十三話 シルフィン社交界で奮闘する
女性貴族の昼の社交にはもの凄く沢山の種類がある。お茶会だけじゃ無いのだ。実は。いや、そりゃお茶会が一番多いのだけど。
毎日お茶飲んでお話ししているだけじゃ飽きちゃうものね。いや、中には飽きずに毎日お茶会を渡り歩いているご婦人もいらっしゃるけど。そういう方は他の社交が好きでは無いか、色んな方とお話し出来るお茶会が単純に好きなのだそうだ。
昼に社交には主な種類だけでも、園遊会、散策会、演劇鑑賞会、演奏鑑賞会(楽団の演奏を聴く)、演奏会(こっちは自分たちが演奏をする)、絵画彫刻鑑賞会、絵画会(皆で絵を描いて見せ合う)、読書感想会(本の感想を皆で述べ合う)、詩作会(皆で詩を読み合い褒め合う)、宝石鑑賞会、刺繍会、衣装会(皆で流行のドレスを見て語り合う会)、遠乗り(女性の場合は馬車でその辺りを走りながらおしゃべり)、お買い物会(商人を複数呼んで皆でお買い物)等々がある。……これは確かに好き嫌いがあってもおかしくないわよね。
特に芸術系の社交はこちらに素養が無ければ何にも面白いことは無く、鑑賞系でも気の利いた感想を言うには教養が必要だし、自分でやる系に至っては下手くそな所を見せれば冷笑を買い、当分は噂になってしまうという恐ろしさだし、それはそういう社交には一切姿を見せないご婦人が珍しくないのも無理は無いと思う。
私だって正直出たくは無いが、次期公妃がお芸術を苦手にしているという噂になると困るので我慢して出ていた。そして下手くそだという噂になりたくも無いから必死に演奏や絵画や詩作なんかは練習したわよ。演劇もある程度教養が無いと意味が分からない部分があるので、演劇を見に行く前にその劇がどんな劇で何を下敷きにして作成された物なのかを予習しておかないと、トンチンカンな感想を言ってしまって恥をかく事になる。
まぁ、慣れると演劇とか演奏とかも面白いんだけどね。でも「面白かったです」「良かったです」で良いのになんで気取った奥様連中はあんなに持って回った言い回しで褒めないと認めてくれないのかしらね。
私はお花が好きだから園遊会とか散策会は好きなんだけど、これもお花を「ナントカの詩のようでございますね」とか「このお庭は古典演劇のあのシーンを思わせますね」とかいう言い方で褒めなければならない。普通に綺麗だなぁとか可愛いお花ですねで良いじゃんねぇ。
結局、女性貴族の社交には知識自慢、教養自慢、センス自慢、あとはお金持ち自慢の側面が多くて、非常に面倒くさいのだ。私がそう言うと公妃様は呆れたようなお顔をしながらも軽くぶっちゃけた。
「それはそうですよ。そうやって何かしらで相手よりも上に行くために皆一生懸命なのですから」
容姿、家柄、知識、教養、センスなどで相手のマウントを取り、少しでも相手を見下すのが社交の真の目的なのだと公妃様は仰る。
「そうやって上に登って行き、女性社交界で築いた立場で夫の事を援護するのが妻の役目なのですよ」
夫の階級や地位が同等の場合、妻の女性社交界での振る舞い方で家の格の差が出る訳である。これが貴族婦人が血眼で女性社交界カーストで上昇しようと努力する目的なのだそうだ。夫婦で共に頑張って帝国貴族界での格を上げて行く。階級はそう簡単に上がる物では無いから、同一階級内での格の上昇下降は一大事なのである。
め、面倒くさい。何が面倒くさいかと言って、ヴィクリートの婚約者であり次期公妃の地位が確定的である私は、数多(伯爵以上の上位貴族で既婚女性は三百人くらいいるそうだ。私がお会いするのはその中でも格の高い五十人ほどだけだけど)いる上位貴族婦人の頂点近くにいるので、そういう女性たちの「格」を決める側の存在なのだという事だ。
つまり、私が褒めたり、気に入ったり、意見を肯定したりするだけで、貴族婦人に「加点」され、それだけでご婦人方の「格」に影響を及ぼしてしまうのである。うっかり「素敵ですね」なんて褒めただけでその婦人がそれまで同格だったご婦人から抜きん出る、なんてことがある訳よ。
