第2話 悪の怪物と復讐者


 「やはりか…」


 「え?」


 「いや、なんでもない」


 薄々気がついていた。

 幸野の髪色は明るい茶色だが、 声も口調も、雰囲気も同じだった。


 幸野愛花は、桃髪の精霊姫だ。


 「それより2人とも、もうすぐ中間テストだけど調子はどう?」


 愛花は唐突に話を切り出す。


 「結論から言えば完璧だ。今回こそは俺が1位をとる。」


 俺は自信を持って言った。


 「ははっ。面白いことを言うね、愁。今回も1位は僕だ。前回同様抜け目はないよ」


 そう、前回のテスト1位は公司だ。俺は3位だった。だが今回負けるつもりは毛頭ないのだ。


 「そんな絶好調なお二人さんに相談なんだけど……」


 愛花は恐る恐るこちらの様子を伺うように言う。


 「次のテストやばいんです助けてください!!」


 必死な様子で頭を下げる愛花。


 「また水谷に愛想尽かされたのか。今回は何をやらかしたんだよ」



 水谷氷華みずたにひょうか。前回テスト2位。毎回光司と1位争いを繰り広げている。


 ちなみに俺は万年3位に落ち着いていた。


 「いやー、氷華にやっとくように言われてた勉強完全に忘れててさー」


 「はは……。ちゃんと謝って許してもらっておきなよ」


 公司は呆れた様子でそう言う。


 「それはまあ、もちろん…。だからお願い!今回だけは力を貸して!」


 「仕方ない。今回だけだぞ。」


 「うん!ありがとう!今度なんか奢るね!」


 幸野はパァッと顔を輝かせて言った。



 

 放課後。俺は剣道部の部室へ向かった。


 「相変わらず早いな」


 部室で1人素振りをしている少女に話しかける。


 「ああ福島か。早いのはお前も同じだろう」


 士道風峯しどうかざね。俺の所属している剣道部の主将であり、全国常連の実力者だ。幸野や水谷とも仲が良く、実家は居合道の道場を営んでいる。


 そして、まあ間違いなく先日の刀を持った精霊姫だろう。技名を叫ぶのはある種お約束ではあるが、身バレとか考えていないのだろうか。


 というか、あと1人絶対水谷だろ。



 「今日も後で私の相手をしてもらうぞ」


 「ああ、お手柔らかにな」


 風峯とまともに相手をできるのはこの部活に俺しかいない。さらに言うと俺も全然勝てない。居合の実力もそうとうなものらしく、剣に関しては正真正銘の化け物だ。



 そんな話をしていると続々と部員たちが集まってきて、練習が始まる。






 「じゃあおつかれー」

 「またなー」


 練習も終わり、部員たちが帰っていく中、風峯が俺に近づいてきた。



 「どうした?」


 「い、いや、あのだな…」

 

 随分と歯切れが悪い。こんな風峯は珍しい。


 「その…最近近くにクレープ屋ができたらしくてな…」



「ああ、幸野も言っていたな。気になってるけど1人で行くのは恥ずかしいからついてきて欲しいのか?」



 「な!?い、いやまあ…その通りだ」


 大変わかりやすい。俺も少し気になってはいたので丁度よかった。



 「じゃあ行こうか」


 「…!ああ!」


 とても嬉しそうだ。普段は凛々しいがこういう所は大変可愛らしい。



 「それにしてもやっぱ強いな」


 「私の人生は剣とともにあると言っても過言ではないからな」



 クレープ屋に向かいつつ今日の練習を振り返る。やはり俺では彼女に勝てなかった。




 「そういえ——」「!?」


 会話の途中で突然風峯が何かに反応した。周囲を見回すが何もない。




 「悪いっ!急用が出来た!」


 そう言いながら走り去っていく風峯。しかもバッグを置いて行った。



 「ダークナー…、か…。」


 精霊姫の存在には多少複雑な感情があるが、自らの命をかけて人々の平和を守る彼女たちのことは尊敬している。




 『なあ。"来るぞ"』


 そう頭の中に声がした瞬間、地面が割れるような音と強い衝撃が俺を襲う。



 「これは一体どういうことだよ」


 「ギャシャアア」


 俺の目の前にはダークナー。しかしダークナーは精霊姫たちと戦っているはず。かつてダークナーが同時に二体出現したという話は聞かない。



 『別にいつこうなってもおかしくなかっただろ。ほら、早く俺様の力を使えよ』


 頭の中から再び声が聞こえる。



 「精霊よ、俺に力を貸せ」



 俺の体が灰色の光に包まれ、光が収まると俺は灰色の衣装を身に纏っていた。


 先日見た精霊姫たちの格好と似ている。



 「ギシャアア!!」


 突然の俺の変化に少し驚いた様子を見せたダークナーだが、すぐに俺に襲いかかってくる。

 


 「おっと。それで、俺はどうしたらいい?」


 

 大振りの拳を躱すと、頭の中の声の正体、俺と契約した「時の精霊クロン」に話しかける。


 

 『あ?とっとと攻撃したらどうだ』


 「いや、そんなこと言ってもどうやって…」



 『そんなの適当に殴る蹴るすればいいだろ?いちいち俺様に聞くな』



 めちゃくちゃだ。とはいえ、やるしかない。俺は拳を握った。



 「ギギギ!」


 俺に向かってくるダークナー。その懐に飛び込み、思いっきり殴りつける。幸野がやってたイメージだ。



 バアアン!


 「は?」


 ダークナーは吹き飛び、簡単に消滅する。



 「なんだよこれ。あいつらと、精霊姫たちと違い過ぎるだろ」



 『阿呆め。何当然のことを言ってるんだ。俺様を小娘にたかるモブ精霊共と一緒にするな』


 ダークナーが消滅したことなど気にした様子も見せず、腹立たしげにクロンは言った。


 『まあ、お前には小娘たちのように精霊と親和性を高めて成長することはできんがな。それより、そろそろ小娘が戻ってくるぞ』



 そうだ。精霊姫たちはなんらかの力でダークナーの存在を感知できる。すぐにこちらに気づいて戻ってくるはずだ。



 俺は慌てて精霊の力を解除する。

 

 「おい!福島!」


 焦った様子の風峯。


 「用事は終わったのか?バッグ置いてったぞ」


 「そんなことはどうでもいい!ここで何かなかったか?」



 「ああ、突然ダークナーが現れた。死ぬかと思ったなあれは」


 「な!?それでそのダークナーはどこに!?」



 「いや、それが…人影のようなものが突然現れて倒して行ったんだ。消滅しちまった。」




 「そんなことが…わかった。私はまだ急用の途中だから戻る!先に帰っていてくれ!」



 そう言ってまた走り去って行く。バッグを置いて。



 仕方ない。家に届けて行ってやろう。

 


 「それで、お前は精霊姫の契約している精霊たちと何が違うんだ?」



 俺はクロンに尋ねる。



 『そうだな。あの日、俺様があんなことになっていた理由から教えてやろう』



 俺は、クロンと出会った日のことを思い出す。

 


 

 

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