第6話 呪文って言うのはきっときっかけなんです
「みっつはー!おっはよー!」
「嘉虹弥。おはようございます。朝からお元気ですね」
「まぁね。これが私の一番いいところだから!!」
「はい。それは、誇って良いと思われます」
「今日だよー!!」
「何がでしょう?」
「おとといの数学の小テストの返却!!これで、結果残せなきゃ、また、やる気が無くなって、まただらけるかもぉ…」
「大丈夫ですよ。嘉虹弥は、頑張りました」
「蜜羽がそう言ってくれると、マジ、自信出るわ~!!!!」
ぎゅっ!!
「ひゃっ!!嘉虹弥、いきなり抱き着くのはやめてください。髪の毛が乱れます」
「…そうだねぇ…蜜羽の髪の毛は、綺麗だねぇ…。そのぱっつん前髪と、腰まである真っ黒な艶々の髪…………」
「…なんですか?嘉虹弥」
「切りたい…」
「!!やめてください!!それはれっきとした傷害罪に当たります!!」
「冗談だよ!!あはは!!蜜羽からかいやすい!!いつもは超クールなのにねー」
「人の心で遊ばないでください。(私の高祖母は遊びでこのお仕事を始めましたが…)テスト、良い点数が取れると良いですね」
「うん!!教室まで一緒に行こう!!」
*****
「じゃあ、テスト返すから、席着け―」
小林が、生徒達を席に着けとせかす。
その生徒の中で、ひときわソワソワ、ドキドキしている生徒がいる。
嘉虹弥だ。
もう、朝から、蜜羽をからかったり、元気だけが取り柄ー!だなんて明るく振舞っていたが、内心は、もう朝、4時に目が覚めてしまった。もう、朝から落ち着かない。学校へ出かけるまで、何度も時計を見て、早く進まないかと、イライラして、でも、これで点数が悪かったら…と思うと、急に行くのが怖くなる…。
そんな繰り返しの心情を、カラカラ空回して、登校したのだ。
そして、
「桃北」
「はい!」
「桃北、これくらい、いつも頑張れ」
「え?」
手渡されたテストは、点数の部分が折られ、見えないようになっていた。こんなことをされると、余計、見るのが怖くなるじゃないか…と、嘉虹弥は小林を少し恨んだ。しかし、いつまでも、折って置きっぱなしと言う訳にもいかない。
自分の席に戻り、何とか深呼吸をし、そぉぉぉぉっと、折り目を開けた。
≪89点≫
「!!!!!?????」
嘉虹弥は、わが目を疑った。そんなはずはない!いつも、いつも、1年生の時から、補習組の自分。最高点は、現国の54点。一応、バレー部に所属していたが、テストの後や、夏休みや冬休みなどの長期休みは、ほとんど、補習で部活に顔を出せない。
そのため、1,2年生からも、そんなに先輩扱いされていない。それは、勉強に飽き足らず、日頃のあっけらかんとした性格だったり、余り一生懸命さが伝わらなかったり、不器用であるが為、勉強はともかく、部活は、運動神経ないなりに、頑張っていたかった。イヤ、頑張ってはいたが、練習する時間を補習にとられ、どうしても、1,2年生にレギュラーを取られてゆく。
中には、マネージャーになった方が良いのでは?と言う生意気な後輩まで現れる始末だ。しかし、今回のこのテストで、嘉虹弥は自信を、ゆるぎない自信を身に着けた。それからは、部活でも、練習に身が入り、3年生と言う遅すぎ…イヤ、人生、遅すぎるということは無いだろう。これから、大学に行ったって、社会人になったって、この今の練習は決して無駄にはならないだろう。
「先輩…フローターサーブ、めっちゃうまいですね!全然取れないです!!」
息を切らした、後輩、
「正直、私のフローターサーブより、曲がるサーブ、見た事なかったです…。ちょっと悔しいな…」
「何言ってんの!私は、その100倍、悔しい想いしてんの!!つまんないこと言ってる暇があるなら、練習しな!!」
「はい!!」
(…なんか…私…充実してる…こんなの…高校3年間で、初めてだ…)
「蜜羽、お前の呪文、上手くかかったよだな…」
「はい。イーグルズ。わたしも、予想以上の結果です。とても、嬉しいですよ」
嘉虹弥は、汗を光らせ、また、フローターサーブの練習を繰り返す―――…。
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