第9話 弱いふりでわたしを騙そうたってそうはいかん!

その日、蜜羽は、かなり怒っていた。その理由は、依頼の手紙にあった。


『【黒魔術師】様

私は、酒井景子さかいけいこ、2年生です。実は、1年生の時、告白された一個上の先輩とお付き合いしてるんですが、DVが…酷いんです…。顔や、スカートの丈で隠れないところは、決して乱暴してきません。でも、後は、全身、傷だらけです。どうか、助けてください…。』




「そうか、これが、今日、蜜羽が機嫌の悪い理由か」


「はい。ですが、そうではありません」


「…?どういうことだ?」


「このに腹が立っているのです!」


「何故だ!?DVを受けているのだろう?助けてやらねば!!」


「この文字から、真意は伝わってきません。本当のことではないのでしょう。恐らく、DVを受けているのは、この女の、彼氏さんの方だと思われます」


「な!なに!?」


「この女、私を使って、更に、彼氏さんを酷い目に遭わせようと企んだのでしょう。この文字からの邪悪な気配、決して、嘘や冗談で出せる代物ではありません。わたしは、この景子と言う女を、自分の手で、懲らしめてやろうと思います!」





*****





「あ…あん…んん!!…あなたが…【黒魔術師】?」


「はい。貴女のお手紙、拝見させていただきました。とても、重大な事案だと思っております」


「…そうなんです…。私、毎日怖くて…」


「しかし、今の状態では、貴女を助けたくても、そうすることは出来ません」


「な!なんで!?…ですか?」


「相手の方の、お名前とお顔を存知ないので…」


「あ、あぁ、それ。なら、名前は、郷道昌充ごうどうまさみち。顔は、この人です」


そう言って、景子は、生徒手帳から写真を取り出した。


「…何やら…随分と皺が寄っていますね…」


「あ…そ、それは!DV受ける時、握ってるから!」


「ほぉ…。そうですか。殴られているのに、その殿方の写真を握っていらっしゃるのですか…」


「…ま、まぁ…」


「良いでしょう。そんな乱暴な殿方には、ちゃんと、罰を与えねばなりませんね。どのような罰を与えたいのでしょう?」


「え?選べるんですか?」


「今回のような、な事案に関しては、特別処置、ということで」


「じゃあ…蜂に襲わせる!!とか、出来ちゃいます?」


「…はい。可能です」


「本当ですか!?」


景子は、大袈裟に喜ぶ。そのはしゃぎっぷりに、ご立腹もいいところの蜜羽。


「ですが、条件がございます」


「じょう…けん…?」


「まず、昌充さんに、呪文を唱えさせてください。その後、貴女が呪文を唱えるのです。良いですか?順番を間違えたら、貴女の命はありません」


「えー!?な、なんでですか!?なんで、そんな危ない呪文…」


「より強く、貴女を守る為です。こうしなければ、貴女は、永遠に、昌充さんからDVを受け続けますよ?それで良いんですか?」


「…なら…仕方ないか…。はい。解りました」


「あ、その呪文を使うのは、校舎の裏庭で使ってください。誰もいない、静かな所で…。そして、まず、昌充さんに、この手紙の呪文を見せ、唱えさせてください。貴女が唱えては、絶対になりませんよ?良いですね?」


「はーい!ありがとうございまーす!!」





「…………」





去ってゆく、景子の後ろ姿を見送りながら、蜜羽は、何とも言えない怒りを噛み締めていた。弱い女を虐げるものを許さない風潮は高まってきてはいるものの、逆は、中々発見してもらいづらい。それが、現状だからだ。



「あの女…あの顔、パンパンにふくらましたっぞ――――――――!!!!!」


「…いつもの…蜜羽ではないな…」



イーグルズは、ことの大きさを、蜜羽の形相で知った。

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