第7話 危険な匂いのする依頼

この日、蜜羽は、新しい依頼の手紙を広げていた。


『【黒魔術師】様。

私は諸島楓もろしまかえでと申します。私、すきな人がいます。でも、その人には、すきな人がいます。解ってるんです。絶対、絶対、叶わないこと。でも、言うことさえ出来ない自分が、情けないんです。せめて、言う勇気だけでも、与えてください。お願いします。』


「…これは…」


「ん?どうした?蜜羽」


「感じませんか?イーグルズ。この女子生徒は、女子生徒に恋をしています」


「…そうか。蜜羽、お前は手紙からそんなことも読み取れるのか。さすが、この家系で一番の実力者だな…」


「これは、勇気を与えるのは簡単ですが、本当に、この方はそれだけを望んでいるのでしょうか?」


「と、言うと?」


「禍々しい怨念が感じられるのです。この、文字から…」


「…と、言うと?」


「…恐らく…恐らくですが…自分のお気持ちをお伝えになった後、この方は、この相手の方を連れて、その世に逝こうとしているのではないでしょうか?」


「なんと!?ならば、それは受けてはならぬ願いだな」


「それは簡単です。ですが、いつ、この方の我慢の糸が切れるか…解りません。それに…」


「それに?」


「それに、最悪の場合、この方と、この方のすきな方、そして、この方のすきな方のすきな方まで、あの世まで連れて逝こうとしている可能性があります。この禍々しさから読み取れる限り、時間は、そうはありません。何か、手を打たねばなりませんね」




*****




「あ!【黒魔術師】様!来てくださったんですね!!」


「貴女が、諸島さん…ですね?」


「はい!私に、勇気をください!!お願いします!!」


「……………」


「あ…あのぉ…」


「貴女が想いを寄せるのは、殿方ではありませんね?」


「!!」


一気に、楓の顔が青ざめる。


「わたしは、こんななりをしておりますが、本物の【黒魔術師】です。あなたの手紙の文字から、その程度のことは読み取れます。そして、貴女は、その方を道ずれに、あの世に逝こうとしている…違いますか?」


「なっ!そ、そんなこと!ありません!私は只、本当に勇気が欲しいだけで…」


「隠しごとは良くありませんね。今にもその懐から、ナイフが出て来そうですが…」


ハッとして、楓は胸ポケットから右手をさっと出した。


「ですが、貴女を責めるつもりは、毛頭ありません。なぜなら、貴女もまた、普通の恋をする女の子なのですから。それが、対象が同じ性である、と言うだけのこと。それだけで、今はまだ認められない風潮があるのは確かです」


「…なら…美波みなみを…美波を…私にちょうだいよ!!私は美波が中学の時からすきだったの!!それなのに、高田たかだくんが…美波にちょっかい出すから…美波は…ウブな子だから…私がついてなきゃダメなの!!美波は私のものなのよ!!」


「楓さん、話を、聞いてはくれませんか?」


「…………」


膝から、崩れ落ち、涙を流す楓。


「貴女に、特別に二つの呪文を授けます。一つは、貴女に使う呪文。もう一つは、高田、と言う少年に使う呪文です。どちらも、一度しか使えません。それを使わなければ、貴女は、一生、後悔することになるでしょう。どうか、私を信じて、この呪文を使ってください」


「…そうしたら…楽になるの…?もう…美波のことで…苦しまないで済むの…?」


楓は、涙ながらにそう問う。


「はい。大丈夫かと思われます。どうか、ご自分の幸せを、美波さんの幸せを、願って、使ってください…」


「……」


楓は、無言のまま、頷いた。

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