第41話 イタリア ムジェロ

 5月末、ヨーロッパの一番いい季節だ。イタリアでは夜は遅く、9時過ぎでないと暗くならない。花々が咲き誇り、人々は夏のバカンスの話で盛り上がっている。

 ジュンはフィレンツェ近くのムジェロサーキットにいた。マイカーでも来ることができる距離だが、交通事故にあっては困るので、チームの車でやってきていた。ジュリアもいっしょだ。勝利の女神は心強い。

 ムジェロサーキットは、1kmを越すホームストレートと中低速コーナーで構成されている。どちらかというとKT社のマシン向きのサーキットといえる。だが、なんと言っても、ここはルッシのホームコースだ。予選日から観客席はルッシのイメージカラーであるイエローで埋め尽くされていた。

 予選は、セッティングがうまくいき、ジュンは5番手のタイムを出せた。ポールポジションは、Y社のクワンタロ。セカンドにルッシが入り、3番手にはS社のミロ。ジュンの両隣はD社のミールとザルケだ。カタルニアで二人にはさまれたのを思い出していた。3列目にH社が並ぶ。マルケル・岩上・ハインツがここにいる。ストレートの伸びが今ひとつのようだ。

 決勝日は晴れ。気温は30度。路面温度は40度にまで上がっている。ソフトタイヤではたれてしまう。多くのチームがハードタイヤを選択している。ジュンはチーフメカの岡崎と相談して、ミディアムタイヤを選択した。スタートダッシュをねらってではなく、ハードタイヤのマシンにスリップストリームでついていき、タイヤを温存し、後半でグリップを活かしたライディングをする作戦だ。特に、最終コーナーは超低速コーナーで、ここからの立ち上がりが勝負の分かれ目になっている。

 1周目、第1コーナーは、急減速を強いられる右コーナーだ。トップ集団は、無事通過したが、後方では接触があったようだ。何台かがコースをはみだしていた。ジュンは6位で通過した。ザルケに抜かれた。

 2周目、ホームストレートでは時速300kmを越す。ストレートエンドで減速をして80kmまで落とす。このブレーキングタイミングが大事だ。レース前半は、前にいるD社のマシンに合わせて、ジュンは走った。相手はハードタイヤなので、早めにブレーキをかけているように見えた。これなら楽に抜けるとジュンは思っていた。

 5周目、トップ集団で変化があった。ミロがルッシのインに入ったが、ブレーキングタイミングが遅れ、第1コーナーでオーバーランしていった。ジュンはこれで5位にあがった。

 10周目、D社勢がルッシにせまった。第1コーナーで、二人ではさんだのだ。ルッシは自分のラインがとれず、早めにブレーキをかけた。観客席は大きなため息とブーイングに包まれた。D社の2台は、トップのクワンタロにせまっていた。

 15周目、またもやD社勢がクワンタロに襲いかかる。右にミール、左にザルケが並ぶ。しかし、クワンタロはブレーキをかけない。いつもと同じポイント、もしくはそこよりも遅い。クワンタロは、勝負を受けたのだ。結果、3台ともオーバーランしていった。ルッシがトップに上がり、観客席は大いに沸いている。もう爆竹が鳴っている。

 20周目、ジュンはルッシに追いつくことができた。その後ろにマルケルと岩上・ハインツもついてきて、トップ集団は5台となった。

 23周目、ファイナルラップ。ルッシのトップはほぼ確定だ。問題は2位争いだ。マルケルがジュンのスリップストリームについている。最終コーナーの飛び込み。ジュンはインをとり、マルケルはアウトを選んだ。ジュンとマルケルのラインが交錯する。ジュンはアクセルを最大に回し、上体をカウルに沈めた。チェッカーを受けたが、横を見る余裕はなかった。

 電光掲示板を見ると、47の次に22があった。マルケルに勝ったのだ。表彰台ではルッシだけがやたらと目立っていたが、ジュンはマルケルに勝てたことで充分満足だった。

 MotoGPのランキング争いは、毎回チャンピオンが交代しているので、混沌としていた。マルケスが一歩リードしているが、クワンタロ・ルッシ・ハインツが続いていた。ジュンは5位につけている。


 次戦は初のスイスラウンド。未知のサーキットなので興味津々だ。

  ※注釈 スイスにはサーキットは存在しません。作者の創作です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る