第49話 別れ
日本ラウンドから1週間後、ミュンヘンでメルケル氏の葬儀が行われた。富豪であるメルケル氏にしては質素な葬儀だった。後で知ったことだが、レースに多額の出資をしていたので、会社や農場の負債が多く、どちらも人手に渡ってしまうということだった。
ジュンのチームは、メインスポンサーがいなくなり、事実上の解散となった。ジュリアは母親とともに実家を頼ることになった。ジュンは、住んでいたメルケル氏の別荘が売りにだされたので、住むところもチームもなくなり、ベルギーのハインツの家に居候をすることとなった。ハインツは、上海ラウンドは休んだものの、マレーシアとオーストラリアには参戦し、年間ランキング3位を得た。
ところが、オーストラリアラウンドの決勝後、とんでもないニュースがジュンにもたらされた。ハインツが、来年からMotoGPに新規参戦するA社のマシンに乗ることになったというのだ。表向きは、ハインツがA社のエースライダーになりたいと言ったということだが、後で姉の景子に聞くと、多額の契約金のほとんどが父親の借金返済のために使われたということだった。これで、母親が借金返済で苦しむことはなくなったという。ジュンはハインツらしい選択だと思った。
それ以上にショッキングだったのは、岡崎さんもハインツについていくということだった。どうやらA社移籍の条件としてハインツが言い出したらしい。電話で岡崎夫人に聞くと、
「KT社のチームは一新されるから、行くつもりみたいよ。今さら日本メーカーのチームには行けない。と旦那は言っていたわ。イタリアへ引っ越しだわね」
とあっけらかんに言っていた。相変わらず岡崎夫人は強い。ジュンは素浪人の身なので、(行かないで)とは言えず、なにか孤独感を感じていた。
翌日、ジュンのもとにH社から連絡がきた。ベルギーにいるなら一度遊びに来い。という誘いだった。
アルストという街にH社のファクトリーがある。そこでH社のチームマネージャーのアランとジュンは会った。アランはハインツのマネージャーをしていたので、ジュンとは顔なじみだ。
「 Welcome , are you fine ? 」
(ようこそ、元気でしたか?)
アランは愛想の良い笑顔でジュンを迎えた。
「 So so . There was no machine on which I get so I was riding a horse . 」
(まあまあですね。乗るマシンがないので、馬に乗っていました)
「 Horse ! There are many horseback riding club in Belgium . 」
(馬に! ベルギーには乗馬クラブがたくさんありますからね)
「 I was running through a country road slowly . I can't increase the speed . 」
(田舎道をゆっくり走っていました。スピードは出せないですけどね)
「 Why it's so . It's shaken off and if you are injured , it's serious . 」
(そりゃそうだ。振り落とされてケガでもしたら大変だ)
「 By the way , what talk is today ? 」
(ところで、今日は何の話ですか?)
「 It'll be test at a Spa next week . Wouldn't Jun like to take it ? 」
(来週、スパでテストが行われます。ジュンさん乗ってみませんか?)
「 Is it in a machine for H factory ? 」
(H社のマシンにですか?)
「 That's right . A machine for Marques spec . 」
(そうです。マルケス仕様のマシンです)
「 That's good . I thought I'd like to take it once . 」
(そりゃいい。一度乗ってみたいと思っていました)
「 Well , three people take it try a change . Giovanni of Moto2 and Mike Spencer of American super bike . The fact the rider who took out the best time , which is soon is made a second rider of Marques's team . 」
(実は3人が交替で乗ります。Moto2のジョバンニとアメリカスーパーバイクのマイク・スペンサーです。そのうちのベストタイムを出したライダーをマルケスのチームのセカンドライダーにするという話です)
「 Second rider of Marques's team ! 」
(マルケスのセカンドライダー!)
ジュンにとっては、願ってもないいい話だった。
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