同行の用意

 翌朝。

 クリエはアンペルに頼み込んでいた。

「あなた方について行きます。あのっ、戦うことはできませんが……。もっと星の話、聞かせてください」

「俺はかまわないが……このあたりにここより安全な場所があるとは思えないし、まあ上官がなんて言うかだな」

「掛け合ってみたらいいんじゃないか? いまなら鬼のリディア将軍もきっと上機嫌だろ」

 アンペルの言葉にユーフがあくびをしながら言う。

「それじゃあ、まあ、行ってみるか」


「春を売る仕事か? それならあるぞ?」

 開口一声そういったのはノイラント王国第二軍先遣隊千人を率いるリディア将軍である。

 みずからも女性なのにそういった繊細なことを軽々しくいえるリディア将軍にアンペルとユーフの二人はいつも閉口しているし今回も開いた口が塞がらなかった。リディア将軍は持論を述べるようにクリエを指さして言葉を発する。

「お前みたいな華奢で外面だけは良いようなべっぴんさんはな、春を売ってくれないとむしろ困るまであるんだよ」

「それはどういう?」

 釣られた魚のようにユーフが尋ねるとリディア将軍は待ってましたとばかりに朗々と答える。

「軍隊についてくる女たちが嫉妬する。ヤレない男が怒り出す」

「まあ軍隊とは言っても売春宿はある、道具屋はある隊商もいる、一個の街みたいなもんですからね」

 横から恰幅のよい男が口を挟んだ。

「だから行軍が遅いのだ! その間に敵に守りを固められてしまう! 余計な被害も出る!」

「しかしそういう施設もないと、兵士たちも困るというのが現状ですし、隊商からは護衛費としてかなりの金子をいただいておりますからな」

「うるさい!」

「出納役の意見でした、失礼」

 恰幅のよい男が押し黙る。リディアは男の顔を一瞥するとフンと息を鳴らしまたアンペルとクリエの方を見た。

「顔を隠させます。それなら良いでしょう」

 そんなリディアにアンペルがおそるおそる提案した。

「そうだな、だったらその長い髪も切れ。服も着替えろ」

「なぜですか?」

 リディアの強引な提案にクリエは尋ねた。

「売り飛ばす」

「はい、わかりました」

 理解したのか、クリエは答える。アンペルは驚いてクリエに尋ねた。

「おい、いいのか?」

「かまいません」

 即答するクリエ。

「じゃあ決まりだ。それらを売った金の半分はお前の物にしておいてやる。それならしばらく住む場所を手配してやっても良いだろう」

「ありがとうございます」

 クリエはリディア将軍に頭を下げた。長い髪がくしけずれ落ちる。

「……」

 それを見て、もったいないなと思いながらも、結局アンペルはクリエの望むままにさせた。

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