俺の復讐対象は変身ヒロインの敵

@kiitu

第1話 悪の怪物と正義の少女

 いつも通りの平和な何気ない日常。

 それは常に脅かされていて、常に守られている。


 俺、福島愁は夕食の買い出しでスーパーに来ていた。

 ちょうどお菓子売り場の横を通りかかろうという時、親子らしき女性と男の子の会話が耳に入る。


 「ねえ買ってってばー!」

 

 「駄目だって言ってるでしょ。もう帰るよ」


 「買ってくれるまで動かないもん!」


 「あ、そんなことしてると、ダークナーに食べられちゃうよ〜」


 お菓子をねだる子どもを母親が軽く脅す。どこにでもあるような光景だ。


 ダークナーという実在する怪物の名前を使っている点を除けば、だが。


 ダークナー。突如日本に現れ始めた化け物。人の負の感情から創り出され、無差別に人々をおそう。

 強大な力を有し、人間の兵器は通用しない。

 

 しかし、今のところダークナーによる人的被害は0だと言われている。


「うぅ〜。わかっだ。」


「はいはい。良い子にしてたら精霊姫が守ってくれるよ。今日はだいきが好きなハンバーグだから。」


「うん。」


 ダークナーという言葉でおとなしくなった男の子に母親は優しく言った。


 その中に精霊姫という人類の唯一の希望の名が上がる。


 精霊姫。現状ダークナーに対抗できる唯一の存在。

 精霊から力を借りてダークナーを消滅されることができる少女たち。

 

 彼女たちのおかげで人々は安心して日々を送ることができる。


 「よし、こんなもんか。」


 俺は買い出しを終えて帰路についた。


 「ただいまー。」


 「おかえり。今日の晩ご飯は?」


 「肉じゃがだ。」


 「ふーん。」


 「なんだふーんって。」


 「いや?喜ぶほど好きでもないけど別に嫌いでもないから。」


 「あっそう。」


 帰宅早々夕食のメニューを確認してきたのは妹の悠。

 平日は俺と悠が1日交代で夕食を作っている。


 俺は夕食の支度を始める前に仏壇に向かう。


 「母さん……。」


 俺と悠の母親は、一年程前に事故で亡くなった。



 ということになっている。



 「待っていてね母さん。母さんの仇は必ず俺が討つ。そのための力はもう手にいれたんだ。」


 俺の母親はダークナーに殺された。彼女は、ダークナーによる唯一の被害者だった。





 翌日、土曜日。本屋に行った帰り道だった。



 「ギシャアア」


 俺の目の前に、黒い大型の怪物が現れた。

 それはまぎれもなく、ダークナーそのものであった。


 しかし今の俺には、奴と戦えるだけの力がある。


 「力を試すチャンスか?」


 周りに人は見当たらない。俺は、服の中にしまっていたペンダントを取り出す。


 ダークナーは完全に俺を目標に定め、今にも襲い掛かろうとしている。


 「量産型の雑魚の分際で」


 俺はペンダントを握りしめる。


 「精れ—— 「喰らえ!」」


 瞬間。俺の前にいた怪物が吹き飛んだ。


 「愛の精霊、力を貸して!」


 どこからか現れた桃色の髪の少女は両手の拳に赤い光を纏う。


 「愛の連撃ラブリーラッシュ!」


 少女はそのままダークナーに連撃を繰り出した。


 「来い、風鳴。」


 後方からエメラルドグリーンの長髪の少女が現れ、虚空から一振りの刀を出した。


 「風の精霊、私に力を。」

 

 刀に風が纏わる。


 「ギィィ」


 ダークナーはよろけながらも自分を殴った少女に向けて拳をかざす。


 「士道流、【瞬輪】」


 風を纏った刀は物凄い速度でダークナーの片腕を切り落とす。


 「はぁ、はぁ。ようやく追いつきました。水の精霊よ、私に力をお貸しください。」


 さらに後ろから青髪の少女が走ってきてそう言うと、どこからか水が集まって少女の前に巨大な水の玉を作る。


 「アクア・ストライク!」


 水の玉は勢いよく飛び出し、ダークナーの頭部にヒットした。


 「ギェェ」


 ダークナーが苦しそうな呻き声をあげる。


 「「今!」」


 刀の少女と青髪の少女は桃髪の少女に向かって叫ぶ。


 「いくよっ、愛の鉄拳ラブリーストレート!」


 「ギョェェェ!」


 ダークナーは一声呻き声をあげて、消滅した。



 「余計な——いや、いいか。」


 力を試さなかったのは残念だったが、ダークナーを倒せるのは精霊姫だけだとされている以上、人の気配がないことを確認したとはいえリスクが伴う。

 力はいつでも試せるだろう。


 それに、俺の復讐対象はダークナーではなく、それを作った元凶だ。

 世界征服を狙っているらしい、謎多き集団。そのボスこそが、俺の復讐対象。


 「よし!」


 「やったな。」


 「やりましたね。」


 俺は、気づかれてなかったようだっので、見つからないようにその場を去った。


 「愛は世界を救うからね!」


 そんな桃髪の少女の元気な声を背中に受けて。









 

 翌々日、月曜日。第4限の数学が終わると、数人の女子生徒がとある男子生徒の元に集まる。


 「ねえ御原くん、よかったら私たちと一緒にお昼食べない?」


 「ごめん、昼は愁と食べるんだ」


 女子生徒からの誘いを断った俺の親友、御原公司みはらこうしは俺の席に向かってくる。


 「待たせたね。」


 「今来たところだ。」


 「いや、そこは君の席だろう…。」


 軽く冗談を交わしつつ、俺たちは弁当を広げる。


「おーふたーりさーん!」


 「うわ、幸野か」

 「やあ、幸野。」


 幸野愛華こうのあいか。元気が取り柄の少女で、たまに俺たちのところに絡みに来る。


 「うわとはなにかな福島?一緒させてもらうよ。拒否権はないんだけどね。」

 

 「好きにしろよ」

 「もちろん構わないさ」


 微妙な反応を示しつつも、なんだかんだで愛華と話すのは楽しいので、俺も文句は言わない。


 愛華はすぐに自分の弁当を広げた。


 「あいかわらず凄いな、それ。自分で作ってるんだろ?」


 俺が愛華の弁当の中身に反応を示したのは、愛華の弁当の白米の上に、でかでかと「愛」という文字が描かれていたからだ。


 もっとも、これはいつものことなのだが。


 「ふっふっふ。なんせ——」




 「愛は世界を救うからね!」


 そう、幸野愛華は堂々と言った。

 


 



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