3章 王都での出会い

第35話 ヴァルメイロのイベント参加・上

 10回目のアタックは海賊船エステファニア号。

 巨大な帆船のマストから入って朽ちた船体の方に降りていくというダンジョンだ。


 最初は足場が悪いマストと張り巡らされた縄梯子を抜け、最終的には船体の中を走り船倉の宝物庫を目指すダンジョンだ。

 ダンジョン全体で霧がかかっていて、兎にも角にも視界が悪い。


 序盤の縄梯子は複雑につながっていてどこでも行けそうだが、行き止まりが多い。

 ……とはいえ俺は正解のルートを知っているから関係ないんだが。


 順調に走って甲板に降り立った。

 見上げると、太い帆柱が高く灰色の空に向かって伸びている。ボロボロの帆と今降りてきた縄梯子が見えた。


「なんか肌がべとべとするね」


 マリーが汗をぬぐいながら言う。

 ゲームでやっていた時は当たり前だがそんなことはなかったが、実際にここにいると湿気を感じる。

 いつもの長い赤いコスチュームが肌に絡んで鬱陶しいな。


 甲板を抜けて船室に入った。

 沈む前は豪華だったんだろうと思わせる広めの廊下を駆け抜ける。時々現れる空飛ぶ魚フライングフィッシュをライフルで撃ち落とす。

 走ると木の床が軋んだ。


「5歩先の床が抜ける。飛び越せ」

「分かった!」


 アストンがジャンプして崩れる床を飛び越える。このダンジョンには何か所か床が抜ける落とし穴のようなギミックがある。

 落ちてもダメージは殆どないが遠回りさせられるからタイムロスだ


 罠を回避しつつ螺旋階段を降りて広いフロアに出た。

 倒れた大砲が並んだ船室。ここはもう9階層の終盤だ。


 そのまま進むと、蓋のような扉が絞められた階段があった。

 ここがゴールだ。9階層のゴール。タイムは28分12秒。目標の9階層30分はクリアできた。

  

「どうしたんだ、アニキ?」 

「いや、何でもない。戻ろうか」


 ここのダンジョンマスターはこの真下。10階層にいる。

 呪われし宝石カーストジュエル船長キャプテンバルケスだ。


 攻撃パターンは勿論知っているし、ソロで倒したこともある。

 いずれは一度挑んでみたいもんだな。 



「今回は987,000クラウンだ」


 アストンが言ってマリーとオードリーが小さく拍手した。


「今回も頑張ったもんね」

「良かったです」

「……若干伸びてないな」


「アニキは相変わらず強気だよな……今だって十分だろ」

「まあな」


 配信の報酬は安定しているし、王都ヴァルメイロからの方からもたらされる報酬も大きい。

 ただ、伸びてないのは気になるところだ。


 RTAと時折見栄えがいい場所を目指すスタイルでやってきたが、新しいことをしないと飽きられるかもしれない。

 RTAの競争相手がいないのが悩ましい所だ。

 とはいえ、この稼ぎで文句を言っているのは贅沢な悩みではあるが。



 成功裏に終わったアタックの後に、探索者の書庫亭から手紙が届けられた。

 白い高級そうな紙に優雅な筆跡でエドワードの名前と、赤い蝋で本を象った紋章が捺されている 


「先日のアタックも見事だった。ぜひ一度、わが店に来てほしい。公式のホームは星空の天幕亭なのだろうが、我々としては準ホームだと考えている……だそうだ」


 日本風に言うなら、ゲーセンとかにイベントで呼ばれるような感じか。

 そういえば真理に迫る松明のカイエンたちもどこかの店に呼ばれた、と言ってた気がするな。


「どうする、アニキ?」

「行ってみるのもいいんじゃないか?」


 カイエン達がアピールしてくれたおかげで、ヴァルメイロでも配信してくれる店は増えてきている。

 そこからの収入は結構な額だ。


 この世界のアタックはインターネットの配信のように世界中から誰でも見れるのとは違う。

 アタック配信酒場とか誰かが流してくれないとみてもらえない。


 そういう意味ではローカルスポーツの中継とか動画配信サイトに近い。

 いいアタックをしても見てもらうハードルは日本とかよりかなり高い。


 いち早く俺たちに目をつけて契約してくれたエドワードの存在はありがたかった。今となっては。

 収入があるってことは見てくれてる人がいるってことだし、顔を出すのもいいかもしれない


 ……どうやって行くんだかは知らんが。

 新幹線や飛行機なんてないだろうしな。


 アストンたちは村には馬車で戻ったが、ミッドガルドのゲーム内では都市間の移動についてはカーソル動かすだけだった。

 この辺はゲーム的には細かく書いても意味ないわって感じで省かれたんだろう。


「それにさ、王都に行きたくないのか?」


 いわば上京するようなもんだ。

 俺もこっちに飛ばされる前は東京にいたが元は富山出身だ。東京に遊びに行くときは結構わくわくしたもんだが。

 アストンたちが顔を見合わせた


「……超行きたい」 

「ボクも」


 そりゃそうだよな。


「旅費は向こうもちらしいしな。行ってみようや」



 出発の日。

 アルフェリズの郊外の指定された場所に行ってみると、巨大な翼をもつ龍がいた。ワイバーンか、これは。

 ちょっとした飛行機並みの巨大な翼で、ダンジョンでなら兎も角、向こうにアルフェリズの街並みが見える場所で会うのはかなり非現実的な光景だ。


 恐竜のようなゴツゴツしたトカゲのような顔からは牙が覗いているが、目を閉じて大人しく伏せているから、完全にコントロールされてるのは分かる。 

 顔の横にはタクシーとかハイヤーの運転手の制服を思わせる黒い服をきた若い男が立っていた。

 そいつがこっちを見て一礼する。


「ようこそ。闇を裂く四つ星の皆さん。これから王都にお連れします。さあ、乗ってください」


「すごい……ワイバーンに乗れるなんて」

「ボク、初めて見たよ」

「まるで王様みたいですね」


 三人が嬉しそうに乗り込む。どうやらこの世界では飛行機と同じような存在らしい。 

 というかプライベートジェット的なものなのか。

 旅は楽しみだったが、まさかこんなものが来るとは思わなかったぞ。


「これで飛んでいくのか?」

「ええ。3時間もあれば着きますよ。空の旅をお楽しみください」


 御者というか操縦士というかなんと呼べばいいのか知らんが、そいつがこともなげにいう

 ……大丈夫だろうな


 ワイバーンの背には大き目のテントのようなものが括りつけられていた。

 分厚い木組みの床板に分厚い赤の絨毯が敷き詰められていて、白いクッションが並んでいる。大き目のテーブルにはグラスと酒が置かれていた。

 クリーム色のテントの布からは太陽の光が中を照らしている。


「出発します。安定するまでは気を付けてください」


 テントの外から声が聞こえて、同時に大きく羽ばたく音がする。

 下から突き上げられるよう揺れて床が浮いた。

 

「凄いよ!アトリ」


 テントの窓から外を見ながらマリーが言う。

 あっという間に緑の地面とアルフェリズの町が眼下に広がって遠ざかる。

 空中高くワイバーンが舞い上がった。

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