十話 ミレニー親友と公爵家にドナドナされる

 まぁ、今更もう遅いんだけど、なにも私までシルフィンに付いて公爵家に行くこと無かったのよね? もう良いんだけど。


 それは、シルフィンとは仲良かったわよ? 彼女とは同い年でね、ブゼルバ伯爵家に奉公に来たのもほぼ同じ頃だったの。私が二週間先だったのかな?


 シルフィンは可愛い子でね、ストロベリーブロンドの少しウェーブした髪とぱっちりした瞳で少し幼い顔立ちをして、何だか小鳥みたいな雰囲気がある娘なのよ。同い年なのに背も低いし年下っぽい雰囲気があるから、私は勝手に妹みたいに思っていたわね。


 伯爵家の下級侍女は三人しかいなくて、侍女頭と奥様とお嬢様の身の回りの世話をする上級侍女合わせても五人。従僕が二人執事が一人。もう二、三人人手が欲しい程度には忙しかったわ、


 掃除、洗濯、炊事の他、各種お使いもお仕事で、たまには庭木の剪定や芝刈り、雑草抜きまでやらされたわね。


 シルフィンは働き者でね、小さいのに体力があって全然休まず働いても平気な顔をしていたわ。何でも農家の娘だったそうで、農家では子供でも朝から晩まで働きまくるものなんだそうよ。どうりで庭仕事をしている時はイキイキしていると思ったのよね。


 よく働くし物覚えはいいし、それに明るくて気も利くから、お屋敷での評判は良かったわよ。ご主人様の伯爵も奥様も、私たちと同い年のお嬢様も気に入っていて、よくシルフィンを指定して用事を言いつけていたから信用されてたんでしょうね。


 シルフィンは可愛い子だったから、出入りの業者とか他家の従僕とかに声を掛けられているのをよく見かけたわ。でも、あの子そういうの鈍くてね、全然気が付いていないようだったわね。侍女仲間同士で恋バナする事もあったけど、故郷でも恋愛した事も片想いした事もないって言ってたのよね。それがあんな事になるんだから人生わからないわよね。本当に。


 その日は確か、シルフィンはお嬢様がご友人に宛てて出されたお手紙を届けに出ていたんじゃなかったかしら。


 そうしたらなかなか帰って来ないものだからちょっと心配していたのよ。あの娘は花が好きだから、途中のお屋敷の庭園見物して油売ってるんだと思ったのね。あんまり遅いと侍女頭に怒られるわよ! って。


 そうしたら同僚の娘が興奮した声で言ったのよね「シルフィンが男連れてきた!」って。なんのこっちゃ、と思って見に行ったら、使用人食堂に見たこともないくらいの美男子が座ってたってわけよ。


 赤茶色の髪色をした大柄な男で、一目見れば分かるくらい只者じゃ無かったわよね。優雅な所作でパンとスープだけの食事を物凄い勢いで食べてた。物凄くお腹が減っているみたいだった。


 シルフィンは何だか嬉しそうな顔でドンドンパンやスープを出してたんだけど、えーっと、そのパン、もしかして私たちの晩飯じゃ無いの? でも、何だか止め辛くて結局みんなシルフィンのやりたいようにさせていたわね。


 ようやく満腹になった美男子は私たちにも丁重なお礼をしてくれたわ。この所作、言葉遣い、それに着ている立派な軍服。絶対に貴族で結構お偉い人だわ。私は父が帝都で官僚をしているから、お偉いさんを多少は見たことがあるから分かるのよ。そんな人がなんでウチの使用人食堂で粗末な食事を貪り食っていたのかしら?


 そして、その美男子は私たちを手伝うって言ってくれたんだけど、それならってシルフィンが薪運びに連れていっちゃったのよ。あんな見るからにお偉いさんをよくもまぁ遠慮無くこき使えるものだと私たちは呆れてたのね。


 そうしたら突然執事が走ってきて「大変だ! 大急ぎで賓客を迎える用意をしろ!」って叫んだわけよ。何の事かと思ったらさっきのイケメン、やっぱりなんか凄い人だったらしいのよ。私たちは大慌てでお部屋の準備だとかご馳走の準備に取り掛かったんだけど、問題の美男子と一緒に行ったシルフィンが帰って来ないのね。


 同僚曰く、美男子様に助けた事を感謝されたらしくて伯爵ご夫妻とイケメンのお話合いに同席してるって話だったわ。あら、上手くやったわね。これはきっと凄いご褒美を貰えるんじゃない? って私達はキャイキャイ言ってたんだけど、それどころじゃ無かったわけよ。


 それから私は美男子様をご歓待するお料理のお仕事でおおわらわになってしまって、よく分からないんだけど、何だかシルフィンがお食事にまで同席させられているって話は聞いて、あら、あの娘お作法なんて何にも知らないはずだけど大丈夫なのかしらね、なんて呑気な事を言っていたら、突然侍女頭が私を呼んだのよ。


「シルフィン、様のところに行きなさい。殿下がお入りになったお部屋の隣です」


 シルフィン、様? 何のこっちゃと思った私はとりあえず、イケメンさんがお泊まりになる隣の部屋に行ったのね。


 そうしたらその部屋には何故か綺麗なドレスを着せられたシルフィンが呆然と椅子に座っていたのよ。


「ミレニー〜!」


 涙目で私に駆け寄ってきたシルフィンを見て私は悟ったわね。これは絶対、面倒な奴だ。とんでもなくて訳のわからない事が起きたに違いないって。


「何をしでかしたの? シルフィン」


 シルフィンは流石に混乱していたらしくて言っている事が支離滅裂だったんだけど、辛抱強く聞いてどうにか判明したのは、あの美男子様が次期公爵。つまり皇族に連なるお方だったということ。


 そしてなんとシルフィンにプロポーズしたという事だった、なにそれ。


「そうなのよ! それで、なんだか私の事を嫁にするって! 無茶苦茶なのよ!」


 シルフィンは真っ青な顔で叫んだのだけど、お貴族様のお偉いさんの無茶振りに頭を抱えていた父さんを知っている私は、まぁ、お貴族様ならそれくらいの無茶苦茶な事言い出してもおかしくないわね、と思ったわね。


 ただ、皇族の方が庶民と結婚出来るはず無いでしょ馬鹿なのか。とは思ったわよ。どう考えても無理じゃ無い? 無理無理。


 私はこの時まだ、ヴィクリート様の性格も能力も知らなかったから、あの美男子様、命を救われた興奮で無茶苦茶言ってるけど、その内冷静になればどう考えても無理な事に気が付くでしょ、と思っていた。


 だから私はシルフィンをなだめたわ。どうせそんな話は無かった事になるって。その間だけでもお嬢様生活を楽しんだら良いじゃ無いって。そうすれば私も彼女のおこぼれに預かって(お付きの侍女にはお茶やお食事下げる時につまみ食いしたり出来る役得がある)楽が出来るしね。


 というわけでシルフィンも何とか落ち着いて、私はその日から数日、シルフィンのお付きの侍女生活を楽しむ事にしたのよ。……数日のつもりだったんだけどねぇ。


 シルフィンは面白い娘で、いきなりお嬢様生活になっても平気な顔しているのよね。普通は戸惑うし緊張するものだと思うのに、普通に伯爵家の皆様とヴィクリート様と一緒に楽しそうにお食事をして(お作法は全然出来ていなかったけど)、ヴィクリート様とお茶して、お庭を一緒に散策していたわ。


 ブゼルバ伯爵家のお嬢様なんかはヴィクリート様を前にするとお顔を上げられないくらい緊張していたのに。シルフィンとヴィクリート様とお嬢様でお茶をされた時なんて、お嬢様は一言もしゃべれずお部屋に帰ってから死にそうな顔をしていたそうよ。「あの娘おかしい」って言ってたって。


 この時は「どうせちょっとの間だものね。楽しまないと!」って私の言ったことを信じてたから気楽にやっていたのかと思っていたけれど、この後もシルフィンは大体こんな感じだったのよ。元々図太いのね、あの娘。


 まぁ、私もこの時は数日でヴィクリート様は我に返って、シルフィンとの結婚なんて無かったことになると思っていたし、もしもまかり間違ってヴィクリート様がシルフィンを連れていくことになっても、私には関係無いと思っていたから、シルフィンと楽しくやってたんだけどね。


 で、いよいよヴィクリート様が公爵邸にお帰りになる事になって、お家がそのまま動いているのか! って馬車が来て、皆でお見送りに行ったのよ。私はシルフィン付きの侍女扱いだったから、シルフィンの後ろに畏まって控えていたわ。


 シルフィンはもの凄く寂しそうな、心細そうな顔をしていてね、私はああ、これはこの娘もヴィクリート様の事好きなんだな、って分かったわよね。まぁ、当然よね。あんなにいい男なんだから。


 でも身分があまりにも違うからね。まぁ、数日良い夢を見たって事で、明日からは侍女に戻って頑張って働いていれば、その内忘れるわよ。あとで慰めてあげよう。とか私は呑気な事を考えていたのよ。この時。


 まさかこの時点でシルフィンがブゼルバ伯爵家の養女になっているなんて知らなかったからね。だからもうシルフィンは本物のお嬢様になっていたから、もしもこの時ヴィクリート様が一人でお帰りになっても、シルフィンはそのままお嬢様生活を続けるところだったのよ。侍女だなんてとんでもない。


 そしてそれどころでは無かったわけね。ヴィクリート様は当然のようにシルフィンを連れて行くと言い出したのだ。私もシルフィンもビックリ仰天よ。い、いったいどういうことなの? 


 どういうことじゃ無いわよね。ヴィクリート様は本気だったのだ。この数日で飽きるどころかシルフィンに対して本気になってしまっていたのだ。シルフィンの手を握る目がマジだったもの。ごく普通に当たり前にシルフィンを公爵邸に連れて行こうとしていたからね。こ、こりゃあ、シルフィン大変だ。


 流石の図太いシルフィンも混乱していたわね。私の方を縋るような目で見ていた。でも、私にどうにも出来るものでも無いじゃない。私はブゼルバ伯爵家のしがない下級侍女。止める権利も何もない。それに、考えてみたら花嫁として公爵家に行くなんて素敵じゃない。大出世じゃない。考えてみれば止める必要も無い。むしろシルフィン良かったね! と祝福して上げる場面ではないだろうか。


 そんな事をぐるぐる考えていたら、突然ヴィクリート様が仰った。


「そうだな。誰も知らぬ公爵邸に一人で向かうのは不安であろう。伯爵、どうだろう。シルフィンとこの侍女は親しいようだ、この侍女をシルフィン付きとして我が家にくれまいか?」


「ひぇっ!」


 思わず声が出てしまう。え? は? もしかしてそのシルフィンと仲の良い侍女ってまさか私のことじゃないでしょうね!


「ああ、大丈夫でございますとも! ミレニー! 良いな!」


 ブゼルバ伯爵が顔中に汗を浮かべながら私に命じた瞬間、私のその後の色々な運命が決定したのですよ! シルフィンに同情している場合では全然無かった。ちょっと待ってよ! 本気なの? 私の意志は!


 なんて伯爵や次期公爵閣下に言えないわよね。私はヴィクリート様に優しくエスコートされて馬車に乗り込んだシルフィンを追って、フラフラと一人で巨大な馬車に乗り込まざるを得なかった。ステップを上がる時は公爵家の執事さんがエスコートしてくれたけど(落ちたら危ないと思ったのだろう)。馬車の中で状況をまだまだ全然把握していないシルフィンと二人顔を見合わせて、頭に盛大な「?」を浮かべながら私達は公爵邸に運ばれていったのよ。売られる仔牛の気分だったわね。


   ◇◇◇


 公爵邸は伯爵邸の大体三倍の規模を誇る。いや、伯爵邸だって小さくは無いのよ? 単に公爵邸が大き過ぎるだけ。伯爵邸はお屋敷だけど、公爵邸はもうこれはお城だ。


 それもそのはず。レクセレンテ公爵家は貴族じゃ無くて傍系皇族だからね。特にレクセレンテ公爵閣下は皇帝陛下の懐刀と言われ、帝国における権勢は比類無いと言われているんだそうだ。現在三人いらっしゃる公爵閣下の中でもレクセレンテ公爵は最上位にいるらしい。つまり傍系皇族の中でも一番お偉い。


 そんなお方のお家なのだからそれはお城でもおかしくないわよね。私はもう門を潜ってビックリ、馬車を降りてドッキリ、ここがシルフィンのお部屋だって部屋の中に入ってまたビックリだったわよ。世界が違うってこういう事を言うのねぇ。


 で、私はシルフィンの持ち込み侍女だからという事で、上級侍女に任命された。ええーっ! 


 公爵邸に働く人間はざっと三百人。シルフィンは「故郷の村と同じくらい!」って驚いていたわね。あの娘そんなに田舎から来たんだ。それは兎も角。


 その内の二百五十人が下働き。平民を含む身分の低い者はここで、本来なら私もここに分類されるのよね。身分的には。力仕事や庭仕事、雑用諸々が下働きの仕事ね。公爵邸はもの凄く広いから仕事はいくらでもあるのでこんなに人数がいても凄く忙しいのだそうだ。ちなみにブゼルバ伯爵家にはいなかったわ。


 で、下級侍女や従僕が三十人。お掃除や洗濯が主なお仕事ね。ちなみに公爵邸には専用の料理人がいるから侍女に炊事の仕事は無いそう。それと公爵邸を警備する衛兵もいて彼らは貴族の子弟だからここに入るわね。


 そして残りは二十人。これが上級使用人。上級侍女、執事、秘書ね。この人たちは公爵家縁の上位貴族出身。例えばシルフィン専属侍女筆頭のレイメヤーは侯爵家の三女だそうよ。執事長のコルミードなんて伯爵家の当主なんだって。本来なら私なんかが呼び捨てにしたら、むちゃくちゃ怒られる身分の人ばかりだ(使用人同士で敬称を付けることは禁じられているから仕方が無いのだ)。


 それなのに私が上級侍女なの? あり得なくない? 上級使用人は下級使用人とは寮も食事の場所も分けられている。寮なんて個室どころかブゼルバ伯爵のお嬢様のお部屋みたいな部屋で、専属の下働きのお手伝いさんが付くのよ! マーサって言うお母さんみたいな歳の女の人の! 信じられない!


 シルフィンには負けるけど、私も突然の大出世で別世界なのだ。もっとも喜んでいる場合じゃ無かったわよ。周りの上級使用人からの視線は厳しいし、仕事は何も分からないし、シルフィンよりはマシとは言えお作法も全然分からないしね。私にとっては胃が痛くなるような日々だったわ。


 だけど例によってシルフィンは平然としていたわね、可愛らしい色合いの大きな部屋で普通に暮らしていたわ。ドレスやヒールにもあっさり慣れたみたいだし、レイメヤーに教わって徐々にマナーも改善していっているようだった。


「そんなこと無いわ! 私だって緊張して毎日一杯一杯だったのよ!」とシルフィンは後で言っていたけれど全然そう見えなかったわよね。だって晩餐の席で御屋形様や奥様と普通に冗談を言い合って談笑していたのよ? お屋敷に来て数日後には。それに暇な時間は公爵邸を堂々お散歩して、庭園に出て花々をニコニコ鑑賞していた。


 彼女が男爵家出身だって分かって使用人たちはかなり懐疑的な目で見ていたんだけど、シルフィンがあんまり堂々としているのを見て、普通に接してくれるようになったわね。流石にシルフィンと接する事が少ない奥様付の侍女なんかは陰で悪口や嫌みを言っていたけれど。シルフィンが認められれば持ち込み侍女の私も認められるようになるから、シルフィンの図太さは私を守ってくれたのだ。


 なんというか、いろんな意味でシルフィン様々よね。まさかこんな事になろうとはほんの少し前には想像も出来なかったわよ。


 仕事はシルフィンの身の回りの世話とお供だけ。あの大変な炊事洗濯仕事は免除どころか、自分の分の洗濯や掃除さえやる必要無し。下働きのマーサがやってくれるからね。食事は伯爵家ではお嬢様が食べてたようなものが毎日食べられる。


 こんなに贅沢しちゃったらもう伯爵邸の下級使用人には戻れないわね。ていうか、絶対嫌だわ。堕落結構。こうなったらシルフィンに何としてもヴィクリート様(お屋敷では殿下と呼ぶことになっているけど)と結婚して貰わなきゃね。


 まぁ、ヴィクリート様とシルフィンならそんなこと心配する必要全然無いと思うけどね。あの二人、この頃から熱々ベタベタだったから。シルフィンは自覚無かったかも知れないけど。


 なんというか、最初はあんまりヴィクリート様が素敵すぎて、シルフィンもそこそこ可愛いけど釣り合わないよねぇ、という感じだったんだけど、だんだんお二人が並んでいるとしっくりくるようになってきたのよね。私がヴィクリート様のキラキラに慣れたのもあるとは思うんだけど、シルフィンも確実に毎日毎日綺麗になっていると思うのよ。お化粧のせいだけでは無いと思うのよね。


 ヴィクリート様とシルフィンの距離は日増しに近くなっているしね。シルフィンもこれはその気になっているとみたわ。やっぱり女は愛し愛されると綺麗になるものなんでしょうね。良いなぁ。私もいつか結婚したいわねぇ。


 この二人の様子なら無事結婚までたどり着くでしょ。私はラブラブする二人を見てやれやれと安心していたんだけど、あんまりゆったりのんびり怠惰にすごしているとレイメヤーにどやされるのよね。この方は二十七歳独身の美人なんだけど、もの凄く厳しいのよ。理不尽な事は言わないのだけどね。


「ミレニー! ぼんやりしている暇があるのなら誰かに頼んでお作法を勉強しておきなさい! 貴女は全然お作法が出来ていないのだから! 一生懸命練習しているシルフィン様を見習いなさい!」


 ハイハイ! そう、私だって官僚で男爵家だった実家なりのお作法しか知らないのだ。上位貴族出身の上級侍女に混じってもおかしくないようなお作法の習得は急務で、暇があれば同僚の上級侍女に教えて貰っているのよね。


 でも、そんなに急がなくて大丈夫でしょう? 少なくともシルフィンが正式に婚約するまでは、私はこのお屋敷でシルフィンのお世話だけしていれば良いはずだし。婚約したらお供として社交界にでるかも知れないけど。そうしたらドレスとかもらえるかもね。楽しみ!


 とか思っていたのだけど、レイメヤーは続けてとんでもない事を言ったのよ。


「明後日には貴女も帝宮に行くのですよ? シルフィン様の専属侍女として。その際に貴女がみっともない作法を晒せばシルフィン様が恥を掻くことになるんですからね!」


 は? 帝宮? 明後日? なにそれ聞いてないんですけど!


「本当は貴女は作法がなっていないので置いて行くつもりだったのですが。シルフィン様がどうしてもとご希望なさったので連れて行きます。だから何としても明後日までに帝宮作法を身に付けておきなさい」


 し、シルフィン! なんてことしてくれるの! 明後日なんてとても無理よ! 


 と思ったのだけど、考えてみればシルフィンだってあのお作法では帝宮には行けまいから、みっちりお作法のお稽古をやらされるんだろうね。それに初めて行く帝宮なんだもの。幾ら図太いシルフィンでも心細いよね。


 仕方ない。確かに私はシルフィンお付きの侍女。シルフィンが頑張るなら私だって頑張らなきゃね!


 そう思って私は頑張ってお作法の習得に取り組んだのだけど、そんなに簡単に覚えられる筈ないわよ。私とシルフィンは付け焼き刃なお作法のままで帝宮に乗り込む羽目になったんだけど、シルフィンは例によって堂々としていたから意外とバレなかったわね。


 やっぱりシルフィンを私が心配してあげる必要なんて無いのかもね。一人でも立派にお貴族様としてやっていけるでしょうよ。でも、つい心配して世話を焼きたくなっちゃうのよね。妹みたいだから。シルフィンも私を頼ってくれるしね。本当は今や、私の頼れるご主人様なんだけどね。


――――――――――――

「私をそんな二つ名で呼ばないで下さい! じゃじゃ馬姫の天下取り 」(SQEXノベル)イラストは碧風羽様。「貧乏騎士に嫁入りしたはずが!? 」(PASH!ブックス)イラストはののまろ様です。好評発売中です! 買ってねー(o゜▽゜)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る