第53話 ヨーロッパ転戦 ジュンの喜びと苦悩

 ポルトガルから2週間後の4月末。ジュンはフランス・ルマンにいた。ミュンヘンから来たばかりである。そして、だれもがジュンを祝福している。ジュンがパパになったからだ。かわいい女の子だ。名前をレイア(麗亜)と名付けた。スターウォーズのレイア姫から名前をもらった。携帯の待ち受けはレイアちゃんの写真になっている。見るたびにデレーとしている。メカの木村はしまりのないジュンを見て、笑ってばかりいた。

 予選は、スペンサーがポールポジションをとった。コーナリングはだれよりも速い。マルケルの膝のたたみ方をスペンサーは難なくこなしている。まだ、22才という若さなのにだ。前回のポルトガルの決勝でのうっぷんを晴らしている感じだ。

 1列目は、スペンサー・リンツ・クワンタロとH社・S社・Y社の3台が並んだ。クワンタロは、地元でポールポジションが取れなくて悔しがっている。

 2列目は、ハインツ・ミール・ジュンとなった。A社・D社・H社となり、各メーカーのエース級がベスト6に並んだ。

 3列目に、大倉・岩上・ルッシが並んだ。ルマンは中低速コーナーが多いので、この3人にも上位入賞できるチャンスはあると思われた。

 決勝は、スペンサーとクワンタロのトップ争いとなり、3位集団にリンツ・ハインツ・ジュン・大倉の4台がいる。

 レース後半、クワンタロがスリップダウンし、スペンサーの単独首位となった。タイヤがだいぶ摩耗していたようだが、5秒のリードがあり、余裕でチェッカーを受けた。フィニッシュすると、今までのうっぷんを晴らすかのように激しいガッツポーズを繰り返している。

 2位にはハインツが入り、3位には大倉が入った。A社のマシン2台が表彰台に上がるとはだれもが思っていなかった。ジュンはリンツと争っていて、ブレーキングでミスり、大きく膨らんだところを大倉に抜かれてしまい、4位に終わった。ジュンは驚異の二人の出現を認めざるを得なかった。

 年間ランキングでは、ジュンがトップ。2位にハインツ、3位にクワンタロ、4位にリンツが入っている。スペンサーは8位にランクインした。まだ3戦しかしていないので、先は見えない。


 夏のバカンス前の4連戦は、優勝者がめまぐるしく変わることになり、年間ランキングは混とんとしたものとなった。

 ジュンは表彰台にあがることはできても、なかなか優勝できなかった。かろうじて年間ランキングトップを守っている状態だった。スペンサーは、上位入賞かリタイアを繰り返している。まだ、タイヤをいたわって走るという発想はないようだ。チーム監督のデカルメは、もう何も言わないでいた。英雄スペンサーの孫なので、H社本部から

「大事に育てろ」

 と指示がきているようだった。

 4戦の結果は次のとおりである。

 イタリアラウンド   優勝 ルッシ    2位 ハインツ

                      3位 ジュン

 スイスラウンド    優勝 クワンタロ  2位 スペンサー

                      3位 リンツ

                      4位 ジュン

                      5位 ハインツ

 オーストリアラウンド 優勝 リンツ    2位 ジュン

                      3位 ハインツ

 ドイツラウンド    優勝 ハインツ   2位 大倉

                      3位 ジュン

 年間ランキングは、ジュンが119でトップ。5点差の2位にハインツ。3位にはS社のリンツ。僅差でクワンタロが続いている。この4人の中からチャンピオンがでると思われていた。  

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