第2話 転生したらモブガンナーだった。
目を開けたら見知らぬ天井だった。
白い無機質な俺の部屋の天井じゃない。木の梁が組み合わさった天井。三角屋根の板の間からは太陽らしき光が見える。
体を起こすとかかっていた毛布がベッドから滑り落ちた。
毛羽立っていてあまりきれいな毛布じゃない。
敷布団も無くて硬いベッドにクッションのようなものが置かれているだけだ。クッションからは草の匂いがする。
周りを見回すと、天井裏のような小さな小部屋だった。
天窓から光が差し込んでいて明るい。ドアは無くて部屋の片隅には下に降りる梯子が見えた。
あとはボロい机とボロい椅子、それにもう一台の箱を並べたような寝台。
机には長い棒のようなものが立てかけてある
ベッドから降りて床に立つ。梁が低くて頭をぶつけそうだ。
机に立てかけられた棒をとる。何かと思ったが、これは……ライフル銃か……というか、ここはどこだ?
歩くたびに床がギシギシと軋みを上げる。
それと同時に梯子の下の方から足音が聞こえた。誰かが梯子を上ってくる。
ベッドに戻って寝たふりをするべきか。
どうすればいいのか。迷ってるうちに、梯子が駆けられた穴から誰かが顔を出した。
「あ、起きたみたいですね。良かった」
◆
顔を出していたのは女の子だった。
多分18歳くらいか、栗色のショートボブ風の短い髪。背中には尻尾のように長く三つ編みが伸びている。
栗色のちょっと釣り目っぽい大き目の瞳と卵型の整った顔立ちが可愛らしい。
カチューシャのように白いリボンを巻いていた。
「アストン!オードリー!目が覚めたみたいだよ」
その子が下に向かって言う。
「降りて来てもらえよ。全員で登ったら床が抜けちまうだろ」
下から若い男の声が聞こえた。その子が頷く
「あなた、お名前は?」
「ああ……アトリだ」
可愛い感じだがはっきりしたでその子が訊いてきた。
思わずプレイヤーネームが口から出る。と言うかここはどこなんだ一体。
「ボクはマリーチカです。アトリさん、あなたの銃はそこです。少し下に来てくれませんか?」
その子が言う。
嫌だ、と言える状況じゃない。というか何が起きてるのかわからん。
というか、俺の銃?
机に立てかけられた銃を手に取る。見覚えがある。思い出した。この銃はガンナークラスの標準装備の一つ、8発装填の
射程、軽さ、命中精度、ダメージのバランスがよく、RTAもこれを使ってる。
いつの間にか、マリーチカの姿が消えていた。下に降りたんだろう。
選択肢は無いな。
◆
急な梯子を落ちないように慎重に降りるとそこは少し広い部屋だった。
8畳くらいで寝台が二つと中央にはテーブルとイス。
部屋の片隅には鎧とか剣とかが整然と置かれている。
椅子にはさっきのマリーチカと、もう二人座っていた。
二人とも18歳くらいだろうか。
1人は赤い短い髪の男だ。鋭い目つきだが、嫌な感じはしない。
なんとなく顔を見た時点でいい奴っぽさが漂っている。
イケメンってほどじゃないが、高校球児っぽいさわやかな感じだ。
ちょっと細身にも見えるがボロイ灰色のシャツ越しに見える胸元や肩回りはしっかり筋肉がついていて、鍛えた感じが見て取れる。
もう一人は金の髪に緑の目の女の子だ。
そばかすが頬に浮いていて可愛いけど純朴って感じの雰囲気だな。
紫色のローブと同じ色のつばの広いとんがり帽子に杖。
ゆったりしたローブを着ているが胸の大きさがなんとも目立つ。
さっきのマリーチカは、白いジャージのような動きやすそうな服を着ていた。
ボーイッシュな感じで良く似合ってる。白地には十字架のような文様が刺繍されていた。何処かで見たことがある気がするぞ。
アストンとオードリーがこっちを見る。
……というか人間観察をしている場合じゃない。
「ああ……えっと、始めまして。アトリ、といいます」
「初めまして。アトリさん。俺はアストン、こっちはオードリーです」
アストンが椅子から立ち上がってきびきびした感じで答えてくれる。
なんとなく体育会っぽさがあるな。ちょっと苦手だ
「ところで、俺は一体なぜここに?ここはどこだ?」
「覚えていないんですか?」
「ああ、生憎と何も」
俺の最後の記憶は、念願の9分台を出して我が人生に一片の悔いなし!と思いながら拳を突き上げたところだ。
アストンたちが顔を見合わせた。
「ここはアルフェリズの深淵の止まり木亭です。あなたはカリュエストールの滝壺の2階層で転がってたんですよ」
アストンが答えてくれる。
アルフェリズ、カリュエストールの滝壺。
そしてもう一度マリーチカの服の紋章を見た。円を頭につけた
見覚えがあるはずだ。あれはミッドガルドのキャラ、
アルフェリズはミッドガルドの町の名前。カリュエストールの滝壺はCランクダンジョンだ。
自分の頬をつねってみるが、普通に痛いだけだった。アストンたちが怪訝そうに俺を見る。
この状況は夢ではない。
つまりこういうことか。俺はいまミッドガルドの中にいる。
我ながら何を言ってるのかわからねーが、つまりそうとしか思えない。
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