第4話 強化体と正義の少女


 私、幸野愛華は精霊姫としてダークナーと戦う日々を送りながら、学生生活を謳歌している。私は人助けが好きだ。私が頑張ることでたくさんの人が救われるのはとても嬉しい。

 

 

 「助かったよ二人とも!それじゃあね!」


 テスト前で部活が休みだというので、私はクラスメイトの福島と御原に勉強を見てもらっていた。いつもなら親友の氷華に見てもらうのだが、諸事情により今は力を貸してくれないのだ。


 「まあ私が悪いんだけどね…」


 そんな氷華とはこの後精霊姫としての作戦会議があるため会う約束だった。同じ精霊姫の風峯も一緒だ。



 「来たか。では行こう」

 

 集合場所に行くと、二人はもう着いていた。


 「それにしても作戦会議って何するんだろうね」


 「おそらく、ダークナーが複数体同時に現れるようになったことについてでしょうね。今後もっと増えれば、私たちだけでは対処が難しくなります」


 氷華の言葉に納得する。何が起こるかわからない以上、この先の不安は付きまとう。


 「初めて二体目のダークナーが現れた日、何者かに先に倒されたことも気になるな。味方なら良いのだが」


 

「それも気になるね。あ、ついた」


 古びた神社。私たちの本拠地のような場所だ。


 『よく来てくれましたね、三人とも。さっそく本題に入ります』


 そう言うのは精霊王ノヴィ。精霊の長で私たちの契約している精霊よりも高位の存在なのだそう。精霊の間にも細かい掟があって、そのせいで私たちと契約することはできないらしい。


 『最近ダークナーの発生が活発化しているのは知っていますね』


 「それがどうか?」


 私の質問にノヴィは答える。


 『敵が本格的に進行してくる前兆の可能性があります。これまでよりも強力な個体、または敵の幹部が直接現れる可能性もあります』


 「そんなことになれば、私たちではとても対処できないのでは?」


 氷華の疑問はもっともだ。複数体のダークナーを同時に相手取るだけでも、私たちは一杯一杯なのだ。


 『その通り。なので、あなたたちには精霊との親和性を高めてもらいます』


 「「「親和性を高める?」」」



 ノヴィの話によると、精霊姫は契約した精霊と親和性を高めることで、自身の力をパワーアップできるらしい。


 そしてその方法は、精霊が司るものをより身近に置くということ。風の精霊と契約している風峯なら、強風を浴びたり、風の動きを肌で感じたりすることで親和性が高められるのだそうだ。


 もっとも、一朝一夕で身に付くものではないらしいが。


 

 一通りの説明を聞いた後、私たちは解散となった。


 

 「ではまた明日」


 「ああ、また明日」


 「うん!まあ、今日中に戦場で会うかもしれないけどね」


 「「縁起の悪いことを言うな(わないでください)!!」


「ごめんごめん―—―」


 その瞬間、大きな気配を全身で感じた。


 「今のって…」


 「ああ、ダークナーが現れた」


 「それもいつものとは違う、ノヴィ様がおっしゃっていた強力な個体の可能性があります」


 「急がないと」



 「「「精霊よ、私たちに力を」」」


同時に変身を終え、急いでダークナーの元に向かう。





 「あれだ!」


 ダークナーはすぐに見つかった。いつものダークナーとの違いは一目でわかった。


 「赤い…ダークナー…」


 そのダークナーの体は真っ赤だった。いつものダークナーは黒い。



 幸いまだ被害は大きくなさそうだ。近くに人がいる様子はない。


 「来い、風鳴」


 風峯が精霊の力で作り出される刀を呼び出す。



 「風の精霊よ、私に力を」


 全身に風を纏い、瞬く間にダークナーと距離を詰めた。


 「士道流、【斬豪】」


 士道流とは風峯の家の居合の流派だ。士道流の技は前に全部見せてもらったが、【斬豪】は確かもっとも威力の高い技だったはずだ。


 「ギグ」


 「弾かれた!?」


 しかし赤いダークナーの体に刀は通らなかった。


 「雷の精霊よ、私に力をお貸しください」


 氷華が右手を空に向ける。


 「ライトニング・バースト」


 空から大きな雷がダークナーを襲う。


 「ギ?」


 効いている様子はない。


 「嘘…」


 もう私しかいない。やるんだ!


 「愛の精霊、力を貸して!」



 強くこぶしを握り締める。


 「愛の鉄拳ラブリーストレート!!」


 ダークナーは避けるそぶりすら見せない。


 全力の一撃。今まで何度もダークナーを打ち倒してきた一撃。なのに…


 「なんで…立ってるの…?」


 「ギギ?」


 効いていない。私の全力が。最大の攻撃が。



 「愛華っ!」



 いつの間にか私の前に接近していたダークナー。速すぎる。


 「くっ…」

 

 風峯が刀で受け止める。だが長くは持ちそうにない。


 「アクア・ストライク!、スパーク!」


 背後から氷華が連続攻撃を仕掛ける。氷華は私たちの中で唯一、二体の精霊と契約している。ノヴィもイレギュラーだと言っていた。


 「ギギガガ」


 ダークナーは振り向いて氷華の姿を視界にとらえる。


 「かはっ…」


 ドゴン


 「「氷華!!」」


 壁に打ち付けられた氷華が動かなくなる。


 「愛の連撃ラブリーラッシュ


 わかってる。効くわけない。


 「ギギギグ」


 ガンッ


 当然のように吹き飛ばされる。


 戦闘不能になった私たちを守って、風峯が一人ダークナーの攻撃を凌ぎ続ける。でも決定打がない。

 私たちは、既に詰んでいる。


 諦めるわけにはいかない。私たちが負けたら本当に終わりだ。

 私は世界を救うために精霊姫になったんだ。こんなところで終わるわけにはいかない。


 私の愛が、世界を救うんだ!



 『そうだよ。こんなところで負けていられないよね』


 突如頭に声が響いた。効いたことのない声だ。


 「だ…れ…?」


 かろうじて声が出た。


 『やだなー僕だよ。君と契約している精霊。愛の精霊ラヴィだよ』


 ラヴィ、思い出した。契約の時、ノヴィがそんな名前を言っていた。

 愛の精霊は中位精霊。名前を持つ精霊だって。


 『君の愛は僕に全部伝わってきてるからね。親和性が高まったってわけだよ。だからこうして意思の疎通ができるようになったんだ。さあ、あいつを倒すよ』


 倒すって言っても、私の最大の攻撃は全く効かなかった。ちょっと力が強まったくらいで倒せる相手だとは到底思えない。


 『ちょっとじゃないんだよね、これが。この一瞬で君の力は以前の何倍にも膨れ上がったんだ。最終的にはシェリーアを倒すための力なんだからね。あの程度の敵にやられてもらっちゃ困るよ』


 そうだった。きっと幹部やシェリーアはあのダークナーなんて日にならないくらい強い。



 「こんなところで、負けてられない!愛の精霊、力を貸して!」


 感じる。さっきまでとは比べ物にならないくらい、力があふれてくる。



 「風峯ちゃん!」


 「!、やれるんだな」


 風峯は素早くダークナーと距離をとる。


 「ギィィ」


 まずはダークナーのスピードに追い付かなきゃ…


 「…いと…グ…バースト…」


 雷鳴が轟く。一瞬だけダークナーの動きが止まる。


 「愛の鉄拳ラブリーストレート!!!!」



 拳を振り抜く。


 バアアン!


 「え?」


 ダークナーは吹き飛び、消滅した。


 

 「これが…私の力……」


 

 「やったな愛華!」


 「うん!ありがとう風峯ちゃん!氷華ちゃんも――って大丈夫!?」


 氷華はダークナーに引き飛ばされたまま、倒れた状態だった。


 「なんとか…平気です……」


 「最後は助かったよ」


 「なあ愛華、さっきのダークナーのいた場所、何か落ちてるぞ」


 「あれ、ほんとだ」


 拾い上げてみると、赤い宝石のような石だった。


 「なんだろう、とりあえず持ち帰って――「それは俺がもらう」――へ?」



 

 私たちと同じような衣装をまとい、仮面をつけた少年が、石を奪い取り、そこに立っていた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


居合の技に威力ってどうなんですかね。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回、「正義の少女と復讐者」です。


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