第3話 アタッカーなるもの
「つまり君らが俺を助けてくれた、ということか?」
「ええ、そうなります。俺達は2階層でトレーニングしてたんですが、そうしたらあなたが転がっていたんですよ、アトリさん」
アストンが答えてくれる。
どういう経緯でこうなったのかは謎だが、状況は分かった。
「貴方はガンナーですか?」
「ああ、まあ一応そうだ」
と答えるしかない。
「なぜ一人で?仲間はいないんですか。カリュエストールの滝壺に居たってことは多分まだ初級アタッカーなんでしょうけど……一人は危険すぎますよ」
俺は世界記録を出したんだぞ、初級ってなんだ、そもそもアタッカーってなんだ、とは思ったが黙っておいた。
というより、今の自分はあの時使っていたアンネームドのガンナーなのか。
鏡とかが無いからわからんが。
ミッドガルドのRTAでは上位クラスは使わないのがルールだ。
上位クラスを作る過程でパラメータに差がかなり大きくでるし、上位クラスは固有能力も強い。
なので結果プレイヤーの腕の差よりキャラ差の方が重要になってしまう。
銃手も含めた初期の8クラスで競うのが普通だ。
「まあ独りなんだ。助けてくれてありがとう」
「改めて。俺はアストン。クラスは
全員初期クラスながらなかなかいい編成だ。
ミッドガルドはアクション性の高いダンジョン攻略ゲームだ。
協力プレイも出来る……と言うかそっちの方が一般的だろう。俺も最初は普通に友達とやったりしていた。
RTAに専念するようになってソロプレイヤーになったが、普通は何人かでパーティを組んでダンジョンを攻略するもんだ。
前線を担う
ミッドガルドのパーティは4人が基本で、前衛二人と回復役と魔法使いという構成がセオリーだ。
人数は一人少ないが、セオリー通りの組み合わせだな。
「ところでトレーニングって何してたんだ?」
「変なこと聞きますね。アトリさんもトレーニング中だったんでしょ?」
「いや……すまない。記憶が色々曖昧でね」
我ながら適当な言い草にもほどがあるが。
そういうことなら、とアストンが説明してくれた……こいつは良い奴だな。
その内容は大まかにはこんな感じだった。
◆
どうやらミッドガルドに似たこの世界には、ミッドガルドと同じくダンジョンがある。
そして、そのダンジョンに入って戦いを中継するのがエンタメになっているらしい。
それってプレー実況だろ、と言っても理解されなかったのではあるが。
言われてみるとミッドガルドでもプレイヤーキャラがダンジョンを攻略する目的は特に語られなかった気がする。
そしてダンジョンに潜るやつのことをアタッカーと言う。
RTAのプレイヤーを走者っていうようなもんだな。
そして一流のアタッカーになれば、あちこちから引っ張りだこになって稼げるってことらしい。
プレー実況というよりスポーツ選手っぽい。
ダンジョンがあってモンスターと戦うような世界はもっと殺伐としてるのかと思ったが、随分と長閑なんだな。
「僕とオードリーはラポルテ村の出身です。マリーチカとはこの町で知り合いましてアタッカーのパーティを組んだんです」
アストンが説明してくれる。オードリーがアストンに何か囁いた。
「アトリさん、せっかくだから実際に見てみませんか?」
◆
アストンに連れられていったのは街の酒場って感じの店だった。
「ようこそ、星空の天幕亭へ。もうすぐ配信が始まります」
「ええ、知ってます」
入り口でアストンが店員らしき女の子に何かを手渡す。入店料とかだろうか。
高い天井、店の真ん中には大きな円形のカウンター、それにいくつものテーブル。
勿論現代日本みたいなお洒落な感じは無いが、あんまり全体のレイアウトは変わらないな。
どことなくなつかしさがあるのは、ミッドガルドのゲーム内の背景で見た冒険者ギルドとか酒場の背景に似てるからだろう。
壁や天井からは紋章入りのフラッグのようなものが垂れ下がっていた。
ただ、ちょっと手狭で古びた店構えだ。
机や椅子はちょっとガタが来ている感じだし、壁に飾られたタペストリーや天井から下がったフラッグはちょっとすすけている。
客入りも6割くらいって感じだ。
「注文は?」
「あー……あの、ソーダ水を4つと
アストンが気まずそうに頼むと、店員が分かったよって感じで戻っていく。
しばらくしたら木の器に入れられた炭酸水と大皿に盛られた白いマッシュポテトが出てきた。
マッシュポテトには申し訳程度に玉葱とベーコンの欠片が入っている。
「まあ、あの……こんなもので申し訳ないんですが、アトリさんもどうぞ」
「ああ、ありがとう」
懐が寂しいのはなんとなく察しがついた。
いかにも年下って感じの、しかもあまり持ち合わせがなさそうな奴に奢ってもらうのも気まずい。
仮にここがミッドガルドの中だとして、俺の所持金とかはあるんだろうか。
カップに入った炭酸水に口を付けると、レモンの風味がした。
水を飲みつつ周りを見回すと、片方の壁には巨大なディスプレイのようなものが設置されていた。
画面には4人のパーティが映ると周りから歓声が上がる。どうやら人気パーティらしい。
見た目的には
全員上級職だな。
前衛の
バランス型のいい編成だ。
画面の方に向かってリーダーらしき
そのパーティの後ろを追うように画面が動いていった。
TPSの画面……というかミッドガルドのプレーを見ているようだ。
多分カメラに相当するものがあるんだろう。
どのダンジョンかは壁の様子ですぐ分かった。
黒い鏡のような壁は黒水晶の迷宮だ。最高難度SSランク。敵が強く複雑だが特殊なギミックは少ない、正統派の高難度ダンジョン。
RTAに専念するようになる前は、友達と何度も攻略した。
「黒水晶の迷宮だぜ!」
「こりゃ楽しみだ」
「あそこ、モンスター強いもんな」
周りが言う中で、画面の中では次々と見覚えがあるモンスターが現れてくる。
小型のドラゴンであるリンドブルム、巨大な目だけのモンスター、モノアイ。
それぞれが魔法や火炎で攻撃してくるが、
剣と硬い爪がぶつかる音、モンスターの叫び声と足を踏み鳴らす鈍い響き。それの合間に魔法の爆発音が轟く。
かなりの臨場感だ。
そして、こいつらはかなり腕が経つパーティだ。
この連携ならミッドガルドをプレーしても上位パーティランクに食い込むだろう。
「おお!さすが!」
「あぶない!」
「頑張れ!もっといけるだろ!」
敵の魔法が飛び、
そのたびに周りから歓声と悲鳴と声援が上がった。客の拍手と盛り上げるように脚を踏み鳴らす音が高い天井に響く。
歓声の合間を縫うように酒と料理の注文の声が飛び交う。
さながらスポーツバーで試合を見ているようだったが……盛り上がりは想像以上だった。
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