第46話 ダンジョンマスターへのアタック

 ダンジョンマスターの討伐アタックの10日後。

 ギルドのイベントで王都ヴァルメイロに呼ばれた。今回もワイバーンで空の旅だったが、前よりは落ちついて乗っていられた。

 

 今回はトップアタッカー同士の交流会って感じらしい。

 ギルドからの招待状は丁寧な文面ではあったが、絶対参加してほしい、という圧が感じられるものだった。


 あのダンジョンマスター討伐のアタックは恐ろしい視聴者をたたき出した……のはギルドからの報奨金を見てよくわかった。

 ギルドの歴史上でも屈指の額だったらしい。額を見た時のアストンの顔は今も忘れらられない。



 王都ヴァルメイロのギルドはアルフェリズの3倍近い大きさの建物だった。

 赤いレンガをメインに白のレンガを混ぜたしゃれた建物だ。


 近づくと係員が恭しく一礼して扉を開けてくれた。 

 中は広々としたホールになっている。高い天井は大きめのガラスの天窓になっていて明るい。


 中にはアタッカーらしき連中が50人ほどいた。

 ちょっとした軽食とかも用意されているらしく、焼いた肉やソースのにおいと、ワインの香りがする。


「ダンジョンマスター討伐を成し遂げた、闇を裂く四つ星の4人の到着です」


 扉を開けてくれた係員が声をかけると全員の視線がこっちに集中した。


「おお!来たぞ!」

「8年ぶりの快挙!」

 

「お前らのアタック見たぞ!」

「凄いな!最高だった!」


 ギルドのホールに居たアタッカーが皆で拍手をしてくれた。

 ホールに拍手と声が響く。


「やあ。久しぶりだね。大したものだよ、アトリ」


 人混みの中央にいたカイエンとイシュテルがこっちに向かって歩いてきて握手を求めてきた。

 促すとアストンが遠慮がちに進み出てカイエンと握手する。


「おめでとう、と素直に言いたいところだが……正直言ってスピード重視のRTAにダンジョンマスターの討伐まで先を越されたのは、俺達としては痛恨の極みだ」

「でも、貴方達が目のまえで見せてくれたからね。ダンジョンマスターは倒せる。無敵のモンスターじゃないってことを教えてくれた」

「まあ見ててくれ、必ず俺達も近いうちにダンジョンマスターを倒して見せる」


 笑顔でカイエンが言うが……口調はかなり真剣だ。

 トップアタッカーの意地はあるんだろうな、とは思う。とはいえ、先を越してしまったのは悪く思うなって感じだが。


「会えてうれしいぜ。アトリさんよ」


 カイエンの話が終わるのを待っていたかのように後ろから声が掛かった。

 声をかけてきたのは青いマントに、白い羽飾りをつけたつばの広い帽子。

 黒髪の巻き毛の、この間見た4人のアタッカー、そのリーダーの銃兵マスケッターだ。


「俺の名はダルタニアスだ。闇を裂く四つ星、あんた等のスタイル、マジでリスペクトだぜ」

「そう言ってくれると嬉しいね。お前らのアタックも見たよ」


「そいつは光栄だ。アストン、マリーチカ、オードリー。あんたらもすげえよな。本当に信じあってるって感じでよ、いいパーティだよ。俺達もあんたらみたいにビッグになりたいぜ」


 ダルタニアスが言うが。


「おやおや、私はリスペクトしないのですか?ダルタニアス」

「いや、姐さん、そんな意地悪言わんでくださいよ。勿論リスペクトですぜ。毎朝毎晩感謝してますよ」


 不意に声をかけてきたのはロンドだ。慌てたようにダルタニアスが言う。

 やはりロンドこいつに色々教えているらしい。


 周りのアタッカーがロンドに向かって礼をして、ロンドが皆に手を上げて答える。

 この六か月、俺達とこいつの競り合いがアタッカー界隈の中心だったわけだが、なんか10年前からここにいるくらいの貫禄だな。 


「あなた達と私で随分この世界のアタックも変わったものですね」


 ロンドが言った。

 俺もアルフェリズのアタッカーには色々と教えているから、アタックのレベルが上がっているように感じる。


「お前もやっぱり色々教えてるわけだ」

「ええ、勿論。秘密にしておく意味は無いでしょう」  


 自分達の知識やノウハウを秘めることが悪いわけじゃないが、教え合う方が競技のレベルは上がる。

 とはいえ、この世界のアタッカーにとってノウハウは飯のタネだから明かさないのは無理もないところはある。

 地球にいるころは他のプレイヤーが配信した動画を見て研究するのは常識だったが、この世界ではそうはいかない。

 

「あいかわらず親切なんだな」

「同じキャラ、同じ戦法が幅を利かせる環境は退屈極まりないですからね。周囲のレベルが上がる方が私も面白いですから、教えているのですよ」


 ロンドが言う。

 

「そして、さすがですね。アトリ、それにアストン、マリー、オードリー。ダンジョンマスターを倒す、完全なRTAをやられてしまうとはね」


 ロンドが言うが、アストンたちは首をかしげていた。

 完全なRTAなる概念は俺とロンドでしか通じないよな。

 ただ。


「俺たちは4人で行ったんだが」

「ミッドガルドのRTAのレギュレーションに人数の制約はありません。基本クラスで武装もノーマルのまま。貴方たちの記録はレギュレーション内です。文句ない記録ですよ」


 ロンドが僅かに悔しさの混ざった口調で言う。

 こいつはこの辺は割と潔いな。


「しかし、まあダンジョンマスター討伐成功者は貴方たちだけなのは今日までです」

「どういう意味だ?」


「今から私はダンジョンマスターの討伐に行ってきます。今日、今からね」

「今からだと?」


 まるで散歩にでも行くくらいの気安さで言う。

 あまりにも唐突すぎるだろと思うが、ロンドが大真面目な顔で頷いた。


「本当は、今日のこの集まりは私のダンジョンマスターの討伐のお披露目のはずだったのですよ。

先を越されてしまってあなた達の祝賀会になってしまいましたがね」

「そうなのか」


 ロンドが頷いて、壁の何も映っていない写し板ディスプレイの方を見た。


「もっと早く行くつもりでしたが、ゲームとリアルは違いますからね。

しかしこれまででだいぶ感覚がつかめました。問題ないでしょう」



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