夜と星・3
自己紹介がまだだったな。俺はアンペル。ノイラント王国の兵士をしてる。お前は?」
「クリエ」
クリエは星を見上げながら歩いているので、どこか足下がおぼつかない。
「そっけないな」
「すみません」
「そう思うなら改めることだな」
「……」
答えずに星に気をとられ続けているクリエ。
「まあ、星が好きなやつは嫌いじゃない」
「……好き?」
足を止めるクリエ。
「好きなんだろ? 星を見るのが」
「どうでしょう。なにしろこうして顔を上げて夜の空を見るのは初めてのことなので」
「……やっぱりお前、変わってるな」
「すみません」
「いや、いいんだ、むしろ、教え甲斐がある」
二人はまた歩きはじめる。クリエは天を向きながら、アンペルはといえば、そんな危なっかしいクリエの手を知らず引きながら。
「……」
そしてクリエはといえば。
自分のすぐ上にはこんな不思議で美しいものがあったなんて今までどうして気づかなかったのだろう、と本当に不思議に思っていた。それはクリエが創造主と別れてから、ずっとうつむいて歩いていたからで、クリエもそれをなんとなく認識していた。
顔を上げて歩けばよかった。そうすれば星を見ることができたのに。星が見られれば、きっと何か自分の中で変わるものがあったのかもしれないのに。
いや、あったのだ。促されるままに見た夜の輝き、それを指し示す手、星について物語る言葉。アンペル。
「ん? 何か顔に付いてるか?」
「いえ、なんでも」
クリエはまた天に視界を向ける。アンペルはそっと手を引く。クリエは手をひかれていることに気づかないようだ。そのままノイラントの陣地へ二人は向かう。
「止まれ!」
入り口で見張りの兵士二人に制止される。アンペルは高らかに答えた。
「ノイラントの兵士、アンペル・ラザルスだ。戦場で気を失っていたが今帰還した」
「合い言葉は?」
「我らノイラントに住まいし兵士、白き鷹の生みし国。王家とともにとこしえに栄えん」
「確かに! でその女は?」
好奇心を抱いた様子で、見張りの兵士の一人が聞く。
「旅の商人だ。一人は危険なので保護した」
「ベルゼビュートのスパイではないという確証はあるか」
もう一人の兵士が聞く。
「衣装を見ればわかるだろう」
「確かにベルゼビュートの物ではないことはわかるが」
「東方から来たらしい、入ってもいいか?」
「まあ、いいだろう」
見張りの兵士たちは刃を下ろす。アンペルはクリエを砦内に誘った。
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