そうするとどうなるのかというと、つまり私はおべっかお世辞の雨あられに包まれる事になるのだ。私が何をしても。それこそ立っているだけで「お美しいですわ」「ユリの花のような立ち姿ですわね」「なんと神々しい」などという賞賛の雨が降り注ぐ事になるんですよ。居たたまれない。私をなんだと思っているのか。
それでいて私を褒めそやすご婦人方の中には私の事を「田舎くさい」「お作法がなっていない」「教養が無い」などと陰口を言っている方もいるそうで、そういう事をまた喜んでご注進に上がってくるご婦人もいたりして、何というかもう、カオスだ。
私は半月社交に出始めただけでもうグロッキーだった。お腹いっぱいだ。お屋敷に帰って私室でソファーに仰向けに倒れ込んでうーっと唸っていると、ミレニーが額に濡れタオルを置いてくれた。
「ありがとう」
「まぁ、よく頑張っているわよ。シルフィン様。その内慣れるわよ」
と言いながらミレニーもかなりうんざりした顔をしている。ミレニーは私のお付きとして全ての社交に一緒に来て貰っている。そうするとお付きの侍女同士でもマウント合戦はもの凄く、嫌み合戦嫌がらせ合戦がある他、私の侍女であるミレニーに「次期公妃様への取り次ぎを」と願い出てくるご婦人が来ることもあるなど、彼女もがっつり女性社交界の荒波に巻き込まれているのだ。
そんな貴族にはあるまじき程ダラダラしている私達の様子を見ても主任侍女のレイメヤーは何も言わないでいてくれる。彼女は厳しいところはあるが、こういう風に私が気を抜くタイミングもちゃんとくれるし、良い人なのだ。そもそも色々不足がちの私の事を陰ながら様々にフォローしてくれるレイメヤーがいなければ、私は社交なんて絶対にこなせないわよね。
それからも私は公妃様に連れられながら各種社交にドンドン出ていったのだが、私の評判は意外にもそんなに悪くは無いようだ。何でもお可愛らしいご容姿で、身分低いご出身という割にはお作法も悪くないし、お芸術も中々のセンスがあり、ダンスなどは非常にお上手で、出しゃばらないお人柄も素晴らしい。ということらしい。誰のことですか? これ?
ただ、公妃様もレイメヤーも「お屋敷に入ってからの特訓の甲斐あって、お作法はかなり良くなっている」と太鼓判を押してくれている。このお二人が私にお世辞を使うことは無い筈だから自信を持っても良いのかもね。
お陰で順調に社交界へ受け入れられているということで、公妃様はかなり安心しておられた。勿論、公妃様が積極的に私を親しいご婦人との社交に連れ回し、親交をお願いしてくれたから順調なのだ。ホント、お義母様様々なのだ。
私が庭園を散策するのが好きだと知れると、同様に外遊びが好きな貴族婦人の方々が積極的に声を掛けてくれるようになったのである。その筆頭がブロクレンツ侯爵婦人だった。この大柄で少し太めの迫力のある青い髪の女性は、私が彼女の庭園で行われた散策会で庭園を褒めたらもの凄く喜び、何度も私を庭園散策会に招いてくれたのだ。
ブロクレンツ侯爵夫人はお芸術にはまったく興味が無く、とにかく庭園造営が大好きな方で、自邸の広大なお庭を絶えずいじっている。とはいえ、大きく掘り返したり木を植え替えたりするのでは無く、花を季節の物に頻繁に植え替えたり、それを見せ易い散策ルートを造ったりするのだ。木が好きで花が好きで、私とは非常に気が合った。そのため、ブロクレンツ侯爵夫人は私を可愛がってくれて、同好の士であるご婦人方にも好意的に紹介してくれた。
そのグループ中には庭園に結構本格的な農場を造成している方もいて、ブロクレンツ侯爵夫人やお仲間の婦人はその農場で、膝丈スカートにブーツといった格好で自ら手を土に塗れさせて農作業を楽しむ事もあった。これは私も凄くやってみたかったが、自重した。いや、やっても良かったのだが、見たところ本職の私がやったらあっという間に終わってしまうような作業を丸一日掛けて楽しくやる遊びだということが分かったので見守るだけにしたのだ。
でも農作業を見るだけで懐かしくてストレス解消になったし、少しアドバイスをして上げるだけで大げさに喜ばれたし、仲の良い方が増えて私は大満足だった。やっぱり趣味を同じくする方とは仲良くなり易いし本音でお話がし易くなる。
私は未婚の、というかまだ幼いご令嬢、ご令息と仲良くなることも多かった。これは公妃様に言わせれば「天性のもの」だそうで、お屋敷に招かれて、そのご婦人の幼いご令嬢やご令息に紹介される事があるのだが、なんだか知らないけど私は懐かれるのだ。
お邪魔している間中、私の膝に取りすがり甘えていて、帰る時には泣かれるなんて事が何度もあった。ちなみに、ヴィクリートの弟君である七歳のベンティアン様にも私はもの凄く懐かれている。慣習により同じお屋敷にいてもあまり会う機会は無いんだけど、会えばもうべったりと貼り付かれてしまい、引き剥がすのに苦労するくらいなのだ。どういうんだろうね。
そういう風に自分の幼い子供が懐いているのを見れば、親であるご婦人方は私の事を悪くは見ない。最初は少し隔意ありげだったご婦人が、自分の幼子が懐くのを見て一気に好意的になってくれた例もかなりあったのだ。これのお陰で私は子持ちの夫人とかなり仲良くなれた。
そんな感じで上手いこと社交界に受け入れられていると思える私だったが、勿論、私に対して好意的な方々ばかりでは無いのは当たり前だ。それはそうよね。特に血筋にこだわる方、そもそもレクセレンテ公爵家に好意的で無い方は私に対して強い隔意を示したし「男爵家出身の者が皇族に迎え入れられるなんて云々」と批判しているようだった。
一番強く非難を浴びせてきたのは、サッカラン侯爵家の一族の方々だった。サッカラン侯爵家は皇太子殿下の婚約者であるスイシス様のご実家だ(結婚前にフレイヤー公爵家に形式的に養子に入られているけど)。公妃様曰く、フレイヤー公爵家はレクセレンテ公爵家のライバルで(別に仲が悪い訳ではないらしいけど)関係の深いサッカラン侯爵一族に代弁させて、私を批判して評価を落とし、フレイヤー公爵家の勢力を強くしようと試みているのではないか、という事だった。
次代の皇妃様であるスイシス様を出すことになるサッカラン侯爵家は今後勢力を拡大することは確実で、傍系皇族であるフレイヤー公爵家の後押しもあるから、皇太子殿下と仲が良いヴィクリートでも油断は出来ない。私との貴賤結婚を問題にして悪くすれば政権を追われかねない、と公妃様は危惧しておられたようだ。
「まぁ、でも、貴女自身が皇帝陛下にも皇太子殿下にも気に入られていますし、スイシス様にも大きな貸しを作ったのでしょう? 大丈夫だとは思いますけどね」
貸しなんて作ったつもりは無いのですけどね。スイシス様とはその後も何度となく社交でご一緒したけど、表面的には仲良くさせて頂いている。私が微笑みを向けると少し唇が引き攣るのが凄く気になるんだけどね。私、そんなに恐れられるような何かをしたかしらね?
サッカラン侯爵婦人はつまりスイシス様のお母様だけど、スイシス様よりも迫力のある美人。栗色の髪は似ているけど、目つきは鋭くドレスは真っ赤。その侯爵婦人がある夜会で対面した私に、完璧な微笑みのままそれは嬉しそうに言ったのだ。
「そうそう、この間ブゼルバ伯爵令嬢にお会いしましたのよ?」
へぇ、お嬢様に? 私はちょっと驚いた。お嬢様とは婚約式にご挨拶をして以来お会いしていない。婚約式にはブゼルバ伯爵家の皆様には「私の親」という事で来て頂いたのだ。その時に皇族塗れの大神殿に目を回していた伯爵ご一家とご挨拶はした。しかし、ブゼルバ伯爵家はそれほど裕福な家では無いので、皇族が出るような高位の社交に沢山出る事は出来ないのだろう。せいぜいごく希に奥様とお会いして軽くお話をするくらいで、お嬢様と社交でお会いしたことは無い。
お元気かしらね。お嬢様? なんて呑気な事を思っている私に向けて、侯爵婦人は嘲るようにこう言った。
「何でもシルフィン様はお掃除がお得意だったとか。絨毯の染みを落とすのに長けていたと伺いましたよ」
周囲がざわめく。私が男爵家出身の侍女だった事は周知の事実だが、それをあからさまに言う事は私を蔑む事になるからだ(私が気にするかどうかは別として)。そしてサッカラン侯爵婦人は、ニヤッと笑って、手に持っていたグラスからワインをわざと一垂らし、絨毯に零した。
「あら、失礼を。ねえ、シルフィン様? お伺いした掃除の腕でもって、この染みを掃除して下さらないかしら?」
……何を考えているのかしらねこのオバハンは。私はあまりにあからさまな嫌みに呆れてしまった。そんなの私が掃除する義務は無いんだけど、侯爵婦人の嫌みにどう対応するかでその後の彼女の態度が色々面倒な事になってきそうだ。
無視して立ち去ると「冗談が通じないつまらないお方ですわね。やっぱり身分低い方はジョークも分からないのですわね」とか言い出しそう。
私が無礼な! って怒ると「ほんの冗談を大事にした」と後で騒ぎ立てるだろう。
公妃様に教わった嫌み対応マニュアルによれば、こういう時は気の利いたジョークで切り返して相手をぎゃふんと言わせるのが良い、らしいのだけど、それこそ私には無理難題だわよね。うーん……。どうしましょうか。そうね。私らしい切り返しは……。
私はうん、と頷きミレニーを呼んだ。
「ミレニー。お酢を貰ってきて」
同伴でオレンジ色のドレス姿のミレニーは目を丸くした。私の意図を諒解したのだろう。しかし、そんな事をしても良いものかと戸惑っている。
「え? で、でも……」
「早く。落ちなくなくなってしまうわ」
ミレニーは足早にお酢の調達に向かう。私は続いてレイメヤーに手袋を外してくれるように頼む。私の意図を察したレイメヤーは驚いた。
「シルフィン様……それはいくら何でも」
「いいから」
私の命令にレイメヤーは渋々ボタンで留めてある長手袋を外してくれる。素手になった私は近くのテーブルにあったナプキンを取る。掃除に使うには勿体ないくらい綺麗な布だが仕方が無いわよね。そして私は何を始めるのかと目を丸くしているサッカラン侯爵婦人に向かって堂々と講義を始めた。
「良いですか? 侯爵夫人。赤ワインは大変落ちにくいので絨毯に零すなんてとんでも無い事です。無作法にも程があります。気を付けなさい!」
「な、な……」
サッカラン侯爵婦人は私の物言いに目を白黒させていたわね。私は構わずナプキンを振りながら講義を続ける。
「で、零してしまった場合は、すぐに拭き取ります。擦ると広がってしまいますからこうやって、上からポンポンと叩くのです」
ドレス姿で床に膝を付き、ナプキンでポンポンと汚れを吸い取らせる。白いナプキンは赤く染まってしまうが、まぁ、構うまい。そうしている内にミレニーが戻ってきた。フィンガーボールを持ってきた所を見ると流石はミレニー、お酢と水を混ぜた洗浄剤を作って持って来てくれたのだろう。
「ほら、見なさい。侯爵婦人。貴女が粗相した染みは大分小さくなりましたけど、まだ残っていますね。これにこれを使います。お酢と水を混ぜたものです。ほら、よく見なさい」
侯爵婦人としては無視をしたいところだっただろうが、私の方が身分が上位である上に、自分が掃除しろといった立場上、私に従わざるを得ない。仕方なさそうにしゃがみ込んで絨毯を見る。
「これを使うとよく落ちるのです。覚えておくと良いですよ。先ほどみたいにまた粗相した時自分で掃除出来るようにね!」
私はミレニーに新しいナプキンを取ってもらい、洗浄剤を染みこませ、ワインの染みをポンポンと叩く。零して間が無かった事もあり、程無くほとんど後も残さずワインは絨毯から拭い去られてしまった。ふむ。私は満足し、立ち上がると呆然としているサッカラン侯爵婦人に言った。
「どうですか? 私の掃除の腕は? 私がいたから良かったものの、あのままにしておいたらこんなに立派な絨毯に無残な染みが付いて残念な所になるところでした。二度とあんな祖祖をしてはいけませんよ、侯爵婦人。分かりましたか?」
サッカラン侯爵婦人はうぐぐぐぐ、っと呻いたが、ここではもう他に選択肢は無い。私に無茶振りして私に掃除までやらせておいて、無視をしたり逆ギレを起こす事は、彼女の器量を疑わせ評価を下げる結果になるからだ。悔しそうな表情も露わに、侯爵婦人は私に深々と頭を下げざるを得なかった。
