第2話 ナツの思い出

 ありえない奇病だと言われた。

 戦闘用人造人間にこんな事が起こるはずがないと。


 そう、僕たちは人間の遺伝子を改造して生産されている戦闘用人造人間だ。病的な因子は事前に排除されているので、一般的な人間に発症する遺伝病にかかるはずがなかった。


 でも、僕は違っていたらしい。そもそも、ゲノムが全て解読されているわけではないので、遺伝病が発症する確率はゼロではないというのが偉い先生の見解だった。


 具体的な症状としては筋肉が萎縮し衰えていく。


 元々僕は体が小さくて人造人間の平均値を大きく下回っていた。それでアレコレ検査された挙句、妙な遺伝病だと診断されたわけだ。


 もちろん、医療が発達している現代では、臓器は全てクローン再生ができる。心臓だって、手や足だって、何でも再生できるんだ。でも、この病気には難しいらしい。いくら筋肉を再生しても、必ず萎縮し衰えていく。病気の進行を遅らせたりすることはできるし、何なら心臓や他の重要な臓器を機械化すれば延命は可能なのだ。しかし、そんな体を持つ戦闘用人造人間は使い物にならない。


 僕には三つの選択肢があった。


 一つは、延命治療を受けて普通の人間として生きていくこと。しかし、この場合は国家に奉仕できなくなるため、莫大な医療費を支払わなければならない。自分がその負担に耐える収入を得ることは難しい。

 二つ目は廃棄処分とされる事。実際、機能不全が発生した人造人間の多くは廃棄処分されている。

 三つめは全身を義体化して戦闘に特化したサイボーグとなる事。戦闘用人造人間であっても、それでも人間の一部である事は変わりない。しかし、全身義体化をするとなれば、人間を辞めて兵器となる事を意味する。


 僕にとって選択肢は無いのと同じだった。


 せっかく仲良くなった彼女、赤い髪のハルカとはもう会えないだろう。戦闘用人造人間というかろうじて人間の範疇に入っていた自分は、機械仕掛けの兵器となってしまうからだ。


 圧倒的な敗北を喫していた背比べも、もう二度とやる事は無いだろう。そして全身機械化されたサイボーグは肉体の成長を待つ必要が無いので、即時戦場へと送られる。


 ハルカ……彼女は戦場に送られるまで数年の猶予がある。しかし、僕にはそれがない。


 赤い髪のハルカ……ハルちゃんとの思い出を胸に焼き付けて、僕は義体化を決意した。


 いつかまた彼女と会いたい。

 あの桜の木で身長を測りたい。


 全ては生き残ってから。

 宇宙の戦場で。

 数多の敵を叩き伏せて。

 

【まだまだ続きます】

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