第38話 ポルトガルラウンド MOTEGIの再現か

 4月に入り、GPサーカスはヨーロッパにもどった。ヨーロッパ緒戦は、ポルトガルだ。ポルトガルといえば、エストリルサーキットが有名だが、今回はポルトガルの南部にあるアルガルベサーキットだ。

 2008年にできた比較的新しいサーキットで、MotoGPが開催されるのは、昨年に続き2度目だ。ジュンにとっては初めてのコースになる。距離は4592mと、さほど長くはないが、アップダウンが激しくて、別名ハイスピードローラーコースターと呼ばれている。

 ジュンが印象に残ったのは、第1コーナーと第5コーナーで、下りからの急カーブだ。第1コーナーは下りからの右コーナーでSUGOの馬の背コーナーに似ている。第5コーナーは下りからの左カーブだが、左カーブは元々得意なので、ここで勝負をかけられるなと思っていた。フリー走行で、ハインツといっしょに走ったが、ハインツもこの二つのコーナーを勝負場所と思ったのか、周回ごとにラインを変え、自分のラインを見つけようとしているのがありありだった。

 パドックでは、ライバルチームなので、親しく話をすることはなかったが、目で話ができるようになっていた。義兄弟なのは、皆知っているので、遠慮することはないのだが、メディアが騒ぐので、その対策だった。姉の景子とはTV電話でよく話をし、ハインツの情報はそこから入っていた。

 予選は、Y社のクワンタロがダントツに速かった。前回での転倒がよほど悔しかったのか、気合いの入った走りをしていた。2位・3位にはD社勢が入った。登り坂に滅法強い走りをしていた。4位にはミロ、続いてマルケル・ルッシ・ハインツ・岩上そしてジュンだ。前回のトップ集団と同じメンバーだ。

 決勝は、25周。天候は晴れ.絶好のコンディションだ。

 1周目、全車クリーンスタート。集団は混乱なく、第1コーナーを抜けた。ジュンはKT社のベンダーに抜かれて10位につけている。ベンダーのチームはレッドKTと呼ばれている。今年新しくできたチームだ。

 5周目、第5コーナーの突っ込みで、べンダーを抜くことができた。すると、前にハインツがいた。まるでジュンを待っていたかのような走りだ。メインストレートにもどると、ハインツは左手でお尻を2回たたいた。いわゆる「お尻ペンペン」だ。レース解説者は、

「ハインツがジュンに後ろを走っていろ! と言っていますね。義理の兄弟だからですかね?」

 と話していた。しかし、ジュンはハインツが

「ついてこい!」

 と言っているように思えた。なぜかというと、昨夜の景子からのTV電話で

「 Remember MOTEGI 」

(MOTEGIを思い出せ)

 と言われたからである。MOTEGIのレースといえば、ハインツとランデブー走法をしながら陽動作戦で先行するマシンを抜き、ハインツが3位、ジュンが5位に入ったレースだ。それを再現しようというのか。

 10周目、第1コーナーでハインツが先行するD社のザルケに襲いかかった。インをおさえられたが、ほぼ並んで第5コーナーまで続いた。第5コーナーではハインツがインをとった。レイトブレーキングでハインツとザルケのマシンは大きく膨らむ。そのスキをついて、ジュンがインを抜けていく。これで7位に上がった。

 15周目、ハインツが後ろについてきたので、今度はジュンが仕掛ける番だ。相手はD社のミール。第1コーナーで横に並び、プレッシャーをかける。そして第5コーナーでインに入り、レイトブレーキング。先ほどのハインツと同じ走りだ。ミールはインに入れず、コーナーで大きく膨らんだ。そこをハインツが抜き去っていく。ジュンは7位のままだが、次の目標が決まって、意気揚々だった。

 20周目、ハインツは次の目標を定めた。S社のミロだ。第1コーナーで並び、やはり第5コーナーまでせって走っていた。ハインツがレイトブレーキングをかけたが、ミロはそれにつられなかった。いつもどおりのブレーキングポイントでハインツのインを抜けていく。ジュンもそれに続いてハインツを抜いた。6位にあがった。陽動作戦不発。作戦変更だ。

 22周目、第1コーナーでジュンはミロのアウトにラインを変えた。それをブロックしようとしたところをハインツがインに入った。やや無理な突っ込みだったが、そこはハインツのカウンター走法でコーナーを抜けることができた。ミロは、インにもアウトにもマシンがいるので、思うようなラインをとれず、減速するしかなかった。ジュンは6位をキープ。

 25周目、ファイナルラップ。最後のねらいは、レジェンドのロッシだ。第5コーナーでハインツがインに入り、ジュンはアウトに並ぶ。ハインツはレイトブレーキングでルッシにいどむ。ルッシはブレーキをかければジュンに抜かれるので、がまんしている。最初にブレーキをかけたのはジュンだ。ラインをインにかえる。ハインツとルッシはブレーキが遅れて大きく膨らんだ。そのままの順位でチェッカーフラッグを受ける。優勝は、ポールトゥウィンのクワンタロ。2位はマルケル。岩上が3位。ジュンが4位。最後の接戦を制したハインツが5位。6位がルッシだ。ハインツのチームがチームポイントのトップを守り、優勝はできなくても歓喜に包まれている。

 ジュンは表彰台を逃したものの満足の走りだった。ハインツの無言の協力があったが、走りで勝ち得た4位だったからだ。ピットにもどってくると、チームのメンバーから軽い祝福を受けた。チーフメカの岡崎さんからは、

「MOTEGIの再現でしたね。横に3台並んだ時は、ヒヤヒヤしましたよ」

と言われた。見ている人は、ちゃんと見ているのだ。


 次戦は、スペイン カタルニア。マルケルの母国でやたらと盛り上がるレースだ。

10万人以上の観客がやってくる。ジュンはワクワクしていた。

 

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