「大変申し訳ございませんでした。シルフィン様」
「分かれば良いのです。私も久しぶりに掃除の腕を振るえて満足でしたよ」
ふふん。周囲の者達は唖然呆然としていたけど、侯爵婦人の意表を突いた挙げ句に謝罪まで引き出したのだから、ここは私の勝ちよね。私を怒らせるつもりだったサッカラン婦人は、目的を達せなかった上に謝罪までさせられて大恥をかいたと言って良いだろう。私としては上手く立ち回ったんじゃない? と思っていたのだが、あとでレイメヤーにしこたま怒られた。
「いくら何でもやり過ぎです! せめて掃除はミレニーにやらせれば良かったでしょうに」
「だってミレニーよりも私の方が掃除が上手いのだもの」
「お立場を弁えなさいませ!」
ただ、顛末を聞いた公妃様は呆れたお顔をなさったけど楽しそうに笑って何も仰らなかったし、ヴィクリートに至っては「流石はシルフィンだな」と言って褒めてくれたわよ。そして私を挑発すると何をしでかすか分からないと思ったらしいサッカラン侯爵夫人は私にちょっかいを掛ける事が無くなり、彼女の取り巻きも同様に私へ嫌みを控えるようになったので、私の社交生活はかなり快適になったのだった。
そういう風に社交を一生懸命頑張った結果、私はどうやら次期公妃の座を問題無く引き継ぐ事が出来る見込みになってきたようだった。婚約半年後に私が主催して行った公爵邸のでの夜会も盛況で、ヴィクリートと私は立派にホストとしての任も果たした。私の仲良しのブロクレンツ侯爵夫人とそのお仲間を始め、皇太子殿下やスイシス様、イーメリア様も出席してくれて、私に反感を持っているサッカラン侯爵婦人までもが無視出来ずに出席したとなれば、社交としては大成功。これで私は完全に帝都の社交界で足場を固めたと言って良く、これなら結婚しても問題無く公妃としてやっていけるだろう、と公妃様もホッとした顔でおっしゃった。
「よく頑張りましたね。本当に。ほんの半年でよくもまあ、ここまでになったものです」
夜会を終えた数日後、二人でお茶を飲んでいる時に、珍しく公妃様が私を手放しで褒めて下さった。私もまぁ、死ぬ思いでむちゃくちゃ頑張った自覚はあるので誇らしい気持ちだ。えっへん。ドヤ顔をする私を微笑ましい表情で公妃様は見ていらしたが、うむと頷いておっしゃった。
「これならば帝都を離れ、領地に一度くらいは連れて行っても大丈夫でしょう。跡を継がせる前に魔力の奉納の仕方も教えておかねばなりませんしね」
へ? そ、それは?
「春の魔力奉納のため私達が領地に向かう際に、貴女も同行しなさい。その間は社交はお休みです。少しは羽を伸ばせるでしょう」
おおおお、私は必死に何食わぬ顔を装いながら感動に打ち震えていた。
ヴィクリートに聞いてからずっと行きたかった公爵領に行けるのだ。凄く田舎の農村地帯だという公爵領。この何年も帝都にいてどうにもこうにも故郷が恋しくなっていた私には何よりのご褒美だ。それに、田舎であるという領地には社交は何一つないらしい。このもの凄く窮屈なお貴族様仕草から少しの間でも解放される。
ひゃっほーい! すごい! お義母様ありがとう!
と内心では歓喜していた私だったが、表面上はゆったりと微笑んでいた。お茶を一口飲み、ふふふっと笑う。
「ありがとうございます。公妃様」
「……本当に成長しましたね。シルフィン」
公妃様もうふふふふっと笑う。ふふん。お見通しですよ。ここで庶民丸出しで大喜びしたら、そんなんでは修行が足りない! って叱って私だけ置いて行く気でしたよね? 危ない危ない。油断大敵。
私は公妃様とおほほほほ、っと笑い合いながら、早くもまだ見ぬ公爵領に思いを馳せたのだった。
――――――――――――
「私をそんな二つ名で呼ばないで下さい! じゃじゃ馬姫の天下取り 」(SQEXノベル)イラストは碧風羽様。「貧乏騎士に嫁入りしたはずが!? 」(PASH!ブックス)イラストはののまろ様です。好評発売中です! 買ってねー(o゜▽゜)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます