夜と星・2

「……」

 クリエはと言えば興奮していた。きらめく星の世界を目の当たりにして。クリエは星についての知識はほとんどなかった。この惑星のことについては詳しかったが、星々の世界のことは想定の範囲外だった。惑星に置かれた擬似的なアカシックレコードも答えをくれなかった。だからこれはクリエの知らないことだった。興味がわいた。好奇心を覚えた。だから、聞いてみた。

「この不規則に並ぶきらめきは一体何なんですか?」

「きらめきって、星のことか? 星は星だろ。なんて言えば良いのかな、そう空の地図だ」

「地図?」

「そうだ、あの星が見えるか? 北の方、ほかよりちょっと明るく白い星」

「はい」

「あれが北極星だ。すべての星はあれを中心に空を巡る」

「そらを巡る?」

「回転するってことだ。円盤が廻るようにな。一日に、大体一回転と365.2422分の1回転する」

「ずいぶん、細かいんですね」

「そうさ、一日で廻る分に一年かけて廻る分が追加されるからな」

「一日……一年……、きらめきが巡る……あそこのきらめき、北極星を中心にして……」

「すごいだろ」

「ええ、すごいです!」

 クリエは言った。本当に驚いて。

「そうかそうか」

「じゃあ今度はあれを見ろ。月だ」

「月?」

「ほら、あのでかいの」

「あれですか、月」

 クリエはわずかにかけた月を指さす。アンペルはうなずいた。

「そうだ。あれも空を巡る。ただし一日に一回と30分の1回転だ」

「なぜ?」

「なぜって、そりゃ月だからだろとしか言い様がないな」

「理由がないなら、どうしてわかるんです?」

「観測してそうだったからだが、おかしいか?」

「い、いえ……。ただ何らかの理由があるはずだと思ったものですから……」

「そうだな。お前さんの言うように、理由はあるとは思う」

「やっぱり!」

「ただその理由がわからないんだよ。今の俺たちにはな」

「そう、ですか……」

 やや残念そうに言うクリエにアンペルは慌てて言った。

「いや、でも、推測することはできる」

「推測?」

「観測を元に仮説を立てることさ。俺が思うにこの地上世界は――――」

「はい」

 クリエは答えを期待して待つ。

「球体をしている」

「そうですね」

「驚かないのか?」

「いや、当然でしょう? この世界が丸いの。球体をしているのは」

「お前星は見たことはないような感じなのに、なんでそんなことだけ当然のことのように理解できるんだ」

「それは――」

 実際に巡ったことがあるからですと言いかけて、クリエは口をつぐんだ。それは、人間に教えるべき知識ではないと感じて。

「旅をしていて、なんとなく、です」

 だから、そう言って言葉を濁した。

「ふむう、そんなもんか」

「はい」

「しかし気に入った。いままでこの地上が球体をしていると言って信じたやつはほとんどいなかった」

「そ、そうなんですか?」

 内心しまったと思いながらクリエ。

「やっぱり旅暮らしをしているとそういうこともわかるのか。それとも東方の知識か知らないけれど、たいしたもんだ」

「そ、それほどでも……」

「まあそれはそれとして、今はそれより大事なことがある」

 アンペルは話を切り替える。クリエは首をかしげた。

「?」

「腹が減った。そろそろ行こうか」

 それに夜風も寒くなってきたなと思ってきたところだった。アンペルは少女が付いてくることが当然のことのようにクリエに言う。

「はい?」

 対して不思議そうにクリエ。

「俺たちの新しいねぐらへ行こう。腹減ってるだろ? なんか食べて行けよ。今ならきっと食料がたんまりあるぞ」

 敵陣に積まれていたであろう食料に期待してアンペルは言った。

「いえ、それは結構です。私たちはここでお別れしましょう」

「おいおいおい! そりゃないって! 女の子一人、こんな所に放ってはおけない。そりゃねぐらも安全……とはいえないけれど少なくともここよりはましだ!」

 クリエの言葉にアンペルは言葉早めに言い立てる。

「けれど……」

 困ったようにクリエ。あまり関わってはいけない気がするのだ。自分と人間は。どうしたものか。困った顔をしているとアンペルはまた言った。

「服が気になるのか? なあに、異国の衣装で少し驚かれるかもしれないが、遠い国の話でも聞かせてくれれば、みんなきっと興味を持つぜ」

「できればここで私は星を見ていたいので……」

「そうか、だったら、俺は星について、まだまだ教えられることがあるぞ」

「……」

 結局それが、決め手となった。

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