言ういつ終わってしまうか分からない淡い糸の繋がりではなく、人生をかけて付き合っていく事になる問題の濃くもあり薄くもある、太くもあり、今にも千切れてしまいそうな糸の繋がりだった。

 彼女の名前は大塚佳織と言い、才色兼備なのに周りからは何処か浮いていた。クラスの中心的存在でも無く、一人で黙々と過ごしていた。以前まではそれなりにクラスの仲間たちと笑い合って過ごしていたが、ある時から彼女は笑顔を見せなくなった。

周りから陰口を言われているわけでも無い。本当にあの事件から全く感情を見せなくなった。しかし、ひょんな事から僕の秘密を知った彼女は僕にだけ笑顔を見せるようになった。そしてその笑顔を見せるのは決まって誰もいない僕と彼女の二人だけの時だった。そんな彼女と最後の言葉を交わしたのは卒業式の式典後に駐車場に向かう途中で、彼女と交わした言葉は八年経った今でも忘れる事はない。僕の人生の岐路とも言うべき内容だった。その時の彼女は桜色の小振袖に紺の袴を着ていて周りが写真映えする派手な衣装を着ている中、シンプルでそれでいて華やかさもあり可愛らしさがあった。僕はそれまで彼女に恋心を持っていなかったが、彼女に声をかけられ後ろを振り向いた瞬間の彼女の笑顔が今でも瞼に焼き付いている。そんな彼女がまさかあんな事になるなんて、その時は想像もつかなかった。それから僕は彼女に発した言葉を胸に焼き付けて生きてきた。

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