第5話 努力に勝る呪文無し

「なぁ、桃北、この問題、どう解くの?」


とある男子が、数学の問題を手に、嘉虹弥に聞いてきた。誰も、


(桃北に聞いたって、解る訳ないだろ…)


(柴田くん≪←問題を聞きに行ったやつ≫頭おかしくなったの?)


クラスメイトは、冷たい視線で、嘉虹弥と柴田を見ていた。しかし―――…。


「あー…ここは、この公式を使って、xを当てはめるんだよ。それで、y二乗にすれば…」


「あぁあ!!そっかー!!解った!解った!サンキュー!桃北!!」


「「「「「えぇぇぇぇえええええええ!!!???」」」」」


「なんで!?なんで嘉虹弥が数学解けるの!?いつも補習補習の補習じゃん!!」


「なんでって、勉強したからだよ。当たり前でしょ?」


「イヤ、蒼崖なら解るんだよ。蒼崖なら!!でも、桃北だぞ!?お前、勉強嫌いじゃなくて、勉強と相性がもうとことん悪いだろ!?もう、犬猿の仲って言うか!!」


中依田なかよだくん…、人を馬鹿にするときは、アドバイスした問題が解けなかったり、間違ってたりしたらにしてくれない?」


「よし!見せろ!柴田!」


「お、おう…。これ…だけど」


「どうだ!?」


「…どうだ…とは、何でしょう?中依田くん」


「蒼崖なら解るだろ?この問題の答えがあってるか、間違ってるか!」


「では、見せてください」


蜜羽は、ノートを受け取り、目を通し、30秒で中依田に返してこう言った。


「答えは、合っています」


「「「「「えぇぇぇぇえええええええ!!!????マジでぇぇぇぇええええ!!!!!???」」」」」


「ほら見なさいよ。合ってるじゃない。中依田くん、どう責任取ってくれるの?」


「責任?」


「すみませんって言うとか、申し訳ありませんって言うとか、失礼しましたって言うとか、もう馬鹿にしませんって言うとか!!」


「…全部言ったことにしてください」




そして、担任が教室に入ってきて、生徒を席につくように促した。




「テストを始めるぞ。裏面にしたまま後ろへ配れ」


「「「はーい」」」


みんな、鬱陶しい、やるせない、出来れば、今すぐ帰りたい…そう思っている。その中で、滅茶苦茶燃えている女子が一人いた。


嘉虹弥だ。


嘉虹弥は、蜜羽の呪文により、勉強の虫となった。この小テストまでの4日間、嘉虹弥は勉強に勉強を重ね、努力を積み、それはもう頑張ってテストに挑む姿勢だ。


「はい!始め!」


先生の号令で、始まったテスト。嘉虹弥は、前のめりになり、黙々と問題を解いていった。その様子を、一番驚いて見ているのは、担任の、小林夏生こばやしなつき(男)だった。小林は、嘉虹弥の勉強嫌い、不真面目さ、おちゃらけさ、おバカ丸出しの性格に、いつも苦労していた。その嘉虹弥が、テストの4日前からとは言え、勉強に一心不乱にな取り組んでいる嘉虹弥が、涙ぐましいほど、輝いて見えていた。


「はい、終わり」


「「「あ―――――…!!終わった――――…!!」」」


クラスメイトが、やっと終わったと、ふかーい溜息を吐く。


みんなが、ワイワイと教室を出て、お昼を買いに行ったり、お弁当を持ってあちらこちらへ散らばってく中、1人、蜜羽の元へやって来た人物がいた。


嘉虹弥だ。


「蜜羽、蜜羽に言わなきゃいけないことがあるの!!」


「何かしら?嘉虹弥」


「私、いけない、と解っていながら、【黒魔術師】に頼っちゃったんだよぅ!!これで、良い成績残せても、意味ないよね!?これで、みんなに偉いって思われても、みんなを騙してることになるよね!?」


「それは、どうでしょう?これからも、勉学に励めばいいのでは?」


「え?」


「え?ではありません。ただ単に、これからも、皆さんの期待に応えるべく、嘘にもしないために、騙す事にもしないために、これからも、勉学に一生懸命、励めばいいのではないでしょうか?これほど、単純明快な解決策は無いかと思いますが…」


「…は…そう…そうだね。そうだよね!蜜羽!そうなんだよね!!あぁ!!何悩んでたんだろう?あ―すっきりしたぁ!!これで、点数良ければ、もう言う事なしだね!!」


「…そうですね。ですが…、点数より努力した、と言う経験が、これから生かされてゆくのではありませんか?」


「そ…っか…。そうだね。ありがとう!蜜羽!!」



嘉虹弥の笑顔は、それまで、見た事の無いくらい、清々しいものだった。

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