第3話 時の精霊と復讐者
母さんは、温厚な性格で、俺も悠も滅多に怒られなかった。習い事など、やりたいことは何でもやらせてくれて、そのサポートも全力でこなしてくれた。
母さんが死んでからしばらく、俺は学校にも行けず引きこもった。そんな俺を支えてくれたのは父さんと公司だった。
父さんは、しばらく仕事を休み、自分が1番辛いはずなのに、家事を全てこなしてくれた。父さんの作る料理は正直全然美味しくなかったが、とても温かかった。
公司は、毎日俺の家に通い、俺を励ましてくれた。同じ状態にあった悠にも、似たような友人がいたようだった。
こうして俺は無事立ち直ることができた。
しかし、俺は忘れることができなかった。母さんが死んだあの瞬間を。あの光景を。
あれは事故なんかじゃなかった。母さんはダークナーに殺された。精霊姫は間に合わなかった。
黒の女王シャリーア。ダークナーが初めて現れた日、奴はそう名乗った。
お前は絶対に俺が殺す。
立ち直ってから俺は、精霊姫のことを詳しく調べ始めた。
古い文献によると、精霊は基本的に意思を持たず、本能的に少女に懐くらしい。つまり、男の俺では精霊の力は借りられないということだ。
それから今度は意思を持つ精霊について調べた。意思の疎通が図れれば、交渉次第で力を貸してくれるかもしれない。
どうやら、強い力を持つ上位の精霊には意思を持つ者もいるらしい。
しかし、肝心の精霊の居場所が分からない。調べても出てくるのは都市伝説のような類の信憑性の低い話ばかりだ。
仕方なく俺は、休日に片っ端から情報に書かれていた場所を訪れてみることにした。到達するのに苦労する場所ばかりなのに、外ればかりだった。
そんな中で、とある祠を訪れたところ、声が聞こえた。
「人間か?珍しいな。おい、そこのお前、その祠を壊して俺様を開放しろ」
これが、俺とクロンの最初の出会いだった。
「解放してほしければ、俺と契約してダークナーと戦う力を寄越せ」
「ダークナー?」
話を聞くと、クロンは300年前から封印されており、外の状況は何も知らないようだった。
俺は、シェリーアのこと、ダークナーのこと、精霊姫のことを説明した。
「なるほどな、俺様にその復讐の手伝いをさせようってことだな」
「ああ。ここから出られるんだ。あと数年くらいいいだろ。復讐が終われば解放を約束する。どちらにせよすぐにこの場所からは出られるんだ。悪い話ではないだろ」
「面白い。力を貸してやろう。俺様の力を使えば、悪の女王なんて敵じゃねえよ」
交渉成立。驚くほどあっさりしたものだった。
こうして俺は復讐のための切符を手に入れた。
そして現在。
『俺様が封印されてたのは、精霊の間で決められている古臭いルールを破ったからだな。ほかの上位精霊どもに袋叩きにされた。過去に俺様と同じ目に遭ったやつもたくさんいる。
小娘どもに力を貸しているのは意思を持たない下位精霊どもだ。奴らは精霊王とか言う偉そうなババアの従順な僕だ。俺を封印した主犯格がそのババアだな。上位精霊やその一つ下、中位精霊と呼ばれる精霊の中にもババアに付いてるやつらはいるが、大半は俺様のようなフリーの精霊だな。自由気ままに生きてるってわけだ。
そして上位精霊の持つ力は下位精霊とは格が違う。その力を使うお前らに関しても同じだ。だが人間に対する適正は下位精霊や中位精霊の方が高く、精霊に対する適正は男より女、特にガキの方が高い。
適性が高いと親和性を高めることができてその力を成長させられるってわけだ』
一気にいろいろ説明されたので頭がこんがらがりそうだが大体わかった。
とにかく、今日は疲れた。なにせ化け物と戦うのも命を懸けるのも初めてだ。精霊姫たちはいつもこんなことをしていたのか。
だが俺も慣れなきゃいけない。今日みたいな雑魚と比べものにならない力をシャリーアが持っていることは容易に想像できる。
もっと力をつけなくてはなるまい。
「おかえり、今日の晩ご飯は親子丼だよ」
「おう、楽しみだ」
家に帰ると、悠が夕食を作っている最中だった。いつの間にか遅くなっていたようだ。悠は料理が上手い。まあ俺も上手いし、頻繁に作っていれば当然なのだが。
初めは父さんと三人で交代していたのだが、一向に上達しなかった父さんは戦力外通告を受けた。仕事で忙しい父さんのためを思ってという理由も含まれてはいたが。
そんなことを考えつつ仏壇の前に。
「母さん、ついにダークナーを倒したよ。まだ一体だけだけど、そのうち必ず敵を討つから」
敵の敵は味方、という言葉もあるが、俺は絶対に自らの手でシャリーアを討たなければならない。精霊姫に先を越されてはならないのだ。
でもできることなら風峯たちとは戦いたくないな。
そんな願望は、すぐに打ち砕かれることになるのだった。
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主人公の親友の漢字表記を光司→公司へと変更しました。
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