第2話 この高校で、【黒魔術師】が生まれた理由

蒼崖あおがけさん!ちょっと話があるの!!」


「頼みごとならお断りするわ。嘉虹弥かぐや


「えーどうしてー!?まだ何も言ってないよー!?」


「貴女は、解りやすいの。わたしのことは、普段、下の名前で呼ぶ癖に、頼みごとがあると、名字で…しかも付けで呼ぶから」


「…さすが蜜羽…よく解ってるね…。でも、頼みごとを、聞いてから判断しても、遅くは無いと思うの!!」


「いいえ。もう解ってる。どうせ、1週間後の小テストの勉強を教えて、とでも言いたいんでしょう?」


「…あたり…あたりなんだけど…でも、でも、…あたりなんだよー!!」


「貴女の文脈がよく解らないわ。どうしてそこでが入るの?否定すべき文脈ではないと思うんだけど…」


「やっぱりだめ?」


「だめ」


「…じゃあ、【黒魔術師】様に頼んでみようかな…」


「【黒魔術師】?まだそんな人を信じているのですか?」


「だって、恋が成就したとか、勉強に身が入ったとか、裏切った恋人が酷い目に遭ったとか…、もう学校中の噂だよ?」


「そんなものは、偶然の域を出る代物ではありません。それに、もしも、現実にそんな方がいたとしても、勉学については、自己の責任で、積み重ね、励んでゆくものだと、わたしは思いますが…」


「…みんな、蜜羽みたいな勉強出来て、生徒会長やって、バスケ部の部長までやって…なんて、そんな万能な人間ばかりじゃないのよ」


「そうでしょうか?わたしはわたしで、それなりに努力しています。そんな風にあっけらかんとして役についているわけではありません」


「そーなんだけどさー…。でも、器用でしょ?」


「そうですね」


「運動神経いでしょ?」


「そうですね」


「先生への接し方、自信あるでしょ?」


「そうですね」


「人を納得させる弁論術、持ち合わせてるでしょ?」


「それは、少し違います。持ち合わせていたのではなく、磨いたのです。そこは、誤らないでください」


「…。まぁ、蜜羽が信じてなくても、【黒魔術師】はいるのよ!手紙書いてみる!」


そう言うと、嘉虹弥は、蜜羽の席から離れていった。


「言いたいことだけ言って、ほとんどこちらの言いたいことは聞きませんでしたね…。イブリーズ」


「だな。あぁ言うやつの願いも叶えるのは、何だか気が進まん」


「ですね。ですが、これは、高祖母様の時代から続く、歴史あるお仕事。高祖母でおられる、蜜誉みつよ様は、悪も善も、このお仕事を引き受けておられました。【黒魔術師】の鑑です。多少、現代では、恨みや、憎しみに囚われなくなった、ご相談が多くはなってきていますが、広めたわけでもありませんのに、やはり、伝説は引き継がれ、残るものなのですね…」




そう。この、蒼崖蜜羽こそ、この高校の【黒魔術師】なのだ。


その本来の姿は、先ほど嘉虹弥も言った通り、学年(学校)トップの頭脳を持ち合わせ、生徒会長とバスケ部の部長をこなし、教師からの信頼も厚い。



そんな蜜羽が、何故、【黒魔術師】をしているのかと言うと、蜜羽の高祖母、つまりは、ひいひいおばあさんが、【黒魔術師】で、その力がもの凄かった、というのが、最も端的な理由だろう。その時、通っていた高校で、蜜羽の高祖母が、その持て余した術を使いたくて、で、相談に乗るようになったのが始まりだった。そして、代々、その【黒魔術師】の血筋は受け継がれ、今の蜜羽が【黒魔術師】を継承し、その高祖母が始めたを、未だに、やらされている。



そして、何を置いても言って置かなければならないのが、蜜羽の魔術が、高祖母の力を遥かに凌ぐ、ということだ。


高祖母、曾祖母、祖母、母は、度々、依頼を失敗に終わらせたが、蜜羽だけは、連戦連勝。失敗したことは1度もない。特に、懲らしめる系の依頼は、とことん、追い詰めるのが、すき…いや、力を注いでいる。まぁ、それ以外の依頼も、とことん、心情を捉え、解決の方法を考察するのだ。



そして、今日も、放課後、蜜羽は誰かに見られてもいいように、ピンクのマントを羽織り、ウサギの面をかぶって、手紙を回収するのだった―――…。

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