転生したらモブガンナーだったのでRTAの配信をしたらバズってしまった~異世界ではRTAは伝説の配信スタイルらしいです。ルーキーパーティを助けてスターに成り上がる~
ユキミヤリンドウ/夏風ユキト
異世界転移したからRTAをすることにした
第1話 世界記録達成!
画面の端に表示されているタイムカウントに目をやった。
経過時間、1時間7分42秒。世界記録まで3分1秒、前人未到の9分台まであと2分17秒。
『ガンバれぇぇぇぇぇl!!!』
『あと少しだアぁぁぁあ』
『あと2分!!』
『粘れ!!!粘れよ!』
『ガンナーの星!頼む』
普段は殆ど視聴者が付かない俺のチャンネルだが、たまたまどこかでバズったのかいつの間にか大量の視聴者が着ていた。
緊張を感じるシチュエーションかもしれないが、そんな気持ちにすらならない。
パッドを握る指に力がこもりそうになるのを押さえる。自分が呼吸してるかどうかも分からない。
画面の中で自分の操作するキャラ、ガンナーが動く。
カスタマイズした赤いコートの裾がはためいて砂が舞う、美麗なグラフィックも今は堪能する余裕はない。
画面の奥にはこのダンジョン、水没都市フレグレイ・ヴァイアのダンジョンマスター、ナーガが蛇のような巨体をうごめかせている。
視界の端で時間が進む。
7分58秒。ナーガが体を反り返させて水弾を吐くモーションを起こした。
此処だ!口にサイトを合わせて△キーを押す。
銃口から炎が噴き出して徹甲弾がナーガの頭を捉えた……と思ったがダメージの表記はたったの287。
浅い。
打つ瞬間にサイトがズレた。一生の不覚。
『バカァァぁァァ!!』
『着弾浅いよ!何やってんの!』
『ええええええええええ』
『ここでかぁああああ』
実況のコメ欄に物凄い勢いでテキストが流れる。時間は8分18秒。
ナーガの耐久はあと8597。
のたうつような動きをするナーガに照準を合わせて弾を撃ち込む。
ナーガの耐久と時間、そして装填数が減っていく。
撃ち切った。画面の中のキャラがリロードのモーションを起こす。
これがボス戦でのガンナー最大の泣き所だ。リロードゲージが気が遠くなるほどゆっくりと回復していく。
振り回される尻尾を躱し、空中から降ってくる水の塊を避ける。エフェクトが画面で光を放ち、ヘッドホンからSEが響く。
当たってダウンしたらロスは7秒。リロードも止まるからタイムロスはさらに伸びる。
食らえば9分台への挑戦はそこで終わりだ。
リロードが終わった。
水弾を避けながら攻撃を再開する。長銃の射撃間隔は90フレーム。1.5秒の間がもどかしい。
一発が外れた。またリロードが始まる。
『あきらめるなあ!!!!!!!!!!!』
『GOOOOOOOOOOOOOOO!!』
まるで自分がガンナーとしてそこに居るような気すらする。
水しぶきが降りかかるように感じる。湿った空気も足元を浸す水も。次に何が起きるのか分かるような感覚。
8分59秒。
リロード後に即攻撃を再開した。
赤い火線がナーガに当たってヒットエフェクトの赤い炎が瞬く。
突然ナーガが攻撃モーションを止めて水面に柱のように屹立した。
だが前触れなくしっぽを振り回してくることがある。貴重な数秒を使ってこっちも動きをとめて様子を伺うが動きはない。
フェイントモーションでまた攻撃してくるパターンもあるが、どうやら攻撃停止のパターンだ。
耐久値4852。時間は9分25秒。
装填は1発。外したらリロードでまた10秒は攻撃不能。
世界記録を狙うなら残弾を撃ち込んで即リロードだ。
リロードすれば装填8発に戻る。それを撃ち込めば世界記録は行ける。
念願の世界一は目の前だ。
世界的超人気タイトル、ダンジョン攻略アクション、ミッドガルド。そのS難度ダンジョン、水没都市フレグレイ・ヴァイア。
一番走者が多い、ノーマルクラスでの攻略のRTA世界記録。アメリカの
このままなら超えられる。
世界一だ!それでいいじゃないか!!!
だが……今日は自分でも神がかりってくらいのペースでここまで来た。
次に9分台を出せるチャンスはもう無いだろう。
静止しているのなら、クリティカルを狙う。
9分台のためにはそれしかない。
「この一発に全てを賭ける!」
思わず声が出た。口元のマイクが声を拾う。
『ばかかAAAAAAAAAAAAAAAAAAA』
『9分台かよ!』
『いけぇええええええええええええええ!!』
『決めろ!』
『TOOOOOOOOP OF tHE WORLD!!!』
『漢!!!』
動きを止めたナーガの頭にサイトを合わせる。
こうなったらナーガはあと4秒は動かない。このパターンは何千回も見た。
クリティカルが出るウィークポイントは狭く、急所が見える時間が短い。止まっていても当てるのは難しい。
心臓が鳴る。汗が噴き出る。息がつまりそうだ。震えよ治まれ。
9分32秒
硬いプラスチックのパッドの△ボタンが本物の銃のトリガーのように感じる。
照準は合わせた。あとはもう祈るのみ。タイミングを測ってボタンを押した。9分35秒。
そして……
吸い込まれるように赤く線を引いた弾がナーガの頭に命中した。残弾ゼロ。ガンナーがリロードモーションに入る。
同時に赤い血のヒットエフェクトが広がった。クリティカル!!!!
画面に映るナーガが一瞬硬直した。削り切れたか。
永遠の思えるような一秒が過ぎて、ナーガの体が崩れ始めた。
画面にクリアの表示が出てファンファーレが流れる。9分55秒!!
『やったあああああああああああああああアアアあああああああ!!!』
『9分台!!!9分台!!』
『神はいたああああああ!』
『GODDDDDDDDDDDDDDDDDD』
『ガンナーで世界記録とか嘘だろおおおおおおおおおおおおお』
「やったぞ!!!やった!!!」
世界記録。そして絶対に不可能と言われた9分台。
口から何か声がでているが、自分の声か分からない。何を言ってるのかも。
『YOU ARE THE CHAMP』
『RECORD BREAKERRRRRRR!!!』
『おめでとおおおおおおおおおおおおおお』
『スゲェ!マジで』
色んな言語の祝福のメッセージがコメントバーを流れていく。
画面にはクリアの時のスコアとかが出ているが、其れはもう目に入らない。
明後日からまたブラック企業で残業祭りになることも、この世界記録をだしても社畜である自分が別に何も変わらないことも、今だけはどうでもいい。
この3か月にしてきた研究、そして練習が思い出される。
すべては世界記録を破るため。世界一になるため。そして愛用のガンナーの可能性を証明するため。
それが報われたんだ。もう思う遺すことはない。
そのくらいに嬉しい。最高だ。
そう。最高だ。ゲーミングチェアから立ち上がってこぶしを突き上げる。
我が人生に一片の悔いなし!
……記憶はそこで途絶えